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9.初めての夕方


 ブチキレた若い女性と困惑してるオッサン

 傍から見たら悪いのは100%自分と言われるだろうよ。

 なぜなのか。

 ボクは落ち着いてもらえるよう、ゆっくりと喋る事にした。


 「できなかったものは、できなかったんだ。

  落ち着いてくれ。

  今日来たばかりで、なおかつ使ったのも初めてなんだ。

  知ってるわけがないだろう……」


 客観的な情報を与えて、まぁそれもそうか、と思ってくれる種を相手に植えて罵倒に耐える。

 悠里は冷静なら頼りになりそうな気が利く人だ。

 芽が出ることを祈る。


 ……数分ほっといたら落ち着いてくれて良かった。

 誰かに見られていたらあんまり良くはないけど、よかった。


 「頭脳明晰な悠里さんなら分かって貰えたと思うが、ボクの能力は誰かの能力をコピーさせて貰わないと何もできない無能だ。

  みんなと仲良くなれる名案はないか?」


   (何はともあれ褒めて伸ばせ)


 いつかの会社の上司も言っていた。

 褒めて伸びる子は多いから褒めておけと。

 聞いた時は、何当たり前の事言ってんだ? と溜息モノだったが、さてどうなるか。


 「そうね、アンタなんかと違って私は星4だから!

  優秀な私は、部屋のみんなと仲が良いし名案もあるわ」


 ちょろくてウケる。若いっていいな。

 名案があると言った割には考え込んでいるので、自分もパニクって頭真っ白になった。

 今後を考えて整理しなければ。



 夕方になるとソラルが迎えに来る。


・日本人5人にある程度の信頼感がないと、大鬼人オグル側と仲が良い戦争参加派、だと悪い印象付けてしまうだろう。

険悪になる前に友好関係を築きたいことを考えると、日も傾いて来ているし優先度は高い。


・早苗ちゃんの透明化も必須そうだけど、真っ黒大好き翼くんのスキル、飛翔とシェル2つ共気になる。


・悠里が修練場がどうとか言ってたな、魔法や他のスキルを使っても問題なさそうか聞くか?

いや、後でソラルに聞いた方が詳しそうだ却下。


・なんでセーラー服とかパジャマ着てる人いるの?

いや、そんなのいつでもいいや……



 あー、もう!

 泣いた女子高生に罵倒された影響で、頭が全然まわらねぇ!

 頭の切り替え早い人って憧れる。

 悠里が数回うなずいた後に、こちらを向いた。


 「早苗ちゃんは慣れれば話せると思うし、握手くらいならしても大丈夫だと思うわ。

 でも、翼くんはみんなで脱走計画を立てているから、手の内をある程度晒さないと友好関係を築くのは難しいんじゃない?」


 「脱走計画?!ここから?」


 「えぇ、晴樹はスキルを見れたから知ってると思うけど、彼は空を飛ぶスキルがあるから。

  このまま戦争に巻き込まれるよりは、夜にみんなで逃げ出そうって話をして計画してるのよ」


 確かに自己紹介の時に何か書いてたけど脱走って……

 こいつらは地図を見たことがあるのか?

 地図の尺度が詳しくわからないけど、目測との差で考えると一番近い街や村まで100kmクラスはある。

 翼くんが5人6人乗せても飛べるパワーがありそうに見えないし、飛行機や大きな騎獣を出せるわけでもないだろう。

 仮に100kmも歩くと言われて誰が賛成するんだ?

 食料や水の備えはあるのか?

 ダメだ、どう考えても頓挫する。


 「悠里は……いや、誰かしら地図を持っているか見たことがある人はいるのか?」


 「持ってないし、いないわ。

  ここから逃げればどうにかなるでしょ」


 ダメだこいつら、一番重要な部分でガバってるよ……

 確かに一週間で食料が尽きる城塞よりは、自由に冒険できる環境に身を任せるのも楽しいかもしれない。想像上は。

 ボクだって頭空っぽにして、未開の地へ冒険に出発だー! とか言いたいよ。

 楽しそうな気がするもの! その計画乗りたいよ!


 「ちなみにボクは午前中に地図を見た。

  詳しく覚えているわけじゃないが、最寄りの街まで100kmクラスあるぞ?

  翼くんは5,6人乗せて飛べる飛行機でも出せるのかい?

  出せないならほぼ徒歩だぞ?」


 まずい……

 現実を下手に叩きつけると逆ギレされる可能性がある。

 だがしかし、地図もコンパスも無しでは道に迷うのは確実なんだ!

 餓死は嫌だ。


 「さすがに翼くんも5人乗せて100km飛べるような能力じゃないはず。

  困ったわね……」


 「だろ? 次の戦闘まで2~3日と聞いてる。

  だからそれまでに次のいくさでどうにか勝つか撃退できるだけの戦略が必要なんだ。

  ボクだって人を殺したくないし血は見たくないし、せっかく異世界来たのにつまらない死に方は嫌なんだ。

  頼む、力を貸してくれ……」


 考え込んでくれて良かった。

 悠里は怒らなければ素直な良い子だ。


 「ちなみに夕方、さっきボクを部屋まで案内してくれた大鬼人……

  あぁ、鬼の種族の正式名ね。が迎えに来るんだ。

  何の為にかは知らんが、おそらく夕飯とかだろう。

  それ以降の予定も知らん。

  条件は以上だ。提案や策があるなら教えて欲しい」


 「夕方というのがアバウトすぎてわからないけど、後1時間前後だと思う。

  この城塞は時計で言う所の3・6・9・12時に鐘が鳴るの。

  3時の鐘は加速+がマナ切れで解除された、結構前に鳴っているわ」


 「えっ? あぁ、ほんとだ……」


 全然気付かなかった。

 スキルの効果時間やマナ残量に気を配る癖が無いと厳しいな。

 後1時間ほどで、仲良くしたい気持ちがカケラ程しか見えない人を少しでも説得する?

 ……無理だ。


 「じゃあ、ボクは城塞内の探検に行った、と、みんなに伝えてくれないか?

  そうすれば帰りが遅くても勘ぐられにくいはずだ。

  みんなの説得や今後の方向性は悠里を信じて任せる」


 「え? 午前中に案内されたわけじゃないの?」


 「ずっと戦況について聞いてました。

  デリンさんとソラルさんは見たことがあるだろうけど、その2人と文官のプレダールさんと3人で。

  そのまま昼食を食べて部屋に案内されたんだ。

  話は結構面白かったよ、親切に教えてくれたし」


 「……なるほどね。

  嘘っぽくなさそうだから信じてあげる。

  じゃあ後でね」


 「よろしくお願いします。では後ほど」



 未だに嘘を付くと疑われているのが謎でしょうがない。

 今まで嘘ついてないのに。

 しばらく考え込んでいたらソラルが来てくれた。

 天使のようなニコニコ笑顔が、さっきまで辛い思いをした心に染みた。


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