302.朝食会議
スーユが消えて、しばらく考え込んでいると後ろで小さな呼び声が聞こえた。
振り返ると、カーナと表示されている緑がかった金髪エルフ女性が立っていた。
「今のは……水の神スーユ様でしょうか?
拝見する事が出来、真に眼福の至り。
服部様、朝食の準備が出来ましたので会議室に行きましょう。
もしや……隣にいるのは稀代の天才メリア様ですか?!」
「……腐ったアダ名を教えたのは貴様かスレイカーナ。
大昔の話だ、誰彼かまわず吹聴するのはやめよ」
「いえ、私は天才だと思っておりますとも。
小さき頃のメリア様は、それはもう期待の風でした。
全てのマナに愛されていると、当時の誰もが羨望の眼差しで見つめていたじゃありませんか」
「成長したら、この有様じゃ。
くだらぬ事を言っておらんで、さっさと朝食にしよう。
儂も急に腹が減ってしまったからな」
メリアは、そう言って口をへの字にして足早にアジトに戻って行った。
残念そうな表情のカーナに声をかけると、怒った様子でボクを見つめる。
「マナの潜在は、血筋や生まれもったモノで決まるのです。
幼少期だけ一時的に強いというのはありえません。
もしや、服部様が何かなさったのですか?!」
「何もしてないよ、ひどいなぁ……
ボクがメリアに会って過ごしたのは10年前に4ヶ月くらいだ。
当時よりマナは多いし、十分強くなっているように感じるけどね」
「お年を召してなおマナ量が増えるのは、愛されている証。
服部様からも、強く言ってくださいませ。
メリア様こそ女王たる器です」
自信満々に語るが、過去のメリアの事なんて夢の中の出来事しか知らない。
お腹が鳴ったので歩きながら続きを聞く。
終始メリアを尊敬している話だった。
ボクは十分メリアの事を尊敬していると伝えると、安心した様子で開放してくれた。
会議室では、簡単な食事をしながら全員会話している。
その片隅に気まずさを全面にあらわした岩倉琴音がいた。
ボクの顔を見ると、嬉しそうに駆け寄ってきた。
「ニンニン生きてたんだね!
その……ごめんね、私だけ助け出されちゃって……
あれだよね、もっと他の人の方が良かったよね……」
相変わらず自信無さそうに落ち込んでいる。
なだめて落ち着かせ、横で一緒に食事しながら城の中の事を聞いた。
全員無事だが、個別に牢屋に閉じ込められていると言う。
琴音のいた所は助け出す通路に1番近かった為、どうにか脱出できたらしい。
「他の人が無事だと教えてくれただけでも、十分嬉しい。
誰が大事とか、誰がいらないとかは無いよ。
ボクは前にも言ったじゃないか、琴音さんは当たりキャラだってね」
「そ、そうかな……良かった。ありがとう」
安心したように息を吐いて食事を続けた。
マナの流れが見えると、人の感情もわかりやすい。
明るい表情をしている時は、マナの流れも穏やかだ。
メリアがタイミング良くボクを勇気付けてくれたのも、これがあったからかもしれないな。
食事が終わると、雷冴が立って説明を始めた。
「食ったばっかで悪いが、積み込みが終わり次第、飛空艇に乗り込む。
行き先は2つ。
東京近郊で皇帝討伐組以外は全員降りる。
それから、俺ら討伐組は帝都の城に飛空艇で襲撃だ。
何か質問がある奴はいるか?」
誰もが続きの言葉があるだろうと口を閉ざす。
しかし、雷冴はそれだけ言うと本当に質問を待っている様子だった。
すんげー適当な作戦だなオイ!!
ボクが手を挙げると、雷冴は嬉しそうに立てと合図した。
「襲撃だ、はいいんですけどね?
城には他にも日本人や人質がいるんだ。
彼らはどうする?」
「なんだ、そんな質問かよ……
リッテとかゴゴラス達が担当する。
そんで、質問はまだあんだろ?」
そんなにポンポン出てこねーよ!!
雷冴はボクに何を期待しているんだ……
なんとなく決戦PTが誰なのか聞いてみると、嬉しそうに口を開く。
「決戦のメインは、俺と服部の2人だ。
俺は補助にカーナとラリリスを付ける予定だが、お前はその2人を連れて行くんだろ?」
「いや、琴音さんも連れて行こうかなって……」
「エッ! やだよ琴音弱いもん!!!」
共有化のスキルは絶対必要になる気がする。
かと言って、今は持っているスキルを消して入れ替えられない。
大事な戦力である事を告げると、複雑な表情で了承してくれた。
その会話が終わると、雷冴はうなずいて続けた。
「最終戦の選考に漏れた奴らは弱い訳じゃない。
適材適所ってやつで、俺らが安心して打倒皇帝に集中できるように働いて貰う。
少なくなっちまった今の反乱軍じゃ、どこも人手が足りない。
不満がある奴もいるかもしれんが、あと数日だけの辛抱だ。
勝ったら大宴会だぜ!!」
「負けたら、どうするんですか?」
プレダールが冷静な表情でツッコミした。
誰もが士気を高めている所に水を差し、険悪なムードが流れる。
それでも雷冴は苦笑いして答えた。
「最悪の事態に備えるってのも大事だよな。
その時は、皇帝の天下はゆるがない。
各自で元の生活に戻ってくれて構わない。
職が無い者は、ラオスを頼ってくれれば対処してくれる手はずになってる。
……まぁ、負けねーけどな!!」
雷冴はボクの横にいるプレダールに向かって意気込む。
隣から安心したと小さな声が聞こえた。
メリアも、肝が座った男で安心したとボクを見つめてくる。
2人の手を握り、必ず勝とうと意気込みを伝えると、強く握り返してうなずいてくれた。
彼女達の強い意思が伝わってくるようで、胸の奥が熱くなったのを感じた。




