幼馴染「ねぇ…もうこういうの、やめない?」
「恋愛のランキング占めてる『幼馴染ざまあ』のやつ、きしょくね?」
俺の部屋のベッドに、大きく股を開けて座る彼女はそう言った。
「お前、何年なろう見てきたんだよ。そういうアレルギーなジャンルは、スルーするのが不文律だろ」
「いや、別に2人しかいないからいいじゃん。それに、なろうの闇深さをネタにするのって面白いし」
それは一理ある。
「でも、別に良くないか?俺はSFとか異世界転生のカテゴリーが好みで、お前はファンタジー専。『幼馴染ざまあ』ものにランキングを荒らされる訳はないから実害ないぞ」
「そういうのじゃなくてさ、タイトル見ただけで伝わってくるキモさが嫌なんよ。うちさ、スマホでなろう読んでるんだけど、ランキングページの1番上が恋愛カテゴリだから、ハイファンタジーカテゴリに行くまでに絶対目に入っちゃうじゃん?………うーん、言ってること分かる?」
つまり、どうしても恋愛カテゴリの作品タイトルが目に入ってしまうということか。
「そんなに気にすることか?」
「そりゃそうよ。あんたも異世界転生もの読んでるならわかると思うけど、主人公に作者自身のを投影して、そいつがモテまくって、おまけに最強みたいなやつ多いでしょ?」
「まあそりゃ、そういう界隈だし」
「それと同じで、『俺を好きにならなかった女は馬鹿wwwww!なんやかんやあって俺を好きになるけど、その時にはお前よりいい女と付き合ってるからwww自分の手で実らない恋にしてしまった事を一生悔やんどけwwwまあ、たまに股の味を確かめるくらいならしてやってもいいけどな!www』……みたいな拗らせ童貞の考えを多分に盛り込まれているのが『幼馴染ざまあ』ものなんだよ」
「そういう思想が透けて見えることが気持ち悪いってこと?」
「うん」
今更では?
「そもそも、それを書いてる作者にも、読者にも女で仲良い幼馴染いないでしょ?それなのに、なんの幻想を抱いてるの?ていうか、なんで幼馴染が可哀想な目にあって嬉しいの?」
「いや、知らんけど」
ヒートアップして立ち上がった彼女は、地団駄を踏みながら腕を振り回しながら主張を叫んでいる。
あんまりうるさくして下にいる母に怒られたくないのでそろそろ宥めたい。
「でも、読んだことないんだろ?それで文句を言うのは良くないんじゃないか?」
「2人しかいないんだから肩苦しいことは無しの方向で」
「あ、はい」
やや暫くして、彼女は怒りも幾分か収まったようで再びベッドに倒れ込んだ。
「あの…さ、あんたは『ざまあ』したいわけ?」
「え?」
「だから、あんたはうちを捨てて他の女のとこに行くのかって聞いてんの!」
「は?いや、急になに」
「どうなの?」
「え、いや………そんなことはない、かな」
「ふーん、どうだか」
彼女は顔を背けるように窓の外に目をやって、息を飲んだ。
「じゃあさ…
私たち、付き合わない?」