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ケーンジくーん。あーそびーましょー。

 武闘大会だけど、何も今日明日いきなり始まるわけではない。まあ国中から人が集まるわけだから、準備期間はそれなりにあるのだ。それに、魔王が打倒されてから平和になった今、武闘っていうのは一種の娯楽だ。当然大規模な大会なら、それに伴う経済活動も出てくるわけで……。

 まあ俺には関係ない話だけど、つまりそれなりな準備期間があるということだ。だから昨日帰ってきていた兄や姉も、準備とは言うものの、具体的には身辺整理というか、仕事をしながらでも鍛えられる環境を整えるために一旦帰宅したっていう感じだ。

 だから今日からまた仕事に出かけているし、鍛錬とかも主には王城の方でするのだろう。家にいたって自分たちの相手になる人なんていないから、そっちのほうが効率的だし。

 俺は俺で、今日も学園が待っている。

 と言っても、ぶっちゃけた話学園で学ぶことなどあまり無いと思っている。俺はこれでも大貴族の息子でもあるので、幼い頃から家庭教師がついていた。だからほとんど学園で学習するようなことは既に学習済みなのだ。学習済みだからといってテストで満点が取れるわけではないのだが。

 ていうか総合で2位でも普通にすごくないか? 俺頑張ったくない? って自分では思わなくもないのだが。






「えー、テスト明けで体が鈍っているかもしれないし、近いうちに武闘大会も開かれる。だから今日は戦闘訓練をすることにした」


 朝一番、担任の教師がそんなことをいい出した。いつもどおりの予定なら、今日は座学の予定である。まあ座学でも戦闘訓練でも俺にとっては大して変わらないのだが。


「では、各自準備をして闘技場に移動するように」


 そう言い残して担任は教室を出ていった。戦闘訓練の担当でもあるから、自分の準備をしに行ったのだろう。

 教室には30人ほどの生徒がいて、急な予定の変更にブツブツ文句を言っている人や、戦闘訓練が好きなやつ、得意なやつがやる気を見せたりしている。


「やっぱ先生たちも今度の武闘大会に向けて気合入ってるのかな、エルマ」

「どうかな。先生たちに気合が入ってるのか、もっと上の人たちに気合が入ってるのか。なんにしろとばっちりを食らうのは俺達なんだけどな」


 そろそろ俺も準備をするか、というところで声をかけてきたのは、クラスの友人のアルク・クロマティだ。あどけない顔立ちの中性的な友人は、平民出身の秀才だ。少し大きめのだぶついた制服を身にまとっているのは、その制服がお下がりで自分の体格にあったものではないからだ。


「エルマは気合入ってないの?」

「負けるってわかってる試合に出させられるんだから、気合なんて入るわけ無い」


 アルクは学園に入ったときからの友人で、付き合いも長く俺のこともよく知っている。だから思わずこんなことを口にしてしまうが、まあ、学園ではアルクの前でしかこんなことは言わないのだから、大目に見てほしいものだ。


「ふーん、そうなんだ。まあ、勇者と聖女が出るんじゃねぇ……いくらエルマが学園で2位になったところで、その二人じゃ無理か」

「そういうこと。まあ、その二人だけじゃなくて全国から人が集まるらしいし、たぶん俺より強いやつなんてごまんといるよ」

「ま、そうだよね。既にこの学園にもエルマより強い人がいるわけだし?」

「しかもおんなじクラスにな」

「なんの話をされているのです?」


 アルクとそんな会話をしていると、俺達に近づいてきて声をかけてくる人が一人。

 この学園で既に俺より強い人。学園1位の姫様だ。


「他愛のない話をしていました。殿下にお話するほどのことではありません」


 俺がアルクの前に出て対応する。学園でアルクと俺は友人として対等に話しているが、それはあくまで俺とアルクの関係がそういう気安い関係になっているだけであって、この国の姫とアルクが気安く話せるという意味ではないのだ。


「……そうですか。お二人共、準備をなさらなくてもよろしいのですか? もう皆さん殆どは出ていかれましたよ」


 そう言われてちらりと周りを見ると、確かに教室にはほとんど人がいなかった。


「確かに、言われてみれば。声をかけてくださってありがとうございます」


 俺はそう言うと、アルクに目配せをする。俺の意図を読み取ったアルクは、自分の荷物を手早くまとめると「先に行ってるよ」と俺に声をかけてから教室から出ていった。

 俺も自分の席で荷物をまとめると、教室から出ていこうとした。


「あの、エルマ」

「……なにか?」


 後ろからかけられた声に振り返る。


「エルマも今度の大会、出られるのですよね?」

「ええ、まあ」

「その……」


 自分で声をかけておいてから何故か言いよどむ姫様。

 なにか言いづらそうにしているが、なんなのだろうか。


「お互い、頑張りましょうね」


 なにか言い出そうとして、止めて、結局姫様が口にしたのはそんなありきたりな言葉だった。


「ええ、そうですね」


 俺はそれだけ返して、今度こそ教室を出た。

 正直姫様が何を言いたかったのかはよくわからなかったが、本当はもっと別のことを言いたかったのだろうことは予想がつく。

 予想はつくが、それをわざわざ聞き出そうなんて気は起きないので、本人が言わないならそのままだ。

 姫様と別れた俺は、そのまま闘技場に向かった。

 ていうか、姫様が準備遅れるんじゃないか? あのままだと。

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