1話 なしよりのなしだろ
今年の4月山上高校に入学した。山上高校とは札幌市の外れにある山の上にある高校である。白塗りの壁にペンキを投げつけたような名前だ。幸せ万歳なの高校生活が待っている、と張りきる者もいれば白けている者もいる。私は中学校では運動部に所属していたが到底充実していたかといえばそうではない。高校生活では小遣い稼ぎをして趣味に費やし平和に送ろうと考えた。
「おい雅、なんか部活はいんのかよ。」「俺はバイトでもして趣味にふけるよ。」こいつは中学から同じで鹿島朋生だ、運動よし顔よし頭よしのリア充組だ。「そんなこといってたら華の高校生活をたのしめないぞっ。」「そういう鹿島はどうなんだよ。」「俺か!!?俺はなー、、どうだと思う?」「もったいぶらせるな。」「なんとテニス部に入るんだ。」「そうだったな、お前はスポーツ推薦だもんな」「へへーっ、そーいやこの高校いろんな部活あるから少しは覗いてみろよっ、どーせ暇なんだろ。」そう言いながら俺の肩を叩き軽快にどこかへいってしまった。「すこしだけ覗いてみっか。」私はアコギを背負い教室をでて8の字型に入り組んだ校舎を歩き始めた。私は業余を充実させるためバイトに勤しみ高校生活を送るつもりだ、鹿島みたいなスペックならそれは別だ、そういうわけでもないらしい。グラウンドでは野球部やサッカー部は青春を燃やしている。私は中学校で無駄に費やした時間が頭に入ってきた。8の字の校舎をちょうど一周するくらいに私は歩き疲れて部活も大半見終わったところだった。そんなとき玄関右手の廊下の奥にひとりひっそりと勧誘している女性と目があった。一つ上の先輩だろう、靴の色が青色だ。やけに勧誘に必死そうだった、あの場所では来る人も来ないだろう。そんなことを思いながら自転車に跨ぎ颯爽と坂をくだっていった。お腹が空いたので店に立ち寄った。私は優柔不断だ。そのため20分いることなどざらではない、私はこの日はメロンパンを買った、香ばしそうな見た目に惹かれたのである。店を出ると黒く長い美しい髪をなびかせながら坂の下の信号をわたっている山上生徒がいた。それは学校で目があった勧誘していた先輩であった。さっきは暗くて見えなかったが容姿端麗である。おそらく勧誘を諦めてもう帰ろうとしたのだろう。部室があるのは体育館よりの1階から3階までだ。あの部活は真反対の玄関側の一角だ。いったいなんの部活だろうか。
彼女もまた店に寄ろうとしていた。こちらを見ながら歩いてきた、店ではなく私に用があるようだ、暇を持て余しているようにでも見えたのだろうか「ねえ、あなたちょっといいかしら、私の部活にはいらない?」「えぇ、そんなこと言われても、、」「ああ、悪かったわね、私は2年5組の佐海江まりんです。撥弦部に所属しています。こんなところで立ち話もあれですから場所を変えましょう。」と言いながら私の手を引っ張りながら坂を戻っていくことになった。私はあっけにとられ学校までもどってしまっていた。
「ここが撥弦部の部室よ」と言われ案内されたのは玄関左手の突き当たりにある階段下の四畳半ほどのコンクリートの壁でできた部屋だった。そこにはエレキベースとウッドベース。机の上には雑誌が並べられていた。撥弦と言いながらも竿は2ほんしかない。「山上高校はね毎年冬にクリスマスライブがあるのよ。撥弦部の活動目標はそこでのライブ活動、と一応決まっているのよ。と言いつつね、部員はいないし、楽器は先輩方が持って帰っちゃってないのよね。」そう笑いながらいった。「なんで僕なんか誘ったんですか」「それはねぇ、雅くんが暇そうにしてたし背中に楽器を背負ってたからよ。重たそうだからうちの部室に置いてあげようとおもってね、はいこれ」そんなことを言いつつ僕に入部届を渡された。「なんで僕の名前が書いてあるんですか!まだ入るとも言ってないんですよ」「どうせすることないんだしいいじゃないの、ほらっ職員室いくよ」
僕は山上高校一年四組、宇高雅、一つ上の佐海江まりん先輩のおかげで撥弦部に所属することになった。