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72.漁村視察


 翌日から漁村のような街に出て、男爵領の財源となりそうな物を探す事にした。


 先代男爵の日記の内容からすれば、残りの書籍に今後のヒントがありそうなのでお礼はするべきだろう。

 昨日帰ってきていないバーレンの事も気になるので、ルティスが同行してくれる事になった。

 プレダールとメリアは、こんな奴と2人っきりなんて嫌だ! と騒いでいたが給金を減らすと脅したら渋々納得してくれた。

 やはりお金はあった方が良いと実感する。

 

 

 海に近づくにつれ、赤い壁の家が多くなってくる。

 近くで見ると、つぶつぶしているので塩だと思うがピンクや赤だったりしている。

 ルティスに聞くと、少し恥ずかしそうにした。


 「すいません御主人様。

  この辺りの海だけのようですが、海水から塩を作ると赤くなってしまうんです。

  だからほら、塩田も真っ赤になっているでしょう?」


 指差した先にある塩田は、見事に赤い。

 段々畑のようになっている塩田が、徐々に赤に変化していくのは美しく思えた。

 恥ずかしい事など何もないと思うのだが、理由を聞くと意外な答えだった。


 「ここの海はかなり遠浅の海底になっていて、しかも海底が泥のようになっているんです。

  それが混ざっているから汚くなるんだろう、って男爵様は否定的なんです。

  だから何度も何度も溶かしたりしたりして白い塩にします。

  その手間暇や燃料となる木材が莫大にかかるので利益が薄いのです」


 塩と言えば、生きるのに欠かせない物だし儲かる物だと思っていた。

 売り物にならないなら漂白するしかないのだろうが、味は赤いままの方が美味しいと言う。

 ファッシーナで買った茶色い岩塩は家畜用だと言っていたが、そういう事なのかもしれない。

 泥が入った塩と比べたら、確かに白い方しか食べたくない。


 「アタシも元は下町の人間ですが、身内贔屓ではないと思うんです。

  御主人様も舐めてみてくれませんか?

  泥の味なんてしませんから……」


 少し困った顔をしたルティスが頼んできた。

 美人にそんな表情をされて断れる男は、そういない。

 製塩所の一角にある、できたての赤塩を舐めてみる。

 塩辛いだけではなく、旨味というか苦味というか複雑な味がする。

 元の世界で岩塩を初めて舐めた時のような印象を受ける。

 確かに真っ白なだけの塩より美味だと思ったので、感想を伝えるとルティスは嬉しそうに笑った。


 しばらく歩いて回っていると、バーレンのような男が漁をしているのが見えた。

 手を振ってきたので本人のようだが、何をしているんだろう?


 「大将、本は一段落したんですかい?

  俺はあんな綺羅びやかな屋敷で油売ってるのが性に合わなくてよ。

  漁の手伝いとかして小銭を稼いでんのさ。

  大将もどうだい?」


 海水に濡れたバーレンは海の男のように爽やかで豪快に笑ったが、ボクには合わないと伝えて退散した。

 正直、海は好きだが泳ぐのは好きではない。

 怪しげな企みをしているわけでは無い様なので一安心した。


 他にも何か特産品になりそうな物はないかと街を案内されていると、ほのかに嗅いだ事のある匂いがする。

 これは……醤油だ!

 濃い匂いだから間違えているかもしれないが、独特のツーンとした感じがする。

 匂いの方角へ走って行くと、海辺の近くでいくつも樽を置いて黒い液体をドバドバと垂れ流していた!!


 そんな勿体無い事をされては困る!

 そう思って反射で俊敏強化を行い駆けつけていた。

 今までで1番早かったかもしれない。

 ルティスが走って追いかけてきている。

 捨てるのを辞めさせて話を聞いた。


 「あぁ、アンタが噂の男爵様のお客人か。

  こんな所まで来て物好きなこったね。

  これさ、近くの森まで猟に行ってるヤツの樽なんだ。

  もう10日も帰ってこないから死んだと思って家を整理してやってんだけど、これがクセーのなんのって。

  だから穴掘って捨ててんのさ」


 樽の蓋を開けたら確かに、とてつもないキツイ臭いがする。

 保存する用だったらしい魚が腐敗している。

 だが、少し舐めてみると強い塩味の中に醤油のような旨味がある。

 魚から作る醤油、魚醤ぎょしょうがあると聞いた事があるが、これがそうなのかもしれない。

 これだけ臭ければ普通は捨てるよな、と納得するくらい臭いので舐めたボクを周囲は気味悪がっている。


 全て買い取りたいと申し出ると、無料であげるから片付けておいてくれ、と言われた。

 ルティスも嫌な顔をしているが、これは一大ブームになる可能性がある。

 基本は塩とハーブと酢で味付けされた蛋白な味付けの世界だ。

 油やトマトソースなど多少のバリエーションはあるものの、強い旨味成分のある調味料を異世界に来てから食べた事はない。


 作る材料に多少の研究は必要かもしれないが、作り方を秘匿すればこんな真っ黒の液体をどうやって作るか見当もつかないだろう。

 屋敷まで持って帰って調理したいと言うと、ルティスから汚物を見るような目と表情をされる。

 街で荷馬車を借りて屋敷の離れの物置小屋に運んでくれた。



 網目の荒い布と細かい布を使って魚醤を濾し取る。

 残った魚の残骸も醤油の臭いがしたので、少量のお湯で煮出して濾し取る。

 味が濃すぎるのと薄いのが出来上がったので、両方を合わせたら丁度良い塩梅の醤油が出来上がった。

 念の為、もう1度火にかけて醗酵を止めておく。

 味は若干違うが、醤油の方が言いやすい。


 クサい臭いを何事かと思ったメイドが数人近寄ってきたりする。

 丁度昼時になったので肉と魚を持ってきて貰うよう頼み、フライパンで焼いて醤油をかける。

 焦げた醤油の音と匂いが食欲をそそる。

 元の材料を知っているルティスは嫌な顔をしたが、美味しそうな匂いがしてきましたね? と興味を出してくる。


 一口食べると、醤油とは少し違うが味は格別である。

 美味しそうに食べているのを見たルティスも一口食べ、驚嘆している。

 面白がったメイドも数人食べて絶賛している。

 これなら商品になるかもしれない。


 でも、腐敗した魚から作られたと知らせると吐き出しそうなので内緒にした。


魚醤ぎょしょうは、うおびしお、と読む事もあるそうです。

Wikipediaに、ぎょしょう、と書かれていたのでそちらを採用しました。


赤い塩田は、サンフランシスコ湾の塩田など、世界の一部にて塩分が高くなると高度好塩菌が優勢になり赤色になる塩田があります。

この世界は、そのまま赤く色素が定着しミネラルが豊富的な感じです。

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