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6.思考回路はパンク寸前


 ……どうしよう?

 現実世界でも集団に馴染めなかったボクには荷が重すぎるのではないか?

 いや、重すぎたとしても放棄したら……死ぬのだ。

 軽い沈黙が流れた後、小谷田が残り2人に目を向ける。


 「早苗サナエちゃんとタスクは、普段から口数が多い方でもないの。

  でも、自己紹介くらいした方がいいんじゃない、翼?」


 小谷田さんがボクの視線に気づいたのか、自己紹介を促してくれたようだ。

 戦争に前向きではないが目幅が効く人だ。

 めんどくさそうに立ち上がって、こちらを見ないで口を開く。


 「夜鳥ヤチョウ タスク

  小谷田さんと同期。

  よろしく。これでいい?」


 何かのロゴが入った黒いジャージに深く被った黒いニット帽。

 帽子から出ている髪も真っ黒。黒好き過ぎるだろ……


 能力は飛翔とシェル。

 飛翔というからには飛べる能力だと思うし、どうにかしてコピーさせてもらいたいのだが。

 空飛べるなんて楽しそうだし!


 自己紹介が終わると視線を逸らし、テーブルで何か書いているようだ。

 握手する気も馴れ合う気もない、という雰囲気100%。

 口を出さない代わりに口を出すなということか。

 小谷田はリーダー格なのか、そのままもう1人に話しかけた。

 

 「ほら早苗ちゃん、怒ったりする人じゃあないみたいだし、自己紹介くらいした方がいいわよ。

  困ったらお姉ちゃんが助けてあげるから、ね?」


 「……糸井イトイ 早苗サナエです。

  悠里お姉ちゃんと同じ日に来たです。怒られるの怖いです。

  よろしくです」


 少し擦り切れ使い古されたようなサイズが小さめの花柄のパジャマを着ている。

 誰かのお下がりを着ているのだろうか?

 黒髪で前髪だけパッツンのおかっぱのような少女。


 能力はステルス、消音。

 消音が藤原くんとダブってるな。

 同じ能力持ちがいない、というわけではないらしい。

 能力が忍者っぽくていいな。


 ペコッと長い間お辞儀をすると小谷田が、もう大丈夫よ、と着席を促す。

 こんな小さい子に怒る人はいないだろう。

 語尾にとりあえず「です」を付ければ良いって感じの、たどたどしい言葉使いも小学生らしくて可愛い。

 すぐ怒る怖い人なんて滅多にいないと思うんだが、現実世界で何かあったんだろうか?

 ……あぁ、デリンなら何かにつけて怒りかねない、と苦笑した。


 「改めてよろしくお願いします。

  ボクの能力は電気ではありませんし、みなさんに危害を加えるつもりもありません。

  よろしければ確認の為に、もう一度握手して頂けませんか?」


 3人と再度握手をすると、それぞれ特に何も無かった、なんだったんだろう? と顔を合わせている。

 コピー上限に引っかかった藤原くんにも痛みの反応がない。

 それぞれの痛みの差の原因、コピーの条件、コピーした能力の入れ替えが可能かどうか、使う時はどうするか、など確認事項は山積している。

 というか、早く能力を使ってみたい。

 魔法とか、魔法とか!


 こんな時は、どんな時でもその場を離れ自由時間になる必殺技を使うしかない。


 「すみません、おトイレに行きたいのですが場所を教えて頂けませんか?」


 「出て真っ直ぐ行った下り階段の近くよ。

  トイレってご丁寧に書いてあるから、行けばわかると思うわ」


 礼を言って部屋から逃げ出す。

 いつかはトイレに行くし場所の確認もしよう、と思いゆっくり歩きながらギフトの項目をいじってみる。


・視界のポップウィンドウは、指で触って動作すること

・スキルを触ると詳細な説明が出ること

・コピーしたスキルはドラッグしてスワイプすると、このスキルを消去しますか?と注意事項が出ること


 他のスキル、特に魔法を試してみたいのだが、万が一壁が壊れるような騒動になった場合を考慮するとリスクが高すぎる。

 デリンにバレたら怒られそうだし。

 いや、絶対怒られるな……

 ソラルやプレダールがいたから和やかな雰囲気だったけど、デリン1人と喋ったら仲良くなれるものもなれないだろうなー。


 ……そういう意味では自分は運が良かったのかもしれない。

 珍しいこともあるものだ。


 下り階段付近をうろうろしていると、扉に大きく乱雑に”トイレ”と書かれていた。

 本当にトイレって書いてある……

 こちらの世界の文字は日本語表記で問題なく読めるようだ、安心した。

 当面の不安は払拭されたが、まだまだ確認したい項目が多すぎる。

 無双イージーモードの異世界が恨めしい。

 

 それに小谷田さんの発現内容は、前にも戦争に協力しよう! と言った人がいて部屋内で口論したことがあるような口ぶりだった。

 夕方にソラルが部屋に迎えに来てくれるまで、できるだけみんなと会話をし多少でも信用してもらって情報を引き出したい。


 部屋に帰ってノックをしてから入る。


 「ただいま。

  ほんとにトイレって大きく書かれててビックリしたよ。

  文字が通じるのは助かるね」


 「そうね、文字は通じるかもしれないけど常識は全く通用しないわ。

  そちらの方が不都合よ」


 小谷田も不満が多いようだ。

 この部屋で唯一返事をしてくれるし、気配りもできる彼女から攻略した方が早そうだ。


 それにスキルに唯一、追加表記がある。

 スキルを育てたのか、最初からだったのか。

 ……なんか考えてばっかりだな。

 普段はここまで頭を使わないから頭が痛い。

 しかし、初日にできるだけ好印象を与えておきたい。

 他にどんな話題があるだろうか?


 「なにをそんなに考えているの?

  目が上を向いているわ」


 ゲッ!小谷田さんチェック厳しいっすね……心理学の心得でもあるのか?!

 下手に取り繕ってもボロが出る。

 正直に話をした方が良さそうだ。


 「うん、能力に関して相談したいんだ。

  中庭で2人で話せないかな?」


 「……まぁいいわ。行きましょう」


 どうにか交渉のテーブルに着くことができた。

 でも何のカードを切るかはまるで決まってない。

 懐柔されないよう気をつけなくては。

 一回り年下の女性にビクビクしながら中庭に出た。


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