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90.直接依頼


 誰もペンでメモを取っているような人はいない。

 そろりそろりと物音を立てない様に小さな音の発生源を探す。


 シェイナー伯爵の魔紙を入れている箱からだった。

 どんな恐ろしい内容かと怖がりながら箱を開けると、一緒に入れておいたヴァリエンの小さな魔紙だった。



 至急依頼したい

 お願いだから早く来て

 楽しみが待ちきれない!

 


 なんだこの要領を得ない内容は……

 伯爵の魔紙に裏写りしてるかと一瞬寒気がしたが、そんな事は無かった。

 エルフの誘いを無下に断れないので、聞くだけ聞いてみようと全員で向かう。


 考えてみれば、ヴァリエンは古代遺跡の調査で通っていたのだ。

 石化モンスターと遭遇した事もあるかもしれないし、備えとしていくつか持っている可能性は高い。

 その購入先を教えて貰えれば助かる。


 前に小道具屋を何件か回ったものの、


 『そんな滅多に売れない在庫を抱える余裕は無い!』


 と、どこの店でも呆れられてしまった。

 石化モンスターの生息地は近隣には無いし、前は置いていたが売れないので取り扱いを辞めたのだそうだ。

 メリアも石化の患者を治すどころか、見たことも少ないと言う。

 昔は結構いたそうじゃがな、と付け加えていた。


 

 ヴァリエンの家のドアをノックすると素早く開いた。

 ドアの内側でガン待ちしてたのかもしれない。


 「随分待っていたよ! さあ早く行こう!

  あれっ? 何で馬車が無いんだい?!」


 目をギラギラさせて遠足前日の小学生の如く、楽しみで仕方ない表情をしている。

 既に大きな荷物を背負っていて、後は行くだけの状態だ。

 乱雑に本が散らかっていたはずの部屋の中は、引っ越し前日の様にガランとしている。

 目的地も何もわからないので、落ち着いて話すように言いながら椅子に座らせた。

 ヴァリエンは焦った様子で話し始めた。


 「目的地は、ここから旧街道を通って廃村を抜けて色々森を越えた……地図で言うとココさ!

  たぶん片道10日ってとこかな!

  そこに未知の遺跡があるんだよ!

  誰かに踏み荒らされる前の美しい遺跡を見れるチャンスなんて滅多にない!

  早く行かないと誰かに、いや、今にも誰かが向かっているに違いないんだよ!!

  ぐずぐずしていられない、さあいいだろう行こう!」


 早口で捲し立てるように言ったかと思うと、立ち上がって大きな荷物を背負っている。

 行きたくて仕方がない様子である。

 だが報酬を聞きもしないで行けない。


 「そんな事より依頼料はどうするんですか?

  タダで依頼を受ける程、ボクらは遺跡が好きなわけではないんです」


 「あぁ、そうだったな、金か!

  こんなものくれてやるよ!!

  家にあった本や金目の物を全て売っぱらってきた!

  正真正銘の全財産さ、それ以上出せないよ!」


 そう言って握りしめさせてきたのは、金貨4枚と小銭だった。

 前より少ないが、どうしたものか。


 「未知の遺跡となると準備を念入りにしないといけませんし、移動や拘束日数を考えると少なすぎますよ!

  足りない依頼料の代わりに、石化治療薬を頂けませんか?

  もしくは売ってる所とか教えてくれると……」


 「自分用のが2本はあるが、ストックはないよ。

  材料さえあればいくらでも作ってあげるし、私にできる事なら何でもする!

  これならいいかい!?

  私は早く行きたくて行きたくて我慢できないんだ!」


 その場でバタバタと足踏みをして急かしてくる。

 どうやら材料を知っていて調合方法も分かるようだ。

 それなら何もわからない現状より大幅な進歩だし、受諾する事にした。

 下手に焦らすと関係が悪くなりそうだ。

 馬車や荷物を取って来ると言って無理やり家に残してきた。



 またエルフの割に合わない依頼を受けるのか、とメリアやプレダールに愚痴を言われる。

 そうは言っても他に確実な石化治療薬の手がかりは無いし、エルフに恩を売りつけられるのだから元は取れる!

 半ば強引に依頼を受ける事を伝えた。

 2人とバーレンは呆れ返った顔をしている。

 ルティスだけは文句は無いようだったので少し好感度が上がった。



 ボク以外は休日中に色々と買い揃えていたそうで、準備は万端。

 食料だけ買い込んですぐに出発する事になった。


 シャリアが、馬車引くの楽しそうだからやりたい! とねだるので馬1頭と交代して引かせたが、他の馬とペースが違いすぎるので結局2頭売却した。

 金貨300枚で売れたので馬車代が少し戻ってきた。

 買取業者がいる大きな街で助かった。

 これで手持ちは金貨1400枚ほどだ。

 何かと出費がかさむので多いと安心する。


 シャリアの角が装飾品に見える様に、ブリンカーと呼ばれる馬の覆面のような物を買った。

 まるで本物の角が生えているみたいじゃないか! と馬具屋は上機嫌だったが、本物だから困る。

 黒いユニコーンが一般に知られていなくて良かった……


 

 ヴァリエンは待ちきれない様子で家の前をウロウロしている。

 馬が変わっていて気付かなかったのか、御者台にいるルティスに気付くと大声で走ってきて飛び乗った。


 「なんだい、この黒いユニコーンのような上等な馬は!

  随分早くて良いじゃないか、これなら早く着きそうだ!

  うふふふ…… 」


 さっそくトリップしたかと思ったら、5日寝てないから寝る!

 と言って毛布に包まって眠ってしまった。

 よほど楽しみにしていたのだろう。

 ちょっと可愛い。


 

 それからヴァリエンは6日間寝続けた。

 地図に印を付けておいてくれたので、恐らく道は合っているだろう。

 正に死んだように眠っているので、死んだのではないかと不安になる。

 時折ニヤニヤ嬉しそうにしているので生きているらしい。


 森の奥深くと言われたが、馬車が通れない狭い獣道ばかりで通れる場所を探すのに数時間かかった。

 依頼人は相変わらず爆睡してるのでいい気なものだ。

 シャリアは食事の時に人間に戻って食事をするので、バレる心配が無いのは唯一の救いだ。



 森の奥深くに入るほど生き物の気配を感じなくなり、不安の色は濃くなるばかりだった……


ブリンカーとは「遮眼革」ともいい、視界の一部を直接遮ることにより馬の意識を競走や調教に集中させ、周囲からの影響に惑わされずに走らせるために用いられる物です。


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