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7.中庭の密談


 「ここに座りましょう」


 小谷田は先にベンチに座ったので、一人分の距離を空けて左側に座る。

 ほどよく日陰と陽射しが入り混じった場所……良い天気だ。

 しかも相手はセーラー服を着ている。

 ジャージ上下のオッサンとセーラー服……シチュエーションだけ考えれば通報事案になってもおかしくない。

 できればこのまま他愛のない会話をして小さな幸せを実感したいが、そうもいかないのが不幸だ。

 考えても始まらないので、さっそく相談を投げかける事にした。


 「単刀直入に言うね、ボクのギフトは能力解析とコピー。

  小谷田さんの能力は刀剣適正(大)と加速+でしょ?

  それについて1ヶ月先輩に色々教えて欲しいんだ」


 自分の能力を見られたことを知ると、座っている場所がスーッと離れた。

 そりゃ警戒するか……

 訝しんだ表情で、返答してくれた。


 「部屋の人にもほとんど教えていない私の能力を知ってるってことは、確かに何かしら知る能力を持っているってことかしらね」


 「ボクは嘘をついていないよ。

  みんなと仲良くしたいんだけど、まずはリーダーっぽい小谷田さんに信用されたいんだ。

  5人全員分の能力を今言ってもいい。

  それで証明になるかな?」


 「私も全員知ってるわけじゃないから、フェアじゃないわ。

  ……そうね、早苗ちゃんの能力を言ってくれたら信じるわ。

  あの子は私にだけの秘密と言って教えてくれたから」


 「透明化と消音の2つだ」


 小谷田は黙って何か考えている。

 どこかから大鬼人オグル側に漏れた可能性や、他の能力なのに詐称している可能性など信用に値するかどうかの線引をしているのか。


 「そうね……アナタはちゃんとこちらの条件を飲んでいる。

  バカっぽく見えるけど会話のロジックは正常だわ。

  むしろ頭が良いくらい」


 頭が良いなんて初めて言われた!

 しかも可愛い女子に褒められるなんて異世界最高かよ!


 「その、考えていることが表情に直結している所は、直した方がいいけれどね」


 軽く笑いながら、さっき離れたより近くの距離まで近づいてきた。

 少し動けば肩が触れ合うくらいだ。

 現実世界だったらボクは逃げ出していただろう。

 痴漢だ誘拐だの騒がれ警察に連行されてはたまらない。

 そんなボクの心配も知らず、小声で話を続けてきた。


 「鬼の側には教えたの? 色々と厄介になるわよ」


 「いや、誰にも言ってない、相談できる時間も無かったし。

  小谷田さんが最初さ」


 「……そう。私のことは悠里でいいわ。

  中庭はあいつら滅多に通らないけど、念の為小声で加速+を使って話しましょう」


 顔近いよ!

 若い女性耐性が低いボクには、違う意味でハードルが高い!

 二人でギフトと小声で言って加速+を使う。


 加速+ 任意発動アクティブスキル

 使用者の身体機能を2倍速にする。

 使用中はマナを消費し続ける。

 ただし、使用者の体から離れた物体は等速に戻る。


 「これなら万が一誰かに聞かれても全ての情報は漏れないでしょう。

  使ってるの忘れて真帆に話しかけたことがあるけど、何言ってるのか全然わかんないって困惑されたし。

  周囲の話す速度が1/2になるから遅くて辛いのよ」


 なるほど、良い事ずくめってわけでもないんだな。

 でもマナの緑色のステータスバーは減るのがゆっくりだ。

 コスパとしては強いスキルだと思う。


 「それで、ゆう……り……さん、に色々聞きたいんだ。

  スキルの横に(大)とか+って付いていたのは最初からだったの?」


 「ハァ……悠里だけで良いって。

  いえ、使い続けたら強化されていったの。

  最初は刀剣適正(中)だったし、加速も+なんて付いてなかったもの」


 いやいや、若い女の子を下の名前で呼ぶのも躊躇ためらうのに、呼び捨てとかハードル高すぎんだろ!

 でも凄く有効な情報だ。

 スキルは使えば経験値が貯まって強化されるタイプなのか。

 ……ん? でも他の人は誰も何も付いてなかったよな?


 「じゃあその……悠里は、星4だからスキルが強化されたのかな?

  他の人は誰も強化がついてなかったから気になってね」


 「レア度まで見えるって晴樹の能力ずいぶん強いわね。

  たぶん、スキル強化される程みんな使い続けてないのよ。」


 うおっ!

 セーラ服女性に下の名前呼び捨てにされたよ!

 なんかイケナイ事してるようなモヤモヤした気持ちになる。


 「でも星4でスキルが2つって何か変だなーというか」


 「そうね……レア度と能力まで全部バレてると誤魔化しきれないわね……

  仕方がないわ、絶対に誰にも教えないでよ?」


 「え? そりゃ教えるつもりはないけど……」


 「本当はね、再会の願いって名前のスキルがあったのよ。

  効果は使い捨ての死に戻りだった。

  戻ったのは死んだ1日前だったけれどね」


 クッソ強いじゃん!!

 っていうか、使い捨てだとしても死に戻りみたいなインチキ効果が付く可能性まであるのか。

 ガチャもっとバンバン回した方がいいんじゃねーの?

 重くなった表情の悠里が、少し間を置いて続けた。


 「初対面で言った、みんなを戦争に巻き込んでしまったのは私だったのよ。

  あいつらに良い用に使われただけで……みんな死んでしまった。

  逆上して特攻した私も死んで、何も無かった日常に戻って来たってわけ……」


 まずい、若い女性を泣かせてしまった……

 申し訳無さで頭が一杯になる。

 イケメン主人公なら、辛かったな、とか言って頭を抱き寄せてヨシヨシしたりするシーンなんだが、そんな度胸はない!

 イケメンじゃなくて選択肢が無いとはこの事だ。


 「みんなも戸惑っていたわ。

  前日まで今度の戦争では頑張りましょう!って引っ張ってた人が、寝て起きたら行くのは辞めましょうって言い始めて。

  それでも、みんな本当は怖くて行きたくなかった、全然寝れなかった、こんな異世界嫌だって、受け入れてくれたのよ」


 悠里は肩を震えさせてポロポロと涙を流し続けている。

 いっそ通報・連行してもらってこの場から離れたい!!

 対処法が思い付かないよ!!

 どうしてこうなった!!!?


 「みんなにそんな辛い思いを強制してたって思うと、もうそんな事はできないなって。

  ……なんでこんな事話してるんだろうね私」


 悠里は涙を拭いながら、まだうつむいている。

 頭をフル回転させて出せた選択肢は


→ 1.こうなったら破れかぶれだ。辛かったな……と頭を引き寄せヨシヨシする

  

  2.辛かったな……と肩に手を置く、ギリギリ許容されそうなボディタッチをする


  3.そうか……と感化されたような適当な言葉で誤魔化す


  4.無言でハンカチを渡す(持ってない)


 実質3パターンしかない。

 どれを選んでも失敗する未来しか見えないのはなぜだろうか。


 (仲良くなるには適度なボディタッチも必要だ。おどおどするな)


 どこかの会社の同僚の言葉が頭をよぎった。

 ボクは勇気を絞り出して2を選んだ。


 辛かったな……左肩に手を置いた時点でパシッとはねのけられる。


 「別にアンタに同情されたいわけじゃないから!」



 辛かったのはボクの方だった。


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