ケーンジくーん。あーそびーましょー。3
勇者の物語なんていうのは、往々にして勇者にしか装備できない専用の装備とか、勇者にしか使えない魔法だとか、そんなものが存在していたりするものだ。物語なんていうのはそんなもので、まあ、俺の父親にもそういうものがあったらしい。
あったらしい、というのは、俺はそんなもの見たこともないし、魔法だって使えるわけではないので、人伝に聞いたことしか知らないから、らしいとしか言えないというわけだ。
家族にも見せないのは何事か、と小さい頃は思ったものだが、よくよく事情を鑑みてみるとその専用装備なるものは現在我が家にはないらしいということがわかった。
父が魔王を倒した後、国の方に献上し、今は国の宝物庫にあるらしく、宝物庫には俺たち貴族でも安安と立ち入ることはできないのだ。だから父は今その装備を持っていないし、勇者のスキルを受け継いだ兄も持ってはいない。使えるのかもしれないが、使う機会がないのでわざわざ宝物庫から出すこともない、ということらしい。まあ、見世物にして万が一盗まれたりなんなりしたらたまったものじゃないだろうし、使う機会のない宝物は他の宝物と同様大事に奥にしまっておくだけ、というわけだ。
じゃあ魔法の方はどうなんだ、というと、父と兄曰く「あるにはあるが、今は使える状態ではない」ということらしい。勇者専用の魔法というのは発動するのにトリガーが存在するらしく、そのトリガーは「魔王」のスキルを持つものが存在すること、ということらしい。今現在魔王のスキルを持つものは確認されていないので、勇者の魔法も発動できないということだ。たぶん魔王専用の魔法もあって、発動条件も勇者専用の魔法と同じなんじゃないか? と俺は思っている。まあ魔王の魔法に関しては世間的に知られていないので、俺も知らないんだが。
つまるところ何が言いたいのかというと、城の宝物庫には勇者専用の装備が眠っている、ということなんだが。
俺は曲がりなりにも、こんなでも大貴族の一員なので宝物庫を見たことはある。中を練り歩いたことはないけど、少しだけなら入ったこともある。
正直に言って、本当はあってはならないことなんだが、俺の所見からして、あの宝物庫――アルクなら鍵開けられるんじゃね?
いや、俺には無理だし、開けられたからと言って別にどうしようというわけでもないけど、たぶん、あれ、開けられると思うんだよなぁ。
洗濯物が一瞬で乾く魔法なんていう生活に超密着した魔法なんかを覚えているアルクだが、もちろんそれ以外の魔法だってちゃんと覚えている。
俺の知る限り、探知の魔法も、鍵明けの魔法も、解除の魔法も、一通り覚えている。……あれ、アルクってもしかして超有能?
まあ、そのアルクの技能を持ってすれば、たぶん開けられる。
「どう思う?」
「まあ、魔法で開けたんじゃないかな。たぶん僕にだってできそうだし、僕にできるってことは他の人にだってできるってことでしょ」
俺とアルクは野次馬根性で、勝手に開けられていた宝物庫の扉の前にいた。
誰かが開けたわけではない。朝、城の警備の人が巡回中に開け放たれていた宝物庫を発見して、それがうちや学園にも伝わってきて、こうして野次馬根性で見に来たというわけだ。
城に入るのなんて俺は簡単に入れるし、俺の連れてきたアルクも将来有望な学生として城の人間に知られているので(プラス俺の友達、ということもあって)特に何も言われることなく城に入ることができる。
宝物庫の前は城の警備の兵士が物々しく行き交っていて、捜査の担当の人が魔法やらなんやらで犯人の痕跡を調べたりしている。
「何か盗まれたのかな」
「どうだろうな。俺は何も聞いてないけど」
「でも、わざわざ開けておいて何も盗まずに出ていくなんてするはずないと思うけど」
「それは確かに」
「宝石が一つ、無くなったみたいなんだ」
アルクと話していると、後ろからよく知った声でそんなことを言われた。
「兄様もここに?」
振り返れば、そこには書類を脇に抱えた兄が立っていた。
「兄様の管轄の話では無いのでは?」
「まあ、そうなんだけどね。一応ここには勇者の装備もあるし、ってことで駆り出されたんだよ。お城に強盗なんて大事だし、否やはないけど」
「ちなみに、盗まれた宝石っていうのはどういうものなんですか?」
俺と兄の会話に、アルクも入ってくる。
アルクと兄は俺を通して面識があり、兄は身分など対して気にするような正確じゃないこともあって、平民のアルクとも普通にしゃべる。まあ俺と普通に喋ってるのに兄とは喋らない、というのもおかしな話だしな。正直姫様も別に気にしなさそうではあるが、姫様は姫様で体裁というものもあるし。俺の体裁? ないよ、そんなもの。
「んー……魔力の籠もった宝石ってだけで、特別な何かがあるようなものではないかな。ミスリルを加工してネックレスにしているもので、高価といえば高価だけど、宝物庫の中で言えば下から数えたほうが早い価値のものかな。わざわざ入り込んでまで盗み出すようなものでは無いと思うけど」
脇に抱えていた書類から一枚を取り出して、そこに書いてある内容を伝えてくれる。
普通は教えてくれないだろうけど、俺がいることや宝石自体にはあまり価値が無いこともあって、大雑把な内容くらいは伝えてもいいと判断したのだろう。
「ありがとうございます」なんてアルクがお礼を言ってるのを聞きながら、何が目的なんだろうなーなんてことをのんきに考えていた。
だって、ほら、俺ってこの事件に関係ないし。……関係ないよね?