3.爆死ガチャ
「えっと何の話でしたっけ?
……あぁガチャの話でしたね」
プレダールは、殴られた頭をすりすりして話し始める。
大鬼人は短気な人が多数だという話だし、文官は大変そうだ。
「窮地にならないと使用許可が出ない異世界人間召喚ガチャは、回せるだけ回されてきました。
ですが、今まで好戦的なギフト持ちは3名しかおりませんでした。
残り10名は、戦闘をしたくない、こんな異世界は嫌だと嘆き、身を投げたり……
大鬼人と友好的に接することのできない者は、軽い諍いで命を落とすなど、散々たる結果だったのですよ」
デリンはプレダールを小さく小突きながら口を開く。
「しょうがねぇだろう……?
鎧が重い武器が重い血を見たくない、元の世界に帰らせろ、いつも文句ばっかりだ!
戦いたくないけどメシはよこせ?
そんな奴ら、いなくなった方が清々すらぁ!」
「言ってることはわかるけどねデリン。
彼らがいないと負けちゃうのよ?
もう少し優しくしてあげるべきよ」
一部の職業の方々を除き、戦争や血を見慣れている方が少ない現代人だ。
実際の戦争の最中、それも敗北目前の陣地に召喚されたら嘆きたくもなる。
ボクだって血や戦争に無縁で生きてきたから嫌だ。
エルフとか魔法を近くで見てファンタジーに胸を踊らせたいよ!
美形なエルフと話したり、長い耳を見たり、触ったりしたい。
ボクは弓と魔法のエルフ族に召喚されたかった。
でも現実は逆の陣営にいて、このままだと殺されてしまうんだ。
冷静に考えなくては……
「それで、好戦的なギフト持ちの方はどのような戦果を挙げたのですか?
ボクも会って話を聞いてみたいです」
「申し訳ありませんがそれは不可能です。
戦死されましたから……」
今までニコニコしてばかりだったソラルさんが急に真面目な顔になり、そう言って続ける。
「私もデリンも止めたのですけどね。
少ない修練時間で戦に出るなど無謀だと。
ですが、そのまま出陣し帰っては来ませんでした」
「このチカラがあれば負けるわけがねーよ!ってイキがってたな。
ざまぁねぇよ……」
なんか急に敗戦濃厚な話になってきた……
おそらくギフト持ちがいないと負けるのに、肝心な好戦的なギフト持ちがいない。
ボクも好戦的ではないし、能力分析とコピーの2つではギフトの名前的に現状では火力が出せそうもない。
……そういえば今は何時だろう?
起きてから何も食べてないからお腹が空いた。
しかし急に重い空気になった状態で、食事はいつですか? などと空気が読めないことは言えない。
どうにか話題を変えて食事の時間を聞きたいのだが、1番大事なことを聞くのを忘れていたことに気づく。
「次の戦はいつになりそうですか?」
「おそらく2~3日後……遅くとも5日後でしょうね」
「その根拠や推察理由があれば、お教え願えませんでしょうか?」
「見るのが一番でしょう。
ちょっと外までご同行願えますか?」
まだ若干シリアスな顔をしているソラルが、扉を開けて部屋から出ていく。
ついて行くと遠くまで見渡せる展望台のような屋上についた。
かなり高く感じ、遠くまで見渡せる。
ソラルが遠くの黒い線を指差し、諭すようにゆっくりと話し始める。
「あの黒い線が捕虜にされた大鬼人による盾の最前線です。
少しずつ、ほんとに少しずつ動いているのです」
聞いている感じだと、初めて鉄砲が戦で使われたとして有名な、織田信長の長篠の戦いの馬防柵の役割を、捕虜大鬼人が担っているようだ。
動く3mの鉄壁とか怖すぎ!
「日によって少し早くなったり遅くなったり、隊列を乱したりしてんだ。
あいつら捕虜になっても、こちらの本陣に少しでも時間を稼がせてやろうって努力してんだろうよ。
あいつらの気持ちに報いてやりたいよ……クソッ」
声に気づいて振り向くと、プレダールを脇にかかえたデリンがいた。
どうやら戦線を前進させて本陣を移動させ、再設定後に再戦するようだ。
その時間をできるだけ稼いでくれているおかげで、2~3日は大丈夫ということらしい。
ボクは何となく疑問に思った事を聞く事にした。
「素朴な疑問なんですけど、いいですか?
あの鎧を装備して大盾を持った大鬼人