87.ユニコーン狩り
初めて回復魔法が使えた時、驚くスピードで草木が伸びた。
アレを敵が踏む場所に設置する罠のようなイメージで想いを込める。
「蔦よ荊よ 我らを襲う怒れる敵を 捉えて縛れ!
ソーン・バインド・トラップ!」
こう……手をかざして任意の場所が一瞬魔法陣っぽく光る方が格好良いのだが。
まだ複雑な遠隔マナ操作ができていないのか、光球が手にできただけだった。
雷冴に近くまで下がるように言い、ユニコーンと直線上の2~3m先の場所に光球を投げつけた。
スッと草木の間に沈み、円状に光って消えた。
たぶん……できてるはず!
「おい、何したんだよ?
なんにもならねーじゃねーか」
そうは言ってもユニコーンは2~30mほど先だし、追尾性能までイメージできなかった。
下手に回避されても次がすぐ出せるとも思えない。
ボクが魔法を外したと思ったのか、ユニコーンは急加速して接近してくる!
動かないように伝えると、おい本当に大丈夫なのかよ?! と雷冴は不審がっている。
マナは応えてくれる。
使った事のない魔法だけど、マナを信じる!
猛スピードでユニコーンは突進してきて罠を設置した場所を通り過ぎる。
その瞬間!
驚く早さで蔦や草木が伸びてユニコーンを雁字搦めにしていく!
それを振り払おうと頭を大きく振りながらもがいて進んでくる。
いくつかの蔦や荊が千切れたり伸びながら、どうにかボクらの少し手前で動きは止まった。
ユニコーンは敵意剥き出しにして鼻息が荒い。
足を必死に動かそうともがいているが、一度止まってしまった体はまるで動かない。
「おぉー! すげーじゃん!
こうなるなら最初から言ってくれよ。
もったいぶる奴だな」
使うのが初めてと言えなかっただけである。
不安にさせても双方得がない。
ぶっつけ本番が地味に強い自分とマナを信じた結果が、今回もどうにか成功した。
安堵の溜息をつく間もなく、雷冴はユニコーンに近づいて行き目をジッと見つめている。
数秒後、雷冴のマナが2割ほど減ったのが見えた。
「この蔦とか消してくれねーか?
もう大丈夫だと思うからさ」
確かに鼻息荒く敵意があったユニコーンの表情は、大人しくなっている。
マナに感謝しながら魔法を解除する。
「へー、なにそれ。
ちょっと格好良いじゃん。
魔法も面白そうだな!」
雷冴は嬉しそうに笑った。
そのままユニコーンの背に乗った瞬間、ユニコーンの表情はみるみる青ざめ泡を吹き出した!
そのまま角を変形させて頭を大きく振り、自分の心臓を突き刺し絶命した。
雷冴はあっけに取られている。
どうやら習性を知らなかったようだ。
ユニコーンの習性を伝えると、それなら教えておけよ! と怒り心頭だったが、スキル効果でどうにかなると急いで言い訳した。
試してみないと確かにわかんねーか……と考え込んでいる。
ボクは曲がったまま固まったユニコーンの角を根本から剥ぎ取り、ベルトに結わえ付けた。
ユニコーンの角=真っ直ぐなモノというイメージがあるが、果たして万能薬としての効果はあるのだろうか。
不安だ。
「スキルの練習不足かもしれねぇから、もう何匹かやってみようぜ」
追加で3匹挑戦したが、やはり同様の結果になった。
悔しそうに唇を噛み締めている。
ボクは角が増えて嬉しいけど。
最後に拘束後、自害しない様に真っ直ぐな角を切るとそのまま弱って死んでしまった。
「その角集めてるけど、何に使うんだ?
高く売れるのか?」
「いえ、魔法の触媒になるかもしれないので取っておいてるだけです。
高く売れるかどうかは知りません」
一応高く売れるかもしれないので半分ずつにしようと提案したが、邪魔だからいらない、と断られてしまった。
彼も結構お金持ちなのかもしれない。
今日のは弱い個体だったのかもしれないから、翌日もっと森の奥深くまで探索範囲を広げようと提案された。
周囲を見渡せる草原まで戻り、焚き火をして夕食にした。
久しぶりの野宿だから少し怖い。
いつもはみんなと一緒だったけど、今頼れるのは自分しかいない。
雷冴はいつも通りという表情なので慣れているのだろう。
1人で過ごす事で見える覚悟もあるのだと実感する。
肉を焼きながら醤油を使うと、雷冴は匂いで気付きアレこれ聞いたきた。
クレット男爵領で偶然手に入っただけで持ち合わせはそんなに無い、と伝えると残念そうだった。
やはり日本人は醤油・味噌に慣れ親しんでいるので焦がれる味なのだろう。
今回の依頼が終わったら少し分ける事を約束すると、とても嬉しそうな笑顔をしていた。
性格が少しスレているが、根は優しい日本人らしい人なのだと感じた。
肌寒さを感じて早朝に起きると、濃い霧が出ていた。
視界が2~3mほどしかないので不安になる。
雷冴が寝ていた場所を見ると、黒い大きな何かが覆いかぶさっている!
彼のMPゲージは緑色で埋め尽くされているので死んだわけではなさそうだけど、何なのだろうか。
近寄って確認すると、黒い螺旋状の角に漆黒の体、夜空のように星がきらめいた美しい鬣の馬だった。
ユニコーンの亜種か何かか?!
図鑑で見た覚えは無いのだが。
バイコーンに似ているが、バイコーンは角が2本あったはず。
小さな声で雷冴を起こすとパニックになった。
「おい、なんだよこの黒い馬!
お前のイタズラか何かか!
ぶっころすぞ!!!」
「さっき起きたらいたんですよ!
雷冴さんが捕まえたんじゃないんですか?!」
ボクらが言い争っていると、漆黒のユニコーンは落ち着いた様子で目を覚ました。
黒いのでもいいか、と雷冴は目を合わせ服従させて背中に乗ってみる。
暴れることなく落ち着いている。
雷冴は嬉しそうに鬣を撫でると、漆黒のユニコーンも嬉しそうに目を細めている。
ところでお前なんだよ? と答えを期待するでもなく漆黒のユニコーンに話しかけると、なにやら馬と会話ができている様子だった。
「は? なんだよそれ!
……どうして分かったんだよ!
……うっせー! なんだてめぇ!」
傍から見ると危ない人にしか見えないが、幻獣使いのスキルの効果なのかもしれない。
ボクは傍観するしかない。
雷冴が諦めたように、わかったよ、と呟くと漆黒のユニコーンは人型に変化した!
褐色の肌に夜空のような煌めく髪、耳が馬のように細長い。
長い尻尾も生えている。
服は秘所を隠すだけのような露出度が高い草木で編まれたような服を着ている。
野性的で美しい女性だ。
雷冴は照れたように目をそらしている。
それを見た元・馬の女性は嬉しそうに笑った。




