4.初めての大食堂
食堂に到着すると、かなり混雑していた。
体育館2つは楽々入りそうな大きなフロアだ。
休憩時間ということもあって各々が会話をし、ざわざわとしている。
行列が一定時間で進んでいることからも、マナーはしっかりしているという印象を受ける。
軍人だから当然かと思う反面、デリンのような短気な人ばかりと聞いていたので、若干のモメ事くらいはあると思っていた。
ソラルはニコニコ顔に戻っていて、時折つま先立ちをしたり戻したりして待ちきれない様子だ。
「あのーソラルさん、ボクはいつまで抱えられているのでしょうか?」
「え、席に着くまでよ? はぐれたら困るものー」
目を離すといなくなる小学生か!
言葉にできないツッコミをすると、後ろから声がかかる。
「おうソラル、なんだ? 人間なんて抱えて。
メシの足しにすんのか?」
「あらディグート、こんにちは。
デリンじゃあるまいし、そんなことしませんよ」
「俺も食いたくねーな、ガハハ!」
左脇に抱えられたまま動けないので、後ろのディグードという男性の大鬼人は見えない。
2人は午前中は何をしていたんだ? など世間話をしている。
そうこうしている間に、ではまた、と別れを告げテーブルへと歩き出す。
おう、ソラルここだ! とデリンの声が聞こえると、ようやく降ろしてもらえた。
デリンはほとんど食べ終えている。
プレダールはお子様専用椅子のような高い椅子に座って、ゆっくり食べているようだが豆ばかり残っている。
プレダールに向かい合って座ったソラルさんの右隣に自分も座る。
椅子が大きく高く、背もたれがないので座りにくい。
ソラルが一緒に持ってきてくれた大きな木製のトレーには、山盛りに乗せられた無造作に焼かれた肉、豆と野菜の煮物、黒いパン、黄色いスープ。
3人前はある気がする……
こんなに食べれない。
全員の顔色を見るようにして喋り始める。
「あのー……みなさんよろしければ半分程取って頂けませんか?
ボクはこんなに食べれませんので」
「マジか!
おめーちょっとイイ奴じゃねーか、ありがとな!」
「デリンさん! 私にも取ってくださいよー!
誰のせいで背が伸びないと思ってるんですか!」
「では、私も少し頂きますね。ありがとう」
若干予想していたが、肉が9割とパンが半分持って行かれ、他は手付かずである。
肉と炭水化物が好まれるのは、この世界でも共通のようだ。
減らない煮物の山に困った顔をしていると、ソラルが煮物を半分ドバーっとデリンのトレーに流し込んだ!
「デリンは肉ばっかりじゃなくて野菜も取らないとねー?」
「こんなにいらねーよ!
豆を沢山食べて大きくなれよプレダール」
「お肉をくださいよー! おーにーくーー!」
女性に囲まれた、ほのぼのした食事。
これだけでも異世界に来て良かった!!
女性に囲まれた食事は初めてだったが、ほのぼのした空気に感化されてきて、あまり気を使わなかった。
気分が良いと食事も美味しい!……塩味が濃いけど。
大きな大鬼人男性が近づいてきて、デリンの肩を軽く叩いた。
「デリンにしちゃ珍しいな、人間と一緒にメシ食うなんてよ。
明日は魔法が降るな!」
「そいつぁ困る、大急ぎでディグートを傘に仕立てねーとな!」
デリンさんと一緒に笑っているディグートは、大きな1本角がおでこの中央から天を穿つように生えている。
短いブラウンの髪とたっぷりの顎髭が威厳を示すように見える。
座らないのかな? と思っていたら、もう自分の右側に座っていた……
座っていてもわかる程に背が高く、そして大きな体と筋肉。
デリンと気兼ねない会話をしているので、気さくな人なのかもしれない。
しかし、畏怖という単語がピッタリな雰囲気を感じる。
「こいつらに気に入られるような人間を初めて見た、期待してるぜボウズ」
頭の上から急に話かけられて驚く。
相手を向き、頑張ります! と右手を握って答えると、頑張れよ、と大きな左拳を軽く突き合わせてきた。
こういうスキンシップは兵士の良い所だと思う。
初めてだったので少しテンションが上がった。
食べながら周囲を見渡すと、広いフロアに空席が目立つ。
元々は2000人の大鬼人族がいたのだから、1000人以上収容できるフロアなのだろう。
少し楽観的に考えても戦闘まで残り3日しかない。
自分のギフトもよくわかっていないし、他のギフト持ちの能力がどんなものがあるのか知らない現状では勝つ方法もわからない。
だが、最大戦力の大鬼人戦士500を上手に活用するのは必須だし、友好関係を深めたり情報をもっと聞き出したい……
でも何がわかれば何ができるのか、わからない。
戦争シミュレーションゲームや漫画でもいいから詳しく知っていれば、基礎知識的なものがあったのになぁと後悔する。
「悩んで食事の手を止めても良い方法は浮かびません。
食べなければ負けますよー」
気負っているのを見透かされたように、ソラルが右肘でコツンとして小声で言ってくれた。
気配りができる優しいニコニコ笑顔に癒やされる。
残りを食べ終えると、午後は他のギフト持ちが集められている部屋に案内されること、夕暮れにまた迎えに来ることを教えられながらソラルと2人で歩いて移動した。
ここからが大事な前哨戦だ。
他の召喚された人とも多少は友好関係を築けないと必敗になるだろう。
この3人と仲良くなったのを初めて見た、というディグードの話を考えると心配で心配で仕方ない。
でも、せっかく来た異世界を冒険や観光せず死を待つのはごめんだ!
緊張と心配を懸命に押さえ込んでいると、中庭に近い小屋前でソラルが立ち止まり、ドアをノックした。