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49.ルビーの価値


 「申し訳ございませんアンリエッタお嬢様。

  彼女は私の大事な旅の仲間なのです。

  例え金貨を山のように積まれても手放す事はできません」


 「私とて、おじいさまに懇願してようやく買って貰えた首飾りなのです!

  金貨2000枚もしたのですよ!」


 首飾り1つで10億ってマジか。

 だが、この世界でボクが10億使って信頼できる仲間ができるとは考えにくい。

 プレダールはランデルバール城塞での過去や、ボクの能力を知っていて付いて来てくれている希少な仲間だ。

 そんな超レア合法ロリを10億如きで交換できるか!


 「わかりました、アンリエッタお嬢様。

  それならば金貨4000枚出します!」


 アンリエッタもケルガーもボクがそんなに持ってるはずがない、と伯爵に疑問の顔を向けるがそしらぬ顔をしている。


 「倍では足りませんか。では金貨8000枚出します!


  ……まだ足りませんか。では9000!」


 隣のメリアが泡食ったような表情をしている。

 遊んで暮らせるだけの金貨なのだろうが、いつ誰に暗殺され死んでしまうとも限らない隠遁生活より、みんなで世界を旅して1回死ねる生活の方が良い。

 だが、即決して貰えない。

 まだ捻り出せると思われているのか、悩んでいるのか。


 「そうですか……では、8000!」


 先程の金額が聞き間違いなのか? なぜ下げた?

 混乱した表情の伯爵と孫娘。



 「まだのようですね、7000!


  ……ろくせ 」


 「金貨7000枚で売りますわ!

  おじいさま、何なのですこの平民は!

  値をどこまで上げるか見ていたら下げてくるだなんて!」


 「フフフ、金貨2000枚の損で済んだがアンリエッタには手痛い勉強代になったな。

  世の中にはココ! というタイミングがある。

  それを見極め即行動できねば侯爵だろうが伯爵だろうが損をするものよ。

  儂は3倍以上で売れて儲かったがな」


 伯爵は満足そうに髭を触っている。

 孫娘はギリギリと悔しそうな顔をしている。

 立場が1番上の人を納得させられるのが理論で良かった。


 「だが、なぜあの首飾りにそこまで金貨を出して執着する?

  貴殿は噂を知らぬはずであるし」


 まずい……買えたのは良いが言い訳を考えていなかった。

 欲しかったで済ませるには35億は高すぎる。

 他に言い訳も思い付かないので正直に話す事にした。


 「そのような鑑定眼スキルがあろうとはな、滅多に聞かぬ正確さだ。

  手に取らせてみれば詳細が分かるのであったな。

  ケルガー渡してあげなさい」


 渡され首から下げるとスキル詳細を見る事ができた。



 生命の再燃 パッシブスキル

 天よりもたらされた星々の精霊が宿る宝石のスキル。

 所有者が死んだ時、宝石に宿る星の輝きが弾けて所有者を即時復活させる。

 ただし、寿命は免れない。

 使用残り回数 2回。



 説明を述べると伯爵は納得したように頷いている。


 「残りの回数がいくつか分からぬと言われていたが、2回であったなら妥当な値段という所か。

  ピジョン・ブラッドのスタールビーという希少性は素晴らしい価値だがな」


 ルビーはルビーでも真紅のルビーは希少らしい。

 全部こういう色だと思っていたが違うのか。

 ルビーをよく見ると、小さな光の煌めきがいくつか見える。

 その内の2つは☆の形をしていて綺麗だ。

 普通に高そうである。

 伯爵はヒゲをいじりながら考え込み始めた。


 「アンリエッタへの勉強とレアスキルの披露、紅茶の件もある……少々こちらが貰い過ぎだな。

  ケルガー、儂の魔紙ましを5枚ばかりとペンを持ってきてくれ。

  印璽いんじもな」


 ケルガーはビクッとして驚きを隠せない様子で、裏の部屋に小走りで去った。

 魔紙が何なのかわかっていないので驚き様がない。

 疑問に思っている表情を察したのか伯爵が説明してくれた。


 「貴殿は旅をされていると言っていたな。

  領土をまたぐ際や高価な買い物をする際に、出自元を証明する物が必要になることは多々ある。

  一般人を寄せ付けない国や領土も多い昨今の情勢を考えると、儂の証明書は役に立つはずだ。

  これで少しは天秤が戻ったと思うが?」


 「過分なご配慮を賜り、感激の至りにございます」


 伯爵お墨付きなんて早々貰えないだろうし、困ったら袖の下を渡すより効果がありそうだ。

 特に貴族相手だと。

 お金では買えない、願ってもない頂き物をしてしまった。

 だが、証明書は1枚だけで残り4枚は白紙に伯爵の名が書かれているだけだった。

 ケルガーが手渡してくれた際に説明してくれた。


 「伯爵様の名のみ書かれた魔紙は、瞬時に文を交わせる大変価値のあるものです。

  名が書かれた表側に書かれた文字が対応した用紙に写り、その裏側に返信内容が反映されます。

  汚したりされぬよう、厳重に保管して下さいませ」


 まだ少し不機嫌そうなケルガーの表情を見るに、本当に過分な配慮なのだろう。

 伯爵のお墨付きに、枚数制限付きとは言え直接連絡できる権利があるのだ。

 平民が手紙なんて出しても破り捨てられるのがオチのような世界だし、これは凄いぞ!


 「再度お礼を述べさせて下さい。

  平民である私達に良くしてくださり、真に感謝が絶えません。

  力になれる事があれば、何なりとお呼び立て下さい」


 再度深々と頭を下げた。

 笑っているのは伯爵だけで、ケルガーもアンリエッタも不満そうだ。


 「おじいさま!

  本当にこんな平民が金貨7000枚も持っておられるのですか!

  私どうしても信じられないのです」


 「アンリエッタは先日の闘技場に来なかったから無理もないか。

  彼は自身で戦う33倍の倍率に金貨280枚も賭けていたのだよ。

  儂も金貨5枚だが賭けさせてもらって儲かった。ワハハハ」


 「そんな馬鹿げた倍率の勝利、今日の振る舞いといい……

  おじいさまが気にかけられるのも多少わかりましたわ。

  見た目以外は平民らしくないもの」


 「では、残りの2240枚を今、用意させよう。

  貴殿の賭け札の権利は儂が貰うということでよろしいかな?

  7000枚を確認するのも手間だからな」


 「度々のご配慮、ありがとうございます。よろしくお願い致します」


 賭け札と交換で大金貨100枚が入った豪華な袋2つと、金貨50枚の袋が4つ、40枚の小袋に分けて渡された。

 5億円袋とか超怖い。

 貴族が怖いなら、もっと強い貴族に後ろ盾になって貰えば良い。

 本当にそうなるとは思っていなかったけど、良いお茶会だった。


注釈 ピジョン・ブラッドと言うのは、鳩の血という意味で鮮やかな濃い赤色をしており、強いテリを発する現代に存在している最高級ルビーの名称。

(Wikipediaより抜粋)

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