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308/310

308.伝わる決意


 周囲は物音1つしない。

 目の前の闇の神ダーガが、チカラを溜め込むように両手で黒い渦巻きを生成し始めていく。

 ブラックホールなのか、周囲のモノが吸い込まれ始める。


 このまま大きくなりすぎては太刀打ちできない。

 同じ星10の佐藤遙華には出来たんだ。

 ボクに同じ事が出来ないはずはない!

 幼女が置き去った八咫鏡を両手に握りしめて叫んだ。


 「光の神アーラ フルインストール!!!」


 鏡から光が吹き出し、ボクの体を光が覆っていく。

 そこら中で乱反射したかと思うと、急に視界が高くなった。

 頭にアーラの声が響く。


 『お主、妾をその身に宿したのか?!

  これならば、ヤツとの条件は五分じゃ。

  いや、神器がある分、こちらの有利!

  一気に押し切るぞ!!』


 初めて宿す神のチカラに圧倒され、主導権が取れない!

 ダメだ、まだダーガの方が一枚上手だ。

 ボクの考えも虚しく、切りかかった右手が引き千切られてブラックホールに吸い込まれた。

 闇の神が高笑いする。


 「見た目通り、知能まで低下したかアーラ。

  俺はこの1万年、分散されつつも力を蓄えてきた。

  しかし、お前はバカバカしくも封印され力を削ぎ落とされてきた。

  結果は見えている。

  無駄に力を消耗する事もあるまい。

  全てを無に返し、共に新しい世界を作ろうではないか」


 「何を愚かな事をっ!

  貴様のような何も無い真っ暗な想いなど気色悪い。

  この肉体があれば、闇を全て光で埋め尽くしてくれる!」


 即座に修復した右手を高々と上げ、一面を光で埋め尽くす。

 その中を漆黒の右腕が伸びてきて胸ぐらを掴まれた。


 「信心深い者の少ない光に、出来る事などもうない。

  平和になった世界といえど、恨み、憎しみ、全ての闇は深く深く根付いている。

  いさぎよく負けを認めろ。

  貴様に居なくなられては、俺も面倒だ」


 どんどん光の力が吸い取られていく。

 おかげでボクの意思で体が動くようになった。

 掴まれていた着物部分を捨て去り、一度引き下がる。


 『逃げてばかりでどうするのだ!』


 「アーラ様が弱いからしょうがないじゃないか!」


 『妾が弱いのは……お、お主が悪いのだ!

  もっともっとマナの出力を上げよ!』


 そんな事が出来たら苦労は……!

 マナブーストだ。

 一度だけだが出来たんだ、今出来なくてどうする!!

 しかし、ゆっくりと祈っている暇は無い。

 

 ……あれ?

 随分と闇の神の動きが鈍くないか?


 『出来る事があるならば、やるが良い。

  意識もろとも光速化させた。

  全ての者は、今の我々には追いつけぬ!』


 ゆっくりと強く強く想いを練り上げる。

 時間がかなり経過したつもりでも、 ダーガの右手の指がほんの少し動いた程度だった。

 MPが大きく膨れ上がる!


 「さあ、第2ラウンドといこうかダーガ。

  ……と言っても聞こえてないかな」


 即座に首切り羅刹を拾い、闇の神の首目掛けて横一文字に振り抜く。

 しかし、闇の神は計算済みなのか取れた首を左手で受け止めようとしている。


 『ダーガを倒すには心の臓の位置にある、マナの源を断たねばならぬ。

  首を取っても消耗させる事は出来るが、こちらは不慣れな憑依。

  持久戦は分が悪いぞ!』


 そんな事を急に言われても!

 こちらにある武器は、他にはミスリルカタールのみ。

 相手は10年前のボクの剣に魔砲まである。

 完全に不利だ……どうする?!


