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43.メリアの決闘解説

残虐性が高い文章があります。


 我が名はメリア=アルビーズ。

 何の因果か、死を何度も確信するような者と旅をしている。

 個を重視する人間族とは思えぬような考え方、発言が目立つ。

 異世界人というのは本当にわからん連中らしい。


 今夜も決闘場の見世物小屋で、全身甲冑のゴリラ男と檻の中で戦う事になった。

 6階層にでも引き篭もって逃げるかと思いきや、戦う決意をしたのは驚天動地きょうてんどうちじゃった。

 この場にいる誰もが来ないと思ったであろうよ、見た目は貧弱な普通以下の戦闘力しかない人間なのだから。

 我も、できれば出場して欲しくなかった。

 服部が死ねば怨嗟の指輪が発動するであろうから、特にな。


 だが、驚くべきスピードで魔法を習得する様を見た事。

 プレダールの言う、戦術を理解している策士である、という強い進言もあった事。

 その2つの理由で今回見守る事にした。

 実際、あの程度を倒せないようではそのうち指輪は発動してしまうであろう。

 怯える様子が無い事もあり、無理に眠らせて6階層に放り込むのは止めた。


 オッズが狂った様に高いのは周囲にエルフが少ないのも功を奏しているのだろうし、いつもの狂ったようなマナの脈動を全然感じない。

 少しは隠す事を覚えたのであろうか、教えたつもりは無いのだが。


 

 10秒間魔法を受け付けなくなり効果が消えるキャンセルマジックを受け、入場する前にバケツに入れて持ってきた水を頭からかぶっている。

 これは、我が教えた事だ。

 水の魔法は使用後の水に、ある程度マナの残留がある。

 それを再利用すれば、発動時のマナの節約にもなるし強度も上がる。


 水をかぶった瞬間に、周囲の人間から野次やじが飛んだ。

 死ぬ前の身の清めか! 今更そんなものでどうなる! 早くのたうち回れ! など様々じゃ。

 この場の誰よりも我が思っておるよ、この檻の中で勝つのは難しいと。

 例え開始前の10秒でバフをかけられるとしても、筋肉馬鹿と魔法使いの近接戦は相性が悪すぎる。

 どのように倒すか、セコンドに付いた我が1番期待しておるのじゃ。



 だが、目の前の服部は檻の中に入ると頭をガクリと下げ、両手も力なくダラりとしたままだ。

 背中しか見えないが何か詠唱しているのか?

 油断させる為なのか?

 だが開始前の10カウントが始まっている。


 水鎧も発動させる気配がないぞ?!

 他のバフすら詠唱している様子が見えない。

 マナの流れが見える我だからこそ一層不安になる。

 マナは魔法を発動させる気配がなく、黒く淀んでいく……



 10カウントが終わり、殺し合いは始まってしまった。

 未だに一挙手一投足の動きもない。

 だが、相手はそれを見て悠々と歩いて接近してくる。


 「今更怖気づいたのか?

  自分が雑魚なのをようやく知ったか」


 自信満々にゆったりと近づいてくる。

 まだマナは動かない……

 どうしたのじゃ! 今日の練習は何だったのじゃ!


 「動かないと観客もシラけちまうだろうがよ?

  まず、足を一本貰うか!」


 聖騎士とは名ばかりの残虐性の持ち主が、甲冑を付けた太い右足で服部の左足を軽く蹴った。

 血がダラダラと出ているが、悲鳴も無く俯き立ったままだ。


 「おいおい、まだ縮こまってんのか?

  腰に下げた剣は飾りかよ?

  早く悲鳴を聞かせろよ、ほらっ!」


 再度、右足で服部の左ヒザを叩き蹴る。

 その衝撃で檻に背中をもたれかけ、そのままゆっくりと座った。

 明らかに重症じゃ!

 なぜマナを使わない、なぜ何も言わない!?

 我を忘れて檻にしがみついた。


 「なにをしておるのじゃ?! なぜ動かないのじゃ!

  死んでしまうぞ!!」


 気づけば涙声だった。

 だが、服部は動かない。


 「おいおい、エルフのねーちゃんに心配されてるぞ?

