表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/310

33.別れと出会い


 翌朝、ディグートは縄でグルグル巻きにしてあった野盗の頭と人狼3名を荷台に積み込む。

 ポイポイ投げ込むので、痛てぇ! ふざけんな! 等の苦情が聞こえてくるが、そしらぬ顔で全員積み込んだ。

 手慣れているなぁ。

 人間を何人か取り逃したらしいが、ほっといても悪さができる程ここは甘くないとディグートは言う。


 「魔法が使えるならいざ知らず、ただの人間だぜ?

  俺らや人狼に良いように使われるか、獣の餌になるのがオチさ」


 人間にとっては治安が悪いのではないかと寒気がした。

 力こそが全ての大鬼人の世界は、大鬼人以外にとっては意外と住みにくいのではないか?


 ボクら一行がカモにしか見えないのはどこの荒くれ者も同じらしく、デンカート王国に着くまで7回襲われた。

 昼間だったり夜間だったり。

 プレダールがソロ無双したり、ディグートの肩書を知ってる者がいて金品置いて逃げられたり色々あった。

 これで平和ってマジ?!

 


 到着したデンカート王国の城下町は、海に面したとても大きな街だ。

 白い石材で統一された街並みは美しい。

 人間を結構見かけるし、時折フードをかぶった綺麗な金髪をゆらしているエルフもいる。

 ボクはスキルを見れるからすぐわかるけど、普通じゃわからない格好の人もいて楽しい。


 大きな街だが、大鬼人馬車で通れる大きな道は少ない。

 ゆったりとした下り坂を進みながら、ボクらは御者台で物珍しい街並みを楽しく眺めた。

 大きな馬車は、やはり珍しいようで子供が近づいてきたり騒いでいる。

 ディグートは、大丈夫だ好きなだけ見ていいぜ、と声をよく掛けている。子供が好きなのかもしれない。

 途中、野盗達を引き渡して2金貨もらったそうだ。

 全員に大銀貨5枚ずつ分けてくれた。


 港に着き、プレダールがファッシーナ中央に向かう船便を手配しに行くと言うと、ディグートが申し訳無さそうに切り出した。


 「俺はここまでだ、3人分で頼むぜ。

  大鬼人馬車も向こうじゃ使いにくいだろうし輸送費もバカ高いからな。

  じゃ、これは服部がドリス将軍から頂いた報奨金の金貨300枚だ」


 「「金貨300枚もくれたの?!」」


 プレダールもメリアも驚愕している。

 ボクにとっては金銭価値がサッパリわからないので、多いんだろうなぁくらいしか感じなかった。

 硬直している2名に変わって、ディグートが補足してくれた。


 「俺の給金が年間金貨20枚だ。

  飯代とかはタダだが、そう考えてもかなりの額だろ?

  将軍も俺も仲間も、デリンの件はあったが結果としては感謝しきりなんだ。

  もうちょい堂々としてもいいと思うぜ?

  ホントはついて行きたいんだが、デリンの抜けた穴を埋めなきゃならんしな。

  スマン……じゃあ、元気でな!」


 ディグートは笑顔で手を振って馬車を引き返して行った。

 巨大な馬車の旅と塩味の濃い料理にようやく慣れてきたのに、少し寂しい。

 プレダールは特に感傷的になる訳でもなく、笑って言う。


 「じゃあ、1等客室にしましょう!

  ワタシ1度乗ってみたかったんですよ。

  1人金貨1枚で4人部屋で乗れるようですし。

  行ってきまーす」


 ぶら下がっている船便の看板で値段を確認したプレダールは、意気揚々とボクの金貨袋から3枚抜いて行ってしまった。

 結構行列ができているので暇である。


 メリアは耳が目立たないようにフードを被っているが、逆にが目立っている気がする。

 色んな人にメリアがジロジロみられ、その視線がボクにスライドしているのがわかる。

 彼女はそんな視線は慣れっこだと言わんばかりの、すました表情だ。

 ボクは慣れてないからあまり良い気はしない。


 「そういえばファッシーナ王国は中立地帯みたいだけど、行ったことあるんですか?」


 「当然じゃ、何度か立ち寄った。

  冒険者ギルドもあるし、一山当てよう!という奴らが仰山ぎょうさんおる。

  治安はここよりは良いと思うぞ。

  悪さをすると最悪、王国から追放されてしまうからのぅ。

  エルフもそれなりにおるし、指輪の情報を集めるには良いであろう」


 個人的には、頼りになる脳筋前衛が居なくなったので不安だ。

 現状、何かと戦う事を考えたら超地雷ボク後衛メリア中衛プレダールはバランスが悪すぎる。

 気を抜いて考え込んでいると、50枚ずつで小分けして渡された金貨の袋を1つひったくられてしまった!

