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39.貴族と平民


 魔法の練習ができないとなると、船の中を見て周りたい。

 ベッドサイドに小さな地図があったので見てみる。



 客室は全6階層。


 1番上が1等客室専用の最上階甲板デッキ、食堂、酒場、ラウンジ、医務室、売店その他・娯楽施設。


 2階層が今いる1等客室のフロア。

 特別VIPルームが先端にあるようだ。


 3階層が2等客室。

 ラウンジ、酒場、娯楽施設。


 4階層が3等客室。

 食堂、酒場、売店、医務室は2等客と共用。


 5階層が4等客室。

 狭いビジネスホテルのような間取りの部屋。

 食堂、酒場、売店は3等客も使えるようだ。


 6階層が5等客室。

 かなり狭いすし詰めのような寝るだけの部屋。

 最低限の食事が配給制のように配られるようだ。



 3等客室からは船首甲板より下になっていて、面積もグンと広く取られている。

 実質1等乗客で2階層も占めてるのだから値段の高さに納得してしまった。

 本来であれば最上階が1等客室になるべきなのだろうが、魔獣の襲撃を想定している設計なのかもしれない。

 上の客室利用者は下の階へ行き来できるが、下の客室利用者は基本的に乗降・避難時以外は上へ登れないと記載されている。

 なんだこの世界の縮図のような利用設計は……怖い。



 「せっかく1等客室に乗ったのに、2人は散策とか行かれないんですか?」


 「ワタシは、ゆったり過ごしたくて乗りたかったのです。

  貴族や騎士がウロウロしてる所に好んで出かけたくないです」


 「プレダールの言う事に賛成じゃな。

  貴族に何か無理強いされた時に対処できる後ろ盾もない。

  ゴロ寝が1番じゃ!」


 なんだこの引き篭もり2名は……そんなに貴族は恐ろしいのか。

 食堂で何度か見かけているけどチョッカイ出してくるわけでもないし、不安になりすぎではなかろうか?


 「せめて今晩飲みに行きましょうよ、1等客専用の酒場で飲んでみたくないですか?」


 「確かに、それは魅力的ですね……

  どんなお酒があるのか見てみたいです」


 「暴れるような客は船員が対処してくれるじゃろうし、軽く飲む程度なら良かろう」


 食いついてくれて良かった。

 夜の八点鐘が楽しみだ。

 昼食後も読書をして過ごしたり景色を眺めたりした。



 ようやく待ちに待った1等専用酒場へ出発!

 食事前なら人もいなかろうと八点鐘までの1時間ほど飲むことにした。

 酒場は静かな雰囲気の、少し暗いフロアだ。

 高そうな赤い絨毯に、ほど良く固く柔らかい椅子、高そうな何が描いてあるか分からない絵画。

 そしてフロア中央にはやっぱり大きいシャンデリア。

 10組のテーブルと椅子と、カウンターに10席ほどある。

 ゆったりとしたスペースに金持ち用だなと感心した。


 カウンターに3人で並んで座り、ロングヘアーで糸目の男性エルフのバーテンダーにオススメの酒やカクテルを聞きながら飲む。

 何が材料の酒か、何を混ぜたのか分からないけど美味しい。

 ツマミはナッツの盛り合わせだけにしたが、とても満足した。

 人が多くなるのは食後1時間後くらいからで、それまではほとんど来ないという情報を聞き安心する。


 ボクらが怖がっている様子を見て、節度を守れば問題は起きないから安心して欲しいと優しく言われた。

 良いサービスだ。

 八点鐘を聞き、食堂に向かった。



 やはり何事も無く食事が終わり、部屋に帰った。

 昨日のように風呂場で着替えて湯を張ろうと思ったが、メリアは酔って寝てしまった。

 プレダールと中央テーブルで話をしよう。


 「貴族が嫌って昼間に言ってたけど、そんなに怖いんですか?」


 「アイツらはね、機嫌が悪くなると権威を傘にやりたい放題なんですよ。

  ちょっと先祖から強い加護とか精霊を受け継いでる程度で、大した力も無い癖にいい気なもんです!

  あぁ、服部さんはコピーできれば強くなるんでしたね。

  でも仲良くなるにはステータスや金儲けの話が無いと難しいでしょうね。

  近寄らない方がいいですよ」


 過去にイザコザに合ったかのような口ぶりだ。

 文官は苦労の連続なんだなと察した。

 実際、余程の階級にならない限りは脳筋が外交に出席する事は無いだろうし、幼女な見た目で外交先の気を緩ませたり忙しい事もあったのかもしれない。

 ボクは階級が無くて良かった!

