エルマは激怒した2
俺は怒っていた。何に怒っていたかって、俺が武闘大会に出場することが勝手に決まったことにだ。
ルナマド天下一武闘会。まあ名前なんてどうだっていいんだけど、とにかく、ルナマド中から強者が集まってこの国で一番強いやつを決めようって大会だ。主催は王国。
俺はこんなものに出る気なんて更々なかった。結果が決まりきってる大会なんて出ても何も面白みもない。ついでに言えば負ければ馬鹿にされるとわかっているならなおさら出る気になんてなるはずもない。
それなのに、王様から直々に出場の命令が下ったら断れるはずもない。
どうして王様から直接そんな命令が下るかって、俺が大貴族にして英雄の息子だからだ。
父は勇者。母は聖女。その息子が武闘大会に出ないとは何事か、ということらしい。
長い廊下をコツコツと音を響かせながら歩く。
そもそも英雄の子供は俺だけじゃない。俺には兄と姉が一人づついて、その二人はとても優秀だ。
勇者のスキルを受け継いだ兄。聖女のスキルを受け継いだ姉。
とても優秀な二人も武闘大会に出るのだ。
それに比べて、何もない俺。両親から勇者のスキルも聖女のスキルも何も受け継がなかった俺は、言ってしまえばそこらの貴族のボンボンと対して変わらない素地しかないのだ。
もちろん俺だって努力はしたし、同年代の子どもたちには負けない自信だってある。でも兄と姉には一度だって勝ったことはない。ついでに言えば幼馴染の王国の姫にだって勝ったことはない。俺の周りには天才が多すぎる。
それでも、周りの人間は俺に優秀さを求めるのだ。英雄の息子としての優秀さ。この国の次代を担っていく優秀さ。兄と姉に劣らない優秀さ。姫を支えるための優秀さ。
なんで何もない俺にそこまで求めるんだよ。俺にあるのは「英雄の息子」なんていう望んでない肩書だけで、勇者のスキルだって、聖女のスキルだって、頑強な肉体だって、賢者のような知恵だって、何もないのに。
俺にできるのはただ努力することだけだ。ただひたすらに努力するだけだ。武闘だって、勉学だって、努力するしかなかった。
努力して、努力して、努力して……それでも、どうしようもないことだってあるのだと、もうわかっているのに。
壁に張り出されている学園の試験結果を見る。
結果は二位で、そんなことは見る前からわかりきっていたことだったが、ある種の期待を込めて覗き込んだだけだった。
500店満点で、俺の点数は495点。400点あればとても優秀と言われる試験で495点など、普通ならば手放しで称賛されてもおかしくない点数なのだ。
それなのに、二位。一位のところには500点満点をとったこの国の姫の名前が書かれている。
二位だ。決して悪くはない数字だ。それでも、俺はまた言われるのだろう。
「英雄の息子にしては出来が悪いな」
「また姫様に負けたのか」
「兄と姉はあれほど優秀だったというのに」
俺の何が悪いというのか。
才能がないのが悪いというのなら、そんなの俺だけじゃないじゃないか。
なんで俺だけこんなに言われなきゃいけないんだ。
正直逃げ出したいけど、逃げ出す勇気も度胸もない。
八方塞がりで、どうにもならない。
俺の人生、今後もこのまま過ぎていくんだろうか。
成績表に背を向けて、俺は自分の部屋まで歩きだした。