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41.水の鎧


 医務室という名だが回復魔法がある世界だ、きっと回復魔法使ヒーラーいがいる。

 ヒーラーがいるならマナポがあるはずだ。

 1日中魔法の練習をしたいので、マナポをかき集めなければならない。


 走って医務室に着きドアを開けると、銀髪のロングヘアーの女性エルフがいた。

 肩より少し長い毛先がふわっとカールしている。

 胸に『医務 ヒーラー ルーコナ』というタグが付いている。


 「あら、走ってお疲れのようですが急患ですか? 症状は?」


 「マナ欠乏症でして、マナポットを大量に分けて頂きたいのです!」


 無論そんな病気は知らないし、なっていない。

 来る途中に強い回復魔法を使って海に投げ捨てたので、マナは残り5割を切っている。

 メリアや水の精霊の言った『化物バケツ』のようなマナ許容量なら、5割を切っていれば察して貰えるという賭けだが。

 その賭けには勝ったようで、ルーコナはボクをジロジロ見て納得している。


 「あら、確かに大量のマナが失われているご様子……

  そうは言いましてもアナタは……

  一般的に強いマナポットが1つ銀貨5枚なのですが、伯爵婦人を怒らせたという噂のアナタに肩入れした事がバレると私も立場が危ういです。

  1つ大銀貨3枚なら分けて差し上げます。」


 貴族社会マジでキツイな。

 プレダールやメリアが震えて待った意味がよくわかる。

 医療すらまともに受けられずボッタくられるハメになるとは……

 渡された小瓶にマナ回復効果(中)ってスキルに見えるけど、ほんとに良い薬なのか?!

 10本買って試しに1本飲んでみたが、2割回復したかどうか、というイマイチな効果だった。


 「もっと強いヤツないんですか!

  2~3倍は強そうなの!」


 「そのような劇薬に近いマナポは作成が難しく、作れる者も少数です。

  1本だけ金貨5枚でよろしければ、お分けしますよ。

  元々在庫が無いのです」


 「わかりました、ではさっきのマナポ追加で20本とソレ下さい!

  ありがとうございました、美しいルーコナさん」


 合計金貨14枚の出費である。

 700万円飛んだ実感が無い。

 ついでに売店に寄ってみたが、やはり噂は広まっているらしい。

 さっきより質の悪いマナ回復効果(小)で金貨1枚と言われたのでやめた。

 そう考えてみるとさっきの医務室のエルフは良心的だったのかもしれない。

 感覚が麻痺してきた。

 部屋に戻ると、メリアが両手を腰に当てて待っていた。


 「飛び出して行ったと思ったら、随分とマナポを買い漁ってきたな。

  我の持っているマナポも10本しかない。

  ……全部はやれんぞ?」


 メリアの出したマナポにはマナ回復効果(中++)と全部付いている。

 プラスいくつまで付くんだよ。

 5本だけ分けて貰うことにし、金貨5枚渡しておいた。


 「こんな高い値段ではないぞ?!」


 「先程医務室に寄ってきましたが、このマナポが大銀貨3枚、これが金貨5枚と言われました。

  売店なんてもっと粗悪なマナポに金貨1枚ですよ?

  買いませんでしたけど。

  伯爵婦人の噂がもう全体的に広がっているみたいです」


 「……ふむ、大事になっておるな。

  その顔だとマナポは足りてない、という所か。

  我が用立てしてくるゆえ、待っておれ」


 メリアはそう言うとプレダールを連れてどこかに行ってしまった。

 ボクは水魔法の修練をする為、風呂場に水を張って待つ事にした。

 もう1本マナポ(中)を飲んだが、随分と苦いし青臭い。

 今日はこんなモノを中毒の如くがぶ飲みするのか……憂鬱ゆううつだ。


 意外と戻ってくるのが遅い。

 湯船にぬるま湯が半分ほど入ったので、実戦で使う革鎧一式に着替えて浴槽に入る。

 胸部下まで浸かる水位だ。


 ヒントは水面の女王が使ってくれた、ふよふよと手に纏わりついて患部のみを治してくれた魔法だ。

 あれを全身に巡らせるイメージをしてマナをめぐらせる。

 全身に巡らせるイメージなので、できれば浴槽の水がこう……肩とか頭まで這い上がって覆ってくれると思っていたんだが。

 立ち上がると、水に浸かっていた部分には纏わりついている。

 一部成功だ!