 


 出港後から1週間は全員大人しく過ごした。

 ボクは本を1つ読み終わったので、水魔法でシャボン玉を作って維持してお手玉で遊んだりした。

 メリアから良いマナの訓練だと褒められる。

 珍しい事もあるものだ。



 だが、8日目の夕食に事件は起こった。

 4~50代の貴族の御婦人と筋骨隆々の人間の兵士が、わざわざ横を通り過ぎて自分の持っているワイングラスを零してきたのだ。


 「あら、いつも同じ服を着てらっしゃる貧乏人ではないですか。

  ごめんあそばせ。

  ワインの染みは落ちないですものね、これで新しい服でも買われたらどうですか?」


 そう言うと金貨1枚を兵士がテーブルに置いた。

 怒りたいが、こらえて反論する。


 「申し訳ありません御婦人。

  我ら平民には金貨2枚の服を1着買うのが精一杯なのです。

  金貨は結構ですから、どうぞお気になさらず」


 嫌味を混ぜて丁寧に対応したつもりだったのだが、しゃくに触ったようだ。

 少し震えながら貴族夫人が喋りだす。


 「あら、そのような粗末な服が2金貨もするのですか。

  ワタクシの審美眼しんびがんが曇っているとおっしゃりたいのですね!

  娼館屋しょうかんや風情が……っ!」


 確かに、ボクらの組み合わせは変だ。

 普通は組み合わさらないと言っていい。

 敵対するエルフと大鬼人の幼女を率いる26歳の人間の組み合わせで、1番簡単に思い付くのが娼館屋だったのかもしれない。

 プレダールもメリアも下を向いて黙っているが、ボクは我慢できなかった。


 「申し訳ございませんが彼女達は娼婦しょうふではありません。

  我らは対等な仲間として旅をしております。

  この船に乗船する際も規定の金額を支払って乗船しておりますし、こちらに不手際があるならおっしゃって下さい」


 隣のマッチョ兵士が睨んできた。

 ディグートの方が身長が高いし怖い。

 耐性が付くとは恐ろしいものだ、180cmのマッチョが雑魚に見えてしまう。


 「なんだその口に利き方は!

  テルカット伯爵婦人に失礼であろうが!」


 ゲェッ伯爵!

 公侯伯子男こうこうはくしだんくらいは知っている。

 爵位の高さ順である。

 上から3番目の伯の爵位だが、公爵や侯爵は滅多に一般に紛れて出歩かないであろうし、船内ではトップかもしれない。

 これはマズイ。


 しかし、ここでどう引き下がれと言うのか。

 土下座すれば許されるのならサッサとしてしまいたい。

 ……許されないだろうけど。

 が、それではボクの気が済まない。2人の為に!


 「どう失礼なのでしょうか?

  金貨2枚の服を汚され金貨1枚を出される方が失礼なのではないですか?

  もし私が不手際で御婦人の服を汚して金貨1枚出すのは失礼に当たらないのでしょうか」


 「このドレスは金貨5枚です。

  1枚では到底許せませんね」


 「では、金貨5枚……

  いや、7枚出せば汚しても構わないのですか?」


 「えぇ、出せるものなら……」


 ピンクの扇を広げて口元に当てニヤニヤしているのを隠している。

 言質さえ取ったならこちらの物だ。


 「側仕えのアナタもみなさんも聞きましたね?

  金貨7枚出せばテルカット伯爵婦人の服を汚しても良いそうです。

  異論はありませんか?

  無言は承認とみなしますよ!」


 大声で周囲に聞こえるように言ったが、船員も兵士も黙って伯爵夫人を見ている。

 全員問題ないという雰囲気だ。

 ボクは金貨袋に手を突っ込み10枚ほど掴んで投げつけた。

 周囲の驚く表情と同時に、テーブルにあったワイングラスを3つぶっかける。


 「申し訳ございません伯爵婦人、手が滑ってしまいました。

  金貨10枚ほどございますから、もっと良いドレスをお買い求めになって下さいませ。

  では、我らは食事が残っておりますので」


 ボクはスカッ! としたが、プレダールもメリアも顔を真っ青にして冷や汗がダラダラ出ていた。


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