エルマは激怒した
エルマは激怒した。必ず仮の邪知暴虐なる王を取り除かなければならぬと決意した。
エルマには政治がちょっとわかった。エルマは貴族の子であった。更に言うなら大貴族にして英雄の息子であった。
父は神から「勇者」のスキルを与えられ、魔王を打倒した英雄だ。母は神様から「聖女」のスキルを与えられ父に同行した救国の聖女だ。
エルマはその二人の間に生まれた子供だ。貴族の教養として勉強をし、英雄の息子として鍛錬に励んだ。
エルマには一人の兄がいた。とても優秀な兄だった。勇者のスキルを継承し、幼い頃からその才能を遺憾なく発揮する天才だった。
エルマには一人の姉がいた。とても優秀な姉だった。聖女のスキルを継承し、幼い頃からその才能を遺憾なく発揮する天才だった。
エルマには何もなかった。勇者のスキルも聖女のスキルも、何もなかった。幼い頃から二人の兄姉と比べられ、出来損ないと評価される毎日だった。
エルマは腐っていた。英雄の息子として見られ、優秀な兄姉と比較される毎日に疲れ果てていた。
誰も自分を見てはくれぬ。自分の努力は誰も認めてくれぬし、自分の実力も認めてくれぬ。
明らかに周りの同年代の子どもたちよりも優秀なのに、国の大人たちのほとんどよりも優秀であるにもかかわらず、評価されないことに疲れ果てていた。
そんなときに、国の王が武闘大会を開くと宣言したのだ。
国中の優秀なものを集めて、この国で一番強い人間を決める大会を開くと。
エルマはこの大会に出る気はなかった。何故なら自分の兄と姉も出場すると言うし、自分の幼馴染も出るという。到底勝ち目もなく、負ければまた出来損ないと言われる、そんなことがわかりきっている大会に出る気など更々なかった。
と言うにもかかわらず、王からの命令で出場することになったのだ。
出たくはない。笑いものになりたくはない。しかし王の命令とあれば断ることもできぬ。
エルマは激怒した。必ず仮の邪知暴虐なる王を取り除かねばならぬと決意した。
しかし、どうしたらいいかは全くわからないまま、日々は過ぎていった。
過ぎていくと思っていた。
頭空っぽのほうが夢詰め込めるでしょ?