  せめて悲鳴は上げてくれないと伯爵婦人に俺が怒られちまう。

  もう一本の足も貰うぜ」


 服部の右足を力一杯、踏みつけるように潰した。

 その拍子に右側に倒れ込んだ。

 まだ鮮血は流れ続けている……が、動かない。

 死人のようじゃ……

 表情を見ると愕然がくぜんとした。


 初めて怨嗟えんさの指輪を付けた時の様に、顔が真っ青で視点が定まらずガチガチと歯を動かしているのだ。

 周囲の歓声で気づかなかったが、もしや入場時のキャンセルマジックが怨嗟の指輪に何らかの衝撃を与えてしまい、反動が出たのか?!

 このままでは勝てるものも勝てない。

 1ラウンド終了を告げる砂時計は、まだほとんど落ちていない!



 どうしたらいい? 何ができる?

 外側から魔法を与える事はできない。

 声をかけても反応が無い。

 横にいるプレダールも顔が真っ青だ。

 我らは何もできず、この場の全員が死ぬのを待つしかないのか……!

 

 「おうおう、だいぶ血が流れちまってるな。

  このまま死なれちまうと興冷めだ。

  少しくらいは動いてくれよ?」


 ボレアスは服部の首襟を掴んで高く持ち上げ、観客に見えるようにゆっくりと回転する。

 全身に力が入っていない人形のような体を。


 「テルカット伯爵婦人!

  こいつ死んだみたいにずっと動かないし、喋らないんだ。

  もう殺しちまっていいでしょうか?」


 「つまらぬ余興じゃった、殺してしまって良い」


 「と、言うことだ。

  ゆっくり締め上げるからよ、最後くらいは抵抗してくれや。

  じゃあな平民、つまんなかったぜ」


 服部は最後の一言に反応したように、素早く剣を右手で抜きボレアスの左大腿部に突き刺し払い抜けた。

 ボレアスの左足から大量の血が吹き出る!

 服部の体からはドス黒いマナといつものマナが交差するように練り上げられてゆく。


 「おレラ、平民をコろしテ、なにガ面白エんダっ!!!!」


 いつもの声色と違う、気配が違う、表情が違う。

 だが、水鎧の魔法をいつの間にか発動させ体は回復している。

 なにが起こっておるのじゃ!

 左大腿部を再起不能にされ座り込んだボレアスの表情は真っ青じゃった。


 「こレガ、面白エんダろウ!

  ホラッ! 笑エヨ!! おラッ!」


 剣を振りかぶったのを見て、ボレアスは咄嗟とっさに両手で頭をガードする。

 だが、振り下ろされたのは右大腿部であり、鎧ごと綺麗に切断されている。

 また大量の血が吹き出た、と思うと止まっている。


 「コのまマ失血デ死なレたら、興冷め、ナんだロウ?

  止めテやル。泣ケ! 叫べヨ!」


 触れもせずに相手の血を操作して切断部で止血している。

 なんだあのマナ操作は……国家拷問官レベルだぞ。

 何度も何度もボレアスの右足を、なます切りにしていく。

 だが出血はほとんど無い。

 斬られる度に、ボレアスの悲鳴が場内に響き渡る。


 「おイオい、モっと叫んデクれないト、観客ガ喜ばナいだロウ?」


 叫び怖がるボレアスの両肘から先を切り落としつつ、失血させない。

 全員驚愕していて誰も声を出さない。

 我も殺すなとは言えない。

 先程まで殺される側であったし、少しはスッとしている。


 ……だが、やりすぎじゃ!

 1ラウンドの残りは1分を切った。

 周囲から野次が飛び始める。


 「さっさと殺しちまえー!  そうだー!

  トドメを刺せー!」


 だが、プレダールだけは泣きながら叫んだ。


 「そんな残酷なの、甘っちょろい服部さんらしくないですよ!

  そんなのが作戦だったんですか!

  見損ないましたよ!

  いつもみたいに、泣きながら殺すのを迷ったりするのか心配して損しました!!

  デリンさんが見てたら激怒してる所ですよ、勝負を侮辱するなって!」


 「デ…りん……サン…」


 かすれたような声で、その名に反応した。

 一瞬放心したかと思うと、聖騎士ボレアスの首を即座に跳ねて絶命させた。

 そして、自らの左手を切り落としたのだった。


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