エルマは激怒した4
別に俺たち兄弟は仲が悪いわけではない。悪くなるようなきっかけはなかったし、兄も姉も悪い人ではなかったからだ。悪い人ではないというか、普通に良い人だったりするし、良いか悪いかで言えば、間違いなく俺が一番悪い人だろうなって感じだ。いや、俺が不良少年だとかそんなわけではないけど。
だからといって積極的に会いたい人たちか、と言われるとそうでもないのが俺の中での現実だ。
何しろ俺が腐っている原因の半分くらいはあの人たちの優秀さのせいなのだから、その張本人である兄や姉に積極的に会いたいという気持ちにはならないのだ。
「ただいま帰りました、姉様」
姉の部屋を訪ねて、そう挨拶をする。兄様に行くと言った手前、行かないわけにもいかないな、という思いから訪ねてきたのだ。
積極的に会いたいわけではないが、家族に会いたくないわけではないという思いもあったりして、結構複雑な心境だったりする。思春期とかいうやつは厄介なのだ。
「あら、おかえりなさいエルマ」
広すぎず狭すぎず、それでいて貴族の子女らしい部屋の中にいたのは、プラチナブロンドの髪を結い上げて、女性にしては高めの背をドレスに包んだ美女だった。まあ、俺の姉なのだが。
「兄様から家にいるとお聞きしたので、挨拶くらいはと思って参りました」
「そんなにかしこまらなくてもいいのに。でも、来てくれて嬉しいわ、エルマ。大きくなってからあなた、なんだかそっけないんだもの」
「そうですか? そんなことはないと思うんですけど」
そっけないというか、まあ距離をとっているのは事実だが。こっちだって何も好き好んでとっているわけではない。ただ、まあ、やっぱり気まずい思いというのもあるのだ。
「エルマ、あなたも今度の大会に出るのでしょう?」
「王様の命令は断れないので。本当は家でのんびりしていたかったのですが」
「まあ、そんなことを言うものではないわ。でも、そうね。気分が乗らないこともあるわよね」
なんて会話を数言交わしてから、部屋を後にする。姉は周りの人間と比べていくらかまだ物分りが良いというか、俺の実力をある程度ちゃんと評価しているところがある。だから、他の人間みたいにこの大会で「俺が能力を開花させて優勝する」なんて期待を持っていたりもしないのだ。
今度こそ自分の部屋に戻ってベッドに転がる。
お付きのメイド、なんてものは存在しない。正確には存在しているが、メイドからの視線が気になって仕方がなくて用事があるとき以外は部屋に入れないようにしている。
エルマ・ストライフ。俺の名前で、俺を表す記号だ。兄はリンク・ストライフ。父から受け継いだ「勇者」のスキルを持った、この国の若き勇者にして次代を担う出世頭だ。姉の名前はマール・ストライフ。母から「聖女」のスキルを受け継いだこの国の象徴になるべき人材だ。
そして俺は「英雄の息子」「勇者の弟」「聖女の弟」「兄弟の出来損ない」「英雄の出がらし」……「勇者」も「聖女」も、それに類するスキルの一つも受け継ぐことのできなかった凡人だ。
生まれたときから恵まれているのに、生まれたときから出来損ないだ。
何もないってわかっているのに、あの二人の息子なのだから、とか、あの二人の兄弟なのだから、とか、いらない期待がのしかかってきて、勝手に評価してくる。
期待通りにいかなかったら勝手にがっかりして、期待通りの成績を残したら両親のおかげ、兄姉のおかげ……まあ、今更だが。
そんな周囲に反発しようと思った時期もあったが、今はその気力すらなくなってしまった。そもそも出来が違うのだから、俺が何をやったって無駄なのだと、納得できない心がありながらも現状のままにしてしまっている。
息苦しい。
どうにかしたいのだ。
どうにかさせてくれ。
誰でもいいからさ。
支離滅裂なシリアスが書きたいわけじゃあないんだ。