ケーンジくーん。あーそびーましょー。2
「エルマってさ、姫様のこと嫌いなの?」
教室の外で待っていたアルクにそんなことを聞かれた。
「なんで? 別に嫌いじゃないけど」
別に嫌いじゃない。まあ、だからといって好きってわけでもないけど。
「いや、だってなんか態度が冷たいというかさ。よそよそしいし? 幼馴染なんじゃないの? 一応」
「そりゃそうだけどさ。別に嫌いじゃあないし。幼馴染だからってめちゃくちゃ仲良くなきゃいけないわけでもないだろ」
「まあね。でも、ほら、姫様ってよくエルマに声かけてるイメージあるし」
確かに、俺は他の人に比べてよく話しかけられていると思う。それは幼馴染ってこともあるだろうし、大貴族の息子として声をかけておくべきっていうのもあるんだろう。話しかけられる内容は「もっと頑張れ」とか「私に勝てるようになってください」とか、そんな感じだ。
「まあ、幼馴染で男の俺が自分より下にいるっていうのが単純に気に入らないんじゃねぇの? 話しかけられるときももっと頑張れって話ばっかだし」
「ふーん……エルマがそう思うんならそうなのかもね」
なんて、アルクが不思議そうな顔をしながらそんな話をして、俺達は闘技場までたどり着いた。
闘技場っていうのは、人が1000人並んで入ってもまだ少し余裕があるくらいのスペースがある、文字通り武闘をするための頑丈な建物だ。もしも街に何かあれば、そこが避難所になるってくらいにはしっかり作られている。
今そこには俺達のクラスの他に後2クラス来ていて、合計100人弱くらいの生徒と、俺達の担任含む5人の教師が立っていた。今日はどうやら3クラス合同で訓練をするらしい。
「今日は予定を変更して、午前中は戦闘訓練をすることになった。今度の武闘大会に出る予定の生徒も多いだろうことから、改めて基礎の復習をし、己を見つめてもらう時間にしてもらいたい」
授業が始まってそうそう、担任がそんなことを言っている。
「自分を見つめ直す時間だってさ」
「何回見つめ直させる気だ?」
コソッとアルクと小声で話す。言ってはなんだが、担任が言ってることは結構な頻度で言われてることで、つまるところこの学園では基礎以上のことはあまり教えてはくれないのだ。
まあ、別にこの学園は戦闘に特化した学園ではないので、基礎以上のことを教えると言ったカリキュラムは用意されていないだけなのだが。それ以上のことは各自やりたい人間が自主的に学んでいるに過ぎない。
俺みたいに実家の影響で、とか、将来家を出てそういう道で食っていくなんて人間は自主的に勉強、訓練をして、この学園から更に戦闘特化の学園へ進学するやつだっている。
「準備運動の後、各自ペアを組み、基礎的な動きの確認から行っていく。まずは闘技場を2周走ってから準備体操だ。始め!」
担任の言葉に従って生徒たちが走り出す。歩くと雑談しながら走り、準備体操をする。何回も行っている作業みたいなもんだが、準備体操だけは真面目にきっちり行う。こんなところで怪我なんてしたらたまったものではない。
「何から始める?」
「んー……魔法の確認?」
「つっても何から確認するんだ?」
「僕新しい魔法使えるようになったんだけど」
「マジか。また覚えたの? じゃあそれからいこう」
俺達のいるこの学園は、いわゆる貴族御用達って感じの国立の学園だ。貴族以外をお断りしているわけではないが、入るには結構高いハードルがある。ただ、そのハードルを超えて入学する見返りは十分にあるので、平民はこの学園を目指して頑張っていあると言っても過言ではない。
そんな中で、この学園に入学している平民のアルクは、それだけで優秀な人間だと言う証明になっている。もちろん本人の努力が凄まじいのももちろんだが、こと魔法という分野に関しては、この学園でもトップの実力を持つ。
総合1位が姫様、2位が俺であるなら、魔法の1位はこのアルクになる。
この学園に入って図書館においてある魔導書のたぐいを読み漁り、自ら教師に志願して魔法の腕を磨いてきたアルクの腕前は本物だ。
「ちなみにどんな魔法?」
「洗濯物を瞬時に乾かす魔法」
「いや、その魔法いる?」
……まあ、その優秀な魔法の腕が主に発揮されるのは、こんな感じの生活感あふれるところなのだが。