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8.駆け引き


 「ごめんなさい。

  でも泣いたらなんだかスッキリしたわ」


 まだ赤い目でニコッと笑った。

 こっちは全然スッキリしないが、悠里の泣き笑い顔を見れたので良しとするしかない。


   (泣いた女に反論するのは愚の骨頂)


 またどこかの覚えてない先輩の言葉が脳裏をよぎった。

 合ってそうだからムカつく。

 悠里は少し申し訳なさそうな顔をしながら口を開く。


 「えぇと、何の話をしてたかな。

  ……そう、スキルの成長の話だったわね。

  さっきも言ったけど、最初は乗り気だったのよ。

  私は剣道部だったから本物の刀剣を持つのに憧れていた部分があるし、スキルもピッタリだったからね。

  それで調子に乗っていたんだと思う……

  この中庭で武器を振り回したり、修練場でデリンとか言うデカい鬼に褒められたりして」


 「デリンさんって人を褒めるんだな……

  すぐキレるイメージしかない」


 「えぇ、すぐ怒るけど剣の使い方や教え方は親身だったわ。

  ただ、剣道っていうのは1対1での戦闘しか考えないでしょう?

  大勢で戦うのは不慣れで全然ダメだった。

  だから、あの時あんなことになったんだわ……」


 さっきまで泣いていた割には冷静を装おうという気もあるのか真面目な話だ。

 思いついたことを喋っているだけ、みたいな印象もあるけど。

 相手に同調を添えて反応を見てみる事にした。


 「……確かに、刀剣一本で戦争ってのも辛いよね。

  戦国時代の日本でも、接近したら格闘だったり石投げたり泥臭い戦いをしてたみたいだから」


 ボクは敢えて「あの時あんなこと」という謎ワードをスルーした。



 (女の過去に、こちらから触れるのは厳禁。喋りたければ勝手に喋る)


 また別のどっかの誰かの教訓が脳裏をかすめたからだ。

 勝手に喋られたのにえらい目に合ったばかり、ほっとくに限る。


 「そうね、剣道をやっていたから別の攻撃をする発想が浮かばないの。

  そんなお上品な武術じゃすぐ死ぬぞ! って怒ってたもの。

  本当にその通りになったから、言い返せないけど……」


 デリンさんって意外と良い人?

 結局すぐ怒ってるけど、教えている内容は的を射ているようだ。


 「それで戦争中の戦いでまさに死に物狂い、いやまぁ死んだんだけどね。

  必死にスキル使って、死に戻った時に成長してたのに気づいたの。

  参考にならなくてごめんね……」


 死に戻ってもスキルの経験値は継続するのか。

 まぁ記憶がある時点で想定はしていたけど。

 復活スキルいいなー欲しい。


 「いや、貴重な経験談を教えてくれてありがとう。

  ところで、その無くなったスキルの場所は空白欄のようなものはある?」


 「え? えぇ、あるわ。

  なにかを閃いたり習得したら埋まるのかなって思って気にしてなかったけど」


 再度使うまでに時間が必要で使えないのではなく、本当に使い捨てで空欄があるのか。

 もしかしたらボクのコピー能力で付与できるかもしれない。

 今ポンッと思いついただけのことだけど、ついでだから試してみよう!


 「じゃあ、何度も悪いんだけど握手をしてくれる?」


 悠里は怪訝そうな顔をして握手をしてくれた。

 試しに、マナ貯蔵庫を相手にコピーするぞ! と強く念じた。

 コピーした時に、確かに少しピリッとした。

 これだったんだな、みんなが体験したの。


 「ちょっと! なにこれ!

  マナ貯蔵庫とかいうのが追加されたんだけど!

  勝手に入れないでよ!」


 また怒られた……試しただけなのに……

 良いスキルだと思うんだけどなー


 マナ貯蔵庫 自動発動パッシブスキル

 スキル所持者のマナ上限を3倍にする。

 


 「ごめんて!

  嫌だったらスキルをドラッグしてスワイプすればたぶん警告出て消せるから」


 「あ、ほんとだ……

  なに? 今のスキル。

  さっき言ってたのと違うじゃない!」


 「時田さんのスキルだよ。

  悠里はマナがそこまで多くないみたいだから、丁度いいかなって思って」


 「ふぅん……」


 なぜちょっとむくれる?

 女心は本当にわからんな。

 悠里はむくれながら左手を差し出してきた。


 「さっきの……能力解析とコピーだっけ?

  そのどっちか頂戴よ、そっちのが使えそうだもの」


 確かに、コピーを付与できれば追加スキル枠が5つ増える。

 でもそれインフレすぎない??

 ボクの消えない? 大丈夫? と不安になる。


 「いや、それはちょっと……なんか不安だし……」


 「いいじゃない、減るものじゃないんだし」


 「じゃあ、チューしてよ。減るもんじゃないんだし」


 「はぁ?! バカじゃないの! 減るし!」


 顔を真っ赤にしている可愛い顔を見れたし、誤魔化すことにも成功してよかった。

 チューされてもコピーをコピーできなかった時に困る。

 さっきの手をはねのけられて怒られた分はスッキリした。

 あ、そうだ!

 握手以外にも体に触れてもコピーできるかどうか試したかったんだ。

 刀剣適正(大)を指でスッと破棄して悠里の肩に触れてみる。


 ……おっ!できた!

 握手より少し時間はかかるけどコピーはされた。

 悠里は眉間にシワを寄せて恨めしそうに見つめてくる。


 「勝手になに?

  ちょっとピリピリしたの長かったんだけど?」


 「いや、ごめん……

  握手以外でもコピーができるか試したくて……」


 「それで、できたの?」


 勝手にやったから、ちょっと怒ってる……


 「アッハイ、できました。

  ご協力ありがとうございました……」


 むくれ顔で、んっ!っと左手を押し出してくる。

 協力してやったんだからスキルをよこせ! という無言の圧力。

 とぼける選択肢もあるが、まだ聞いてない事も多いし今後も協力して欲しいと思っている。

 一人でできることは少ない。

 万が一、コピーが無くなるとボクの今後は絶望的だが、それならそれでボクの代わりに戦争を頑張ってもらおう。

 丸投げだ!


 握手をし、コピーをコピーしようと強く念じてみる。

 ポーンッとエラー音が聞こえる。


   『対象の容量が不足しているか不正です』


 じゃあ、ついでに能力解析の方をコピーさせてみよう。

 ……できたっぽい。


 「ふぅん、能力解析の方なのね。

  あぁ、確かに晴樹の言ってたスキル構成に間違いはないわね。

  少しは信用してもいいわ。

  えっ? アンタ星3なの?!」


 今ようやく少しの信用を得たのか。

 おかしい、もう結構な信用を稼いでいると思っていたんだが。

 ここぞとばかりに自分よりレア度が低いことを馬鹿にしてくる。


 「えっと、怒らないで聞いてね?」


 「やだ怒る」


 「……コピーをコピーしようとしたら、エラーが出てさ。

 対象の容量が不足しているか不正です。って」


 「なに? 私が悪いわけ?!

  私がアンタより馬鹿ってこと?

  どーゆうことよ?!」


 信用されようと、なるべく手の内を晒したら地雷を踏んでいた。

 何を言ってるのかボクにもよくわからない。

 後になって教えてもどうせ怒るだろうし……もういいや。


 今日だけで、いくつの地雷を踏んだんだろう?

 まだ1日も経ってないのに……


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