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80.初めてのクエスト受注


 2日後テスラヌに到着し宿を取った後、冒険者ギルドで酒を飲みながら周囲を観察し情報収集する。

 さすが大きな街だけあって、ギルドのフロアも広いし人数も多い。

 強そうなPTはスキル構成を見れば大体わかってしまうので、そういう意味でも能力解析は便利なスキルだ。

 4~5人のPTが多い印象だが、奥の一角には20名くらいで仲良く騒いでいる所もある。

 しかし、そんなPTでもエルフは1名しかいないようだ。

 リーダーのように皆に慕われている。


 魔法が強いエルフはどのPTでも欲しがると思うが、加入している所はほぼ無い。

 エルフ3人で固まって飲んでいる所もあるが、恐らく人間のPTを雇って攻略したりしているのだろう。

 そういう意味ではウチのPTは変わっているのだと再認識する。

 それでも仲良くできているのは、プレダールとメリアの性格の相性なのだろう。



 予想通り過ぎると言えばそうなるのだが、男のエルフ3人組に絡まれた。


 「おい、随分ここの席はくせぇな」

 「どこのエルフか知らねーが、よく座ってられるよな?」

 「俺らと一緒に飲もうぜ?」


 今までエルフと偶然出会ってこなかったからプレダールについて触れられなかったが、大鬼人がエルフ領にいるのはおかしい。

 目立たないようにフードをかぶらせているが、酔った勢いで取ってしまったようだ。

 バーレンとメリアに言われた事が脳裏によぎる。

 ナンパされたメリアが反論した。


 「お主らも随分弱い臭いがするぞ?

  エルフが寄って3人もいるのにCランクとは、カハハ!

  うちのリーダーはBランクじゃ。

  黙って去れエルフの恥が!」


 男エルフは3人揃ってバーレンの首に下がっているタグを見るが、バーレンはDだ。

 そりゃオッサンが1番偉いと思うよね……

 メリアに背中をドンッと叩かれ、もっと胸を張れ! と怒られる。

 そうだ、リーダーらしく振る舞わなければ!


 「あまりに弱そうなので人間と見間違えましたよ。

  そういう事ですので、邪魔をしないで頂けますかな?」


 少し気取ってタグを見せると3人は驚いて去っていった。

 メリアが吹き出しながら口を開く。


 「なんじゃ今のは!

  ダサくて顔から酒が飛び出るかと思うたぞ!」


 「大将、今のはちょっと狙いすぎですわ。

  慣れてないのかもしれねーけど、もっとドッシリ構えてくだせぇ!

  先日の伯爵との交渉くらい堂々としてりゃいいんです。

  ブワッハッハ!」


 つられてみんな笑ったが、ボクは知らない人に弱い所がある。

 いつも下っ端からスタートしていた人生経験から来ているのだろう。

 でも、それじゃPTメンバーを守れないのだと噛み締めた。

 リーダーらしく……難しいなぁ。


 

 Bランクの依頼表をチラッと見るが、1つしか無い。

 2週間前にファッシーナ王国で見た、蜜の森の捕獲依頼である。

 余程難しいのか割に合わないのか張りっぱなしだ。

 Cランクの依頼からメリアとバーレンに割が良さそうな物を調べてきてもらう。

 2~3分すると見比べ終わったのか帰ってきた。


 「我のオススメは、

  グールの100匹の掃討 金貨2枚!

  1匹につき銀貨2枚じゃぞ?

  割が良さそうじゃ」


 「メリア姉さん、そういうのは範囲攻撃魔法持ってるエルフがパパッとやっちまうから取らないんすよ。

  現地に行ったら終わってましたー、なんて事があるから損します。


  それに比べれば、

  バジェスティー寺院のゴーレム討伐!

  最奥の間まで依頼主を護衛する任務付きだが、金貨4枚だ!

  回復魔法使いが2名いますからどうにかなりますよ!」


 バーレンはドヤっているが、ボクとメリア頼みじゃないか……

 プレダールが口を挟んだ。


 「たかがゴーレムに金貨4枚は張り込みすぎじゃないですか?

  あんなすぐ壊れる弱っちぃ人形、大鬼人なら1人でパパッとやれますよ」


 プレダールは真面目に言っているのだろうが、その大鬼人が普通はいないのだ。

 副将軍のディグートがいれば本当にパパッと壊してくれそうな気がして噴き出してしまった。


 「うちには強くて可愛いプレダールさんと、賢くて美人のメリアさんがいるからな。

  ゴーレムくらい楽勝だろう、受けてくる!」


 受付で始めての依頼を受けるとメモを渡された。

 依頼主がいる場所で、詳しくはそこで聞いて欲しいと。

 指輪はまだどうにもなってないけど、始めての冒険にワクワクしてきた。



 翌日の朝食後、ゆっくりと依頼主の家まで歩いて移動した。

 慣れない街だが、しばらくは厄介になるだろうし地理を把握しておきたい。

 10分もしないで到着し、ノックする。


 「新聞も牛乳も間に合ってるよー、家賃催促もいらないよー」


 凄くやる気のない女性の声が返ってきた。

 依頼の件でと伝えたら扉が勢いよく開いて飛び出してきた。


 「いやー、貼って貰って10日も誰も来なくて諦めかけてたんだよ!

  ありがとう、さあ中に入って入って!」


 ヴァリエン=フィルドと名乗ったエルフの女性は、色の濃い金髪ロングヘアーに小さな丸いメガネをかけている。

 耳がピンッと立っているわけではなく、垂れているのが可愛い。

 身長はメリアより少し小さい160cmくらいか。

 部屋の中は少し本が散らかっていて、学者なのであろうと推察される。

 スキルは土の魔法1つだけだが、2つ魔法を取らないエルフもいるんだな。


 「おやまぁ同族と人間と……そこのちっちゃい子は大鬼人か、珍しいね。

  今お菓子とお茶を用意するから、その辺てきとーに座って待ってて」


 ニコリと笑って奥の部屋へ入っていった。

 大鬼人に寛容なエルフもいたものだ、個人差があるのだと勉強になる。

 室内は紙とインクとホコリの匂いが混じった、なんだかインテリな匂いがする。

 家具も少なく、実用性重視な人らしい。


 ほんのり甘い匂いと紅茶の香りがしてきたと思ったら、急いだ様子で奥のドアから出てきた。


 「あぁ、ごめんえーっと……エルフちゃん!

  ちょっと手伝って!

  お茶を乗せるトレーが見当たらなくってさ」


 パタパタと奥に入って、魔法でカップとお菓子の乗った皿を浮かせて2人で出てきた。

 さっそくこき使われたメリアは渋い表情をしていた。


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