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38.船旅の過ごし方


 食事から戻ると寝間着に着替え、中央のテーブルで本を読み始める。

 女性2名も着替えるから風呂場に行け! とお叱りを受ける。

 多数決は非情だ。

 ついでなのでお湯を張っておく。


 文句を言われる前に行動できる事はしておかないと、今後の船旅が不安の山だからである。

 出て良いと言われ、見るとゆるいパジャマを着ていた。

 着ている服が違うだけで新鮮な気分になる。

 考えてみたら、ずっと馬車旅だったからこういうのは初めてだった。


 「あ、お風呂の準備してくれてたんですね。

  気が利くじゃないですか」


 「そうじゃのぅ、少しは気が利くな」


 「えぇ、お嬢様方2名のご機嫌を損なわないよう振る舞いたいですから」


 執事のように右肘を直角にして掌を腹部に付けてお辞儀をした。

 どうやら怒りゲージは下がってくれた様子で良かった。

 とりあえず放置して大丈夫そうなので、プレダールのオススメ本を読む。


 やはり字が汚い。

 複写本のようなのだが、基本が癖字なのは目で慣らすしかない。

 江戸時代以前の流れるような文字の、草書体そうしょたいよりはマシか……

 アレは読めたもんじゃない。

 プレダールに明朝体のように、ピシッとした線の文字を書いて見せると、気持ち悪そうな表情になった。


 「なんですか、その古代文字みたいなカクカクしている文字は!

  読みにくいですよ!」


 「どれどれ?

  そうさな……ちぃと古い文字の書き方じゃな。

  服部の世界ではそちらが主流なのか、なるほどのぅ」


 メリアまで釣られて見に来たが、両名が同意見ならそういう世界常識なのだろう。

 郷に入りては郷に従えと昔の人も言ってたし、こちらが慣れなければ。

 逆に考えれば汚く適当に書いた文字は判別されるのではないか?!

 見せると、さっきよりは読みやすいけど見にくい。という身も蓋もない感想を頂く。

 センスがわからん。


 全員本を読みふけっているので時間の流れが曖昧なのだが、そろそろお風呂が溢れているのではなかろうか。

 案の定、フチまでギリギリ一杯だった。


 「お嬢様方、湯船に一杯になりました。

  どうぞお入りください」


 「うむ、苦しゅうない。

  では我らが先に入る故そなたは待っておれ」


 「くるしゅーない!」


 機嫌が良くなってきている気がする。

 執事プレイがお好みなのか? めんどくさい。

 黙々と目を文字に慣らしながら読む。

 少しずつ読むスピードも上がり、物語が分かるようになってくると楽しいな!


 ふと気になって舷窓げんそうから外を見る。

 月の明かりが日本にいた頃より明るく感じ、海が真っ黒より紺色気味に見える。

 近くでイルカのような大きな魚も跳ねている。

 遠くには岸に明かりが灯っていて、街があんなに遠くになったと実感する。

 進行方向は東側のはずなので窓は南側を向いているのか。

 月を探しても見当たらないはずだった。


 「……ぉぃ……おい! お主の風呂の番じゃぞ」


 振り向くとパジャマを着て肩からタオルを掛け、湯気立ったメリアとプレダールがいた。

 理不尽に見舞われてもこういう眼福がんぷくがあるからこそ耐えられる。

 挙動不審にならない様なるべく自然に了承し、風呂に入った。

 広いお風呂でお湯をたっぷり使えるのだから値段が高い理由もわかる。

 なんだかレモンのような柑橘系の香りまでするし、優雅だなぁ。

 魔法で衣服が綺麗になるとしても、入浴のリラックス感は格別だった。


 風呂から上がると、メリアが近づいてきた。

 ボクの髪は長くはないので布でゴシゴシすれば大体乾くのだが、魔法で軽く乾かしてくれた。

 温風が頭の周りをゆるく駆け抜ける。


 「回復と付与魔法に特化していると言ってましたが、火や風の魔法も使えるんですか?」


 「おかしな事を聞くな?

  身の回り程度の軽い魔法なら加護や祝福が無くとも使えるものじゃ。

  焚き火の火種くらいの火を出せないで、旅はできんだろうよ」


 ……例えば、カップラーメンにお湯を注いで3分待てばラーメンができるし、バーベキューで切られた野菜や肉を置いて焼くのも、料理ができる、には入らない。

 だが、両方食事であるし食べて美味しいものだ。

 調理免許というスキルが無くてもできる料理はある、スキル名がついてない魔法も一定までは使える、という事なのか?

 この世界の魔法の考え方は難しいな。

 水の精霊の祝福とやらもギフト欄に無いし。


 「そろそろ寝ましょう。

  朝遅いと食べ損ねますからね。

  おやすみなさいー」


 プレダールの腹時計を頼りにボクらは消灯し布団に入る。

 柔らかいベッドは久しぶりだったので、すぐに眠った。



 朝8時を告げる八点鐘で起床しボクだけお風呂場で着替える。

 先日買った豪華なデザインの服を着た。

 これで食事のドレスコードは大丈夫だろう。


 「おや、無理やり買わせたその服の使い方に気付きましたか。

  良かったです」


 プレダールは得意げにしている。

 メリアもプレダールも昨日とは違う、少し装飾やフリルが凝った服を着ている。

 無事に食事を終えたが、船旅は暇なんだな。

 部屋に戻って部屋着に着替えた。



 メリアに魔法について詳しく聞くことにした。

 ボクの知っている魔法の体系と違う気がする事が多いからだ。

 それに、スキルとして登録されてない魔法は一切使えないと思っていたし。



 魔法は「火」 「水」 「土」 「風」の4大元素。

 元素の混合と分離を可能にする動的な力として、元素を結合させる「光」と分離させる「闇」があると言う。

 光をプラスのエネルギー、闇をマイナスのエネルギーと考えるとわかりやすいと思った。

 光の攻撃魔法や闇の攻撃魔法と言ったモノは無いようだ。

 闇魔法に1番近いのは怨嗟の指輪の恨みのエネルギーだが、それについて詳しい事は分からないらしい。

 と言う事は、光魔法とは愛なのだろうか?

 分からない事が余計に分からなくなった気がする。


 理解していないのを表情で悟ったメリアは、渋々といった表情だ。


 「習うより体感で慣れろ! がお主向きのようだな。

  我は理論もカジってから体感で慣れるタイプだが、習得は個人差が激しい故、どれが正攻法と言うのは無い。

  だが、船内で慣れない魔法を使うのは辞めろ。良いな?」


 最後に釘を刺してきた。

 回復魔法や指輪の誤作動と思われる失態をしているだけに、反論できない。

 下手に使って沈没しても困るので、重々承知していると返事をした。


四元素はWikipediaのエンペドクレスの項目を少し頂きました。

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