 本当に癒やしの効果があるのか不安なので、カタールで左小指を切ってみた。

 少量の血液が水に滲み出したが、すぐに傷口は塞がった。

 成功している!

 全身が水に浸かるように寝そべって数秒待ち、水から上がると全身を2cmほどの厚みで覆っているようだ。


 ……が、目や口まで覆っているので視界は悪いし呼吸もし辛い。

 顔面は水で覆わないように落ち着いてイメージすると、スッと水は退いてくれた。

 ありがとうマナ、ありがとう水!

 素直に反応してくれるのは君たちだけだ。

 なんか悲しくなってきた……


 しかし、先程まで8割あったマナが6割になっている。

 見た所マナを消費し続けるわけでもないようで、水の服をインナーに着ている状態だ。

 鏡見ても水を纏っているように見えるのは頭部だけだ。

 帽子やヘルメットを買った方が良さそう。


 「お主なんじゃそれは! けったいな事をしておるな」


 木箱を1つずつ抱えたメリアとプレダールが後ろにいた。

 なんでそんなに買えたんだ?

 女性の優遇法でもあるのか?!


 「そんな大それたことは出来る癖に、階下の売店を使うことは考えなかったようじゃな。

  貴族は貴族同士の繋がりはあっても平民とは無いに等しい。

  我らが買いに行っても不審がられんかった」


 「上で買えないなら下で買えば良いだけなんですけどね。

  焦ってると周りが見えなくなるものです」


 確かに。

 でも上の方が質の良い品揃えだったようで、開けた木箱はマナ回復薬(小++)となっている。

 さっそく2本飲むと25%ほど回復した。

 胃が水分で気持ち悪い。


 「個人的には、格闘ならあの聖騎士よりプレダールさんの方が強いと思っています。

  今この状態で左腕を折る感じで殴って貰えませんか?」


 「えっ……?

  まぁ折っていいならやりますけど。

  そいやっ!……うわっなにこれ気持ち悪い」


 折るつもりで殴られたようだが、痛みは強いもののヒビが入った程度だったようで痛みはすぐに引いた。

 ぶよぶよした感触があって勢いが殺されたのだと言う。

 さしずめ、回復効果がある水の鎧の魔法という所か。

 ダメージを治す分だけマナが減ったようだった。


 メリアがいつかやっていた、右手を額に当てる仕草をして(マナよありがとう。魔法を解除しておくれ)と祈って指を慣らすと水がザーッと足元に流れ落ちた。

 ほんと素直なマナ感謝、愛してる。


 「随分と簡単にやっておるが、中級クラス以上の魔法練度じゃぞ?」


 「いえ、浴槽で全身水に浸かってからやりましたので。

  無い所から水を出したわけでもないんです」


 あぁ、と納得した様子だったが、それでも訝しんだ表情をして悩んでいる。

 プレダールは、もう1回折らせて! などと水鎧の魔法に対抗心を燃やしている。

 物騒だが助かる。

 試しに、先程の成功例をイメージしながら呪文を詠唱してみる。


 「水の精霊よ 我が祈りと求めに応じ 癒やしの鎧となってこの身を包んでおくれ

   ウォーター・アーマー!」


 足元と浴槽にあった水が音もなく飛んできて体を包み込む!

 消費マナは5%くらいのようだ。コスパ良くなったな!


 「じゃあ、ちょっと本気でいきますよ!

  んんんーーーはっ! あれー?」


 差し出した左腕を殴られたが、やはりヒビが入った程度だった。

 痛いは痛いけど、すぐ治って痛みが無くなるので変な感じだ。

 だが、気を抜いていた右手を続けて殴られるとバキッと折れた。

 痛みは2秒ほどで無くなったが、物凄く痛い時間が長い気がする。

 マナが2%前後減った。


 「ふっふーん、魔法に勝ちました!」


 得意満面なプレダールだが、恐らく殴られる場所に注意を向けていると防御力が上がるのかもしれない。

 動きにくいわけでもなく、重さも少ししか感じない。

 時折くすぐったいけどこれは便利だ!


 試しにカーペットの方に出てみた。

 足を上げると足の裏まで水を纏っているが、地面を踏もうとすると水が避けて行く。

 ……魔法は不思議だ。


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