 光速化が解除されてしまい、避け続ける防戦一方。

 相手を観察しても、突破口が見いだせない。


 『そなたの身がもつかはわからぬが、1つだけ方法が無い事もない』


 「負けたら全部終わりなんです、それでいきましょう!」


 『そのインストールとやらを、手持ちの神全てで行うのじゃ。

  一時的な融合であろうが、ダーガを上回れるはず』


 なにその無茶振り?!

 だが、他に案は思いつかない。

 考えている合間にも攻撃の手は休む事なく続いている。

 

 覚悟を決めて2つの神の名を呼ぶ。


 「火の神ザラー 光の神アーラ フルダブルインストール!!」


 成功したようで、白い炎を纏ったような体になった。

 力が湧き上がってくる!!

 その反動なのか、様々な声が頭に流れ込んでくる。

 

 それでも、怨嗟の指輪の主になった時の方が……辛かった!

 まだこれくらいなら我慢できる!

 ミスリルカタールを拾って攻撃を避けつつ心臓に突き刺す。


 「驚いたが、素早さが落ちているな。

  俺の影を斬った事も気付かぬようでは弱くなっているぞ」


 死角からの攻撃で右腕を肩から全部持っていかれる。

 傷口から黒い闇の侵食が始まった。

 もしかしたら、これは何かのスキル効果かもしれない。

 雷の歩法術とマナの瞳を咄嗟に2つ消した。

 即座に全てを飲み込む者がコピーされた。



  全てを飲み込む者

  闇の神ダーガの寵愛を受けた証。

  物理も魔法もスキルも何もかも飲み込む。

  飲み込んだモノはスキル保有者が自在に扱う事が出来る。


 

 「アーラ様、意識光速化また使えますか!」


 『実際の時間にして5分程度なら可能じゃ。

  それ以上はもう肉体が持たぬ!』


 「それだけあれば十分です、お願いします!」



 最後の考慮時間として使った。

 飲み込んだモノは自在に扱える……?

 ならばなぜ、佐藤遙華は何も使ってこない?

 闇の神が全ての権限を握ったにしては、他のスキルを使ってこない。

 それとも、もしかすると……まさか……

 いや、そんなはずはない!


 不意に、ラオスの所で出会った坊主テンカイの言葉が甦る。


(道徳的決断を迫られる時が、突然来るだろう)

(それは、たった1度の過ちかもしれん)

(気負わず受け止める事だ、正義とは必ず誰かに衝突する考え方なのだからね)


 くそっ……この事か!!

 そう考えれば、全ての辻褄が合う。

 

 ボクが強くなるのを促進した事。

 食べた物をシャリアの肉だと言って決別の決意をした時、殺せたはずのボク達を殺さなかった事。

 人質を盾に投降を迫らなかった事。

 そして……ボクに嫌われるように彼女が振る舞い続けた事だ。


 決意が大きくゆらぐ。

 

 『何を考え込んでおるのだ!

  もう残り幾ばくもないぞ!!』


 時間が圧倒的に足りない。

 グズグズしている時間は無い。

 それでも、手が震えて決心できない……

 

 (信じた道を進め)


 真っ黒になって死ぬ寸前のメリアが残した言葉が響き渡る。

 ありがとうメリア、もう迷いは無い!!

 迷いを振り払って叫ぶ。


 「契約せし、全ての神よ。

  我が手に宿り一点を貫く剣となれ!!!

  左腕限定・オールフルインストール!!」


 契約された指輪1つ1つから強い光を放つ。

 5つの属性が混ざり合っているのが感覚で理解できる。

 何もかもを貫く意思を持って闇の神の心臓部を突き刺した。


 色濃かった闇が爆発四散するように弾け飛ぶ。

 やったと思った瞬間気を抜いたせいか、ボクのインストールは解除された。

 

 薄っすらと粉雪が積もり始めている。

 白い息を吐きながら左腕を抜き去ると、佐藤遙華だった体はボロボロと崩れ始めた。


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