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46.安息のない食事


 メリアは額に右手を当てたまま喋り始めた。


 「我が唯一契約している水精霊の水面の女王様と、その海中の王妃様方は仲が悪いのじゃ。

  会わせたと知られると面倒になる」


 「そういえば、水面のヤツから化物バケツの人間がいると聞いたって言ってましたね……」


 「なるほど、面白い人間がいるという噂が水の精霊内であって、それで名を聞いてきたというわけか。

  ……断ると面倒になるし仕方ないか」


 メリアから精霊の序列のような説明を受けた。

 ボクの解釈で例えるなら精霊界は地下100階層のマンション住宅で、浅い階層の精霊は深い階層の精霊より立場が弱いと言う。

 呼び出すには、精霊からマンションの部屋番号の代わりになる名前を聞き、呼び出す儀式はインターホンを押すようなものらしい。


 精霊の機嫌を損ねないように呼び出す場所には注意が必要であり、最悪着信拒否されるようだ。

 精霊に気に入られれば、より上位の精霊を紹介して貰えたり何かの拍子に姿を現し契約して貰えるそうだ。

 基本的に王が攻撃系をつかさどり、女王が癒やしを司ると言う。


 「なるほど、精霊って結構めんどくさいんですね。

  さっきも眠いから帰りたいって言ってましたし」


 「気分屋が多いからのぅ。

  興味が無くとも思ったように行使させるには、長い信頼関係や膨大なマナや宝石などの貢物が必要になるな」


 凄いめんどくさいな……

 精霊呼び出してドーン! と何事も簡単にいくわけではないようだ。


 お腹空いたーと言ってプレダールが起き出した。

 いつものように着替えて食事をし、また周囲からの視線が痛かった。

 その内の1人の女性貴族が、女性兵士を連れて近づいてきた。

 紫色を基調とした衣装に宝石がいくつも付いたベルトをしている。

 兵士は胸元と腹部の肌が見える鎧だ。

 エロさを強調したいのだろうか。


 「やあ平民、先日は随分と痛い目を合わせてくれたわね。

  固い勝負だと思ったら思わぬ損害だったわ。

  その礼も兼ねて、午後にお茶会に招待したいの。

  無論、来ますわよね?」


 名前も知らない人に招待される茶会に、拒否権がないとは恐ろしい。


 「申し訳ありません御婦人様。

  本日の午後は、先日シェイナー伯爵様より茶会に呼ばれておりますゆえ、参加することは出来かねます。

  後日でしたらお受け致します、申し訳ありません」


 「なっ……シェイナー伯爵様の茶会に呼ばれているだと……!

  この平民如きがっ……私ですらお呼ばれしたことがないと言うのにっ!

  もう良い、行くぞルティス!」


 「イエス、マイロード」


 2人はどこかに行ってしまった。

 美しい人達だったが、貴族は精霊よりタチが悪いと感じた。

 でも、マイロードって言うのカッコイイな!

 次の茶会申し込みが来ないとも限らないので早々に退散した。

 

 「ハァ……おちおち食事もできなくなってしまったのぅ。

  だから貴族は嫌なのじゃ」


 「次からは下の食堂にしましょうか? 貴族は来ないでしょうし。

  食事の質は若干落ちますけど濃い味付けの食事も飽きてきましたし!」


 「お2人にご迷惑をかけてすいません……

  そうしましょう」


 「まぁ、船旅のお金出したのは服部さんですけどね!

  ちょっと迷惑料が欲しいくらいですが相殺そうさいしておきますよ。ふふふ」


 確かに貴族の確執は辛いものになりそうだ。

 だが、残り約6日穏便に過ごせるだろうか。


 ひたすら部屋から出ないように昼食まで過ごし、2階層の食堂に初めて行った。

 テーブルまで案内してくれたのはメイド服の人間女性で、少し赤い金髪が美しかった。

 だが、食事をしていると周囲の視線が気になる。

 ほとんどの人はメリアをチラチラ見ていて、一部の人がプレダールをガン見している。

 2種族の女性を独占しやがって! という恨みの波動のような視線がボクに刺さる。

 3人が一緒に食事をして穏便に済む方法はないのだろうか……

 さっさと食べて部屋に帰った。



 食堂でお茶を飲まずに退散してきたので、メリアが紅茶を淹れてくれた。

 日本に住んでいた時より香りが少ない気がする。

 茶葉品質の問題なのか、淹れ方なのかはわからないけど。

 味は渋みが強いけど味覚が鋭いわけでもないので気にせず飲んだ。


 「これって良い茶葉なんですか?」


 「なんじゃ、味にうるさいタチか?

  我もあまり淹れるのが上手というわけではないが、人並みにはできておるはずじゃ」


 「いえ、元の世界の紅茶より美味しくないので、どうなのかなーと気になっただけです」


 「魔法の無いお主の元の世界の方が、良い暮らしをしておるのは変な気分じゃな」


 「ボクの住んでいた日本という国が食事にうるさいだけのような気もしますけどね。

  ボクは気にしません! ははは」


 呆れた顔をされたが事実だからしょうがない。

 所謂いわゆる、西洋的な食事一辺倒だが米や味噌汁が恋しいとは思っていない。

 醤油やソース、ケチャップやマヨネーズなどの調味料が欲しいと思う事はあるけど。

 そういう意味では中世の貴族が胡椒を高額でも欲した気持ちが少しわかる。


 

 そうこうしていると、扉がノックされた。

 ボクが出ると、私は執事です、と顔に書いてあるような40代前後の人間の紳士がいた。

 黒い髪をビシッと7:3で分け、薄い水色の横に細長いメガネをしていて髭は綺麗に剃ってある。

 家事全般指導術というスキルがあったので噴き出しそうになった。

 格闘術(大)も付いているので逆らったら瞬殺されてしまうだろう。


 「シェイナー伯爵様の執事をしております、ケルガーと申します。

  服部様をお迎えにあがりました」


 「あの、ここにいる3人で伺いたいのですがよろしいでしょうか?」


 エッ! と後ろから2名の声が聞こえた。

 貴族と会うのは嫌だ! という顔をしていそうだ。


 「……1人だけ連れてくるように、とは申し付けられておりませんので問題無いかとは存じます。

  ですが、後ろの方々は好ましく思っておられないようですよ?」


 「シェイナー伯爵様の要望である、先日の戦いの説明をするのに後ろの2名の補足も必要なのです。

  1人で行ってもいいですが、後ほど呼び出されると思いますよ?」


 後ろを振り向くと2人は諦めて覚悟をした表情だった。


 「では、参りましょう。このフロアの最先頭のお部屋です」


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