 もう30mくらい離れている。

 メリアはすぐに反応して、走り去った方角を見据えて手をかざした。


 「我が資産を奪う愚かな子供よ、惨めに縛られ宙吊りになって後悔せよ!

  スネーク・キッズ・バインド!」


 メリアの右手から白い蛇が何本か出て、ひったくりの子供に向かって飛んで行く。

 数秒で角を曲がって見えなくなってしまったが、うわああ降ろせー! という大きな声が聞こえてきた。

 メリアは溜息をつき、ゆっくりと歩きだした。


 「お主な、その小袋は大金なんじゃぞ?

  もう少し注意して貰いたいものじゃ。

  ……わかっておるのか?

  あの子供が持って行っても幸せにはなれない。

  仲間内で殺し合うくらいの大金なのだ」


 確かに、スラム街に大金を持ち込んだら血で血を洗う奪い合いが始まりそうだ。

 蛇が一匹ゆっくりと戻ってきたと思ったら、金貨が入った袋を吐き出して消えた。

 魔法便利だな! 敵に回したくない。


 「ひったくり用の魔法まであるなんて、一味違うな!」


 「この世界に貧困の子供は多いからのぅ。

  使えると何かと安心じゃろ? お主もはよ覚えろ。

  今回だけは助けるがな、大金であるし」


 路地を曲がって10mほどの場所に、両手両足を縛られ逆さ吊りにされた子供がいた。

 薄い水色の髪の、小学4年生くらいの風貌の少年だった。

 右耳がネズミにカジられたように欠けているのが目立つ。

 ギフトは見当たらない。

 メリアが腕組みして少年を見据えた。


 「おう、少年。

  大金を奪った罪じゃ、

  殺されても構わない覚悟はあるんじゃろう?」


 「うるせー耳長!

  お前らのせいで、とーちゃんも、かーちゃんも死んだんだ!

  少しくらい貰ったってバチは当たらねぇや!」


 至極最もだ。

 しかし本当に神がいて、本当に罰を与える存在だとしたら……

 この世の戦争は100年も続いてない。


 「そうは言うがな……

  少年が奪ったのは此奴からであろう?

  関係ないではないか」


 「エルフと一緒にいるような人間は、どうせ同じだ!

  人殺しだよ!」


 人殺し。

 あぁそうだった……

 新しい事の連続で、記憶が少し風化していた所があった。

 少し冒険を楽しんでいた。

 未知の世界が楽しかったんだ。

 ボクはデリンさんを殺した、最低な人間なんだった。

 ごめんなさいデリンさん。ごめんなさい。


 俯いて表情が悪くなったボクを見て、メリアは少し心配そうな顔をする。

 少年を降ろしてやって欲しいと頼むと、蛇はゆっくりと地面まで降ろした。

 両手両足は縛られたままだ。

 ボクはしゃがんで少年に目を合わせる。


 「なぁ、少年。

  君はボクを殺せるかい?

  殺せたら金貨50枚どころか100枚でもあげるよ」


 メリアが、おい! と止めそうになるが、ボクはさえぎって続けた。


 「奪うのは良くて殺すのは駄目なのかい?」


 「そんな事言ったってよ、俺ら子供はそうでもしないと何も食えねぇんだよ。

  じゃあ、どうすればいいんだよ!」


 「足が早いなら冒険者ギルドにでも行って盗賊見習いになるでも、どこかで農業をやるでもいいじゃないか。

  それじゃ駄目なのかい?」


 「俺はまだ8つだ。誰も雇ってくれねぇよ」


 ボクが少し考えていると、メリアが止めろ! と言ってきた。

 さすが年の功だ。

 ボクが何を言おうとするか、わかったらしい。


 「君がもし、冒険で死ぬ覚悟があるならボクが雇うよ。

  仲間は何人いるんだい?」


 「えっ……妹が1人いる。

  3日も何も食べなくて元気ないんだ」


 少年は妹の安否が心配で仕方ない様子だ。

 さて、子供2人を雇うか、1人か、両方見捨てるか。 

 理想は2人共救う事なんだろうけど、どうしたものか……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