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52.悩みが尽きない船旅


 「では、気分直しにお茶をもう1杯飲んで行かれよ」


 シェイナー伯爵はなぜかご機嫌なのだが、ボクはさっさと帰りたかった。

 アンリエッタ嬢もプレダールと別れを惜しむように頭をしきりに撫でている。

 ガイチのジャムは、まんまイチゴの香りで美味しいお茶だった。

 重々お礼を述べて部屋を出る。

 色々あってドッと疲れた午後になった。

 ゆっくりと部屋に戻ると、16時の八点鐘を鳴らす現場を見れて少し楽しかった。



 「もう当分嫌ですよワタシは!

  撫でられすぎて背が縮むかと思いましたよ!」


 プレダールのチビ自虐ネタを聞くのも久しぶりである。

 ……デリンさんで思い出した!

 先日引っかかったような感触の剣はどうなっているだろうか。


 ……刀身を確認すると、やはりヒビが入っていた。

 考えてみれば、刀身の手入れ等を一切していなかった。

 よく見ると血糊や脂で劣化しているように見える。

 ゲームで武器と言えば手入れをしない、ゲットしたらお終いのイメージが強くて放置していた。

 刀身も貰った当時の色合いではなく、真っ赤になっている。

 格好良さは増したが悪くなっているのかもしれない。

 ファッシーナ王国に着いたら鍛冶屋に寄ってみたい。


 メリアが落ち着いた声で話し始める。


 「気に入られたのだから良いではないかプレダール。

  愛玩として伯爵家で何不自由なく過ごす人生もあるだろうに」


 「嫌ですよそんなつまんないの!

  服部さんに付いてるのだって、城塞にいるより楽チンだからって部分が強かったのに。

  ……とんだ災難の連続ですよ」


 楽で金を持っている上司の職場なら、確かにボクも転職したい。

 優しさだけで一緒にいてくれるわけでもないと知って少し悲しい。

 ……当たり前か。


 「そういえば、ボクらは一緒に旅をして1ヶ月くらいになりますね。

  お給金を出さなければ」


 「そういう金払いの良い所、好きですよ!」


 プレダールは飛び上がって嬉しさを全開にしている。

 メリアは何も言わないが、少し期待している様だ。

 いくら渡したらいいのだろうか?

 旅の経費はボクの財布から出るのだろうし、少しは考えなければ。

 なんとなく金貨2枚にしておいた。

 月給100万も貰えれば、死ぬ危険があるとはいえ大丈夫な気がする。

 プレダールは驚いてしばし硬直した。


 「えっ……こんなに貰っていいんですか?

  返せって言われても返しませんよ?」


 「ちと多い気もするが、お主の気持ちも込みでありがたく頂戴しておこう」


 問答無用で乗りたいからを理由に、金貨3枚奪って1等客室を予約した人の言葉とは思えない。

 結果オーライだけど。


 「本当はもっとお渡ししたいのですけどね。

  ボクの常識では馬車の値段や武器の値段などわからない事が多いですから。

  指輪の処理ができるまで、2人以上に頼りになる仲間ができる保障もありません。

  節約生活にしますが今後もよろしくお願いします」


 「そうじゃ、なぜあんな首飾りを金貨7千枚も使ったのじゃ!

  使わなければもっと豪華な旅であったろうに!」


 「そうですよ! お肉毎日食べ放題だったじゃないですか!」


 手のひらクルックルしてるよ!!

 そもそも伯爵の部屋で説明したはずなのに、緊張して聞こえてなかったのか?


 「死亡時復活のレアスキルが付いた首飾りだったんですよ。

  ボクの不手際で死んでしまって、2人が巻き添えになったら悔やみきれません。

  一応、2回まで死んでも復活する効果があったんです、凄い首飾りですよこれは!」


 「なるほど、それならば多少高くとも……

  いや、だいぶ高いが納得できる……か?」


 「災害規模を考えたらセーフティーが2回でも心許ないですが、そんな効果聞いた事もありませんしね。

  お金抱えて死んでもしょうがないですし、必要なら稼げばいいですね!

  ……メリアさんが」


 「なぜ我に押し付けるのじゃ!

  プレダールも上級文官なのだから筆写師ひっしゃしの仕事をするなりあるではないか!」


 いつもの2人の喧騒に戻ってよかったよかった。

 仮に今後陸路を行くとして、馬車を買うのに金貨千枚もあれば足りるだろうし結構予算は問題ないと思うんだよね。

 そもそも5億もしないと思いたい。

 それに元は金貨280枚だったのだし、かなり贅沢な旅になりそうである。


 プレダールの腹時計が鳴ったので、いつものように風呂場で着替えて食堂に行く。

 伯爵のお墨付きがあるので1等客食堂に向かった。

 シェイナー伯爵の件なのか、海龍の件なのか、それとも他の件なのか視線を感じる事が多くヒソヒソ話も活発な様だ。

 面倒に巻き込まれずに過ごせたので良かった。

 心なしかプレダールもメリアも伸び伸びと食事をしていた気がする。


 

 翌朝、ファッシーナ王国到着まで残り約1日であるとの船内放送があり、身支度を整える。

 朝食のデザートを食べていると、先日お茶に誘ってきた貴族婦人とルティスと呼ばれていた女性兵士が近づいてきた。


 「やぁ、へぃ……服部殿。

  この後はお暇かな?

  お時間があるなら少々折り入った話があるのだが、いかがかな?」


 「先日お茶会を断ってしまったお詫びもございます。

  お受け致しますよご婦人」


 明らかに平民呼ばわりするのを嫌々訂正しているが、何か事情がありそうだ。

 この人に加護やスキルは見当たらない。

 貴族の味方は多い方が良いだろうと思い承諾した。

 食後に相手の部屋に案内され3人で入室する。

 部屋はボクらの部屋と同じ構造だった。

 

 彼女はボクらに座るように促して口を開いた。


 「まだ名乗っておらんかったな。

  私はクレット男爵の娘フェローナじゃ。

  今日は貴殿に頼みがあってご足労頂いた。

  来客に茶も出さなくては失礼だな、誰ぞ茶の用意をせい!」


 フェローナはサイドテールに束ねた、青みがかった金髪が縦ロールになっている。

 16歳前後だろうか。

 幼さの中にも貴族然とした覚悟のある目をしている。


 数人のメイドがパタパタと焦って用意している。

 すぐにハーブティーのような香りの強いお茶が出され、毒味をしたように手を差し出される。

 ボクは飲まないけど。


 フェローナは少し目を閉じ、覚悟を決めたように口を開いた。


 「……単刀直入に言おう。

  このルティスをお主の仲間に入れて欲しいのだ。

  我がクレット家はあまり強い家系でもなく、領土や収入も心細い。

  日頃から社交をしておるが、貴殿のように伯爵様に気に入られる術がわからぬのだ。

  連れが女性しかおらぬようなのでルティスは丁度良いと思うが、どうだろうか?」


 出世や人脈作りを手伝えとは、随分なお願いだな。

 このままハーレムPTを作るのも良いが、ここは慎重に考えたい。

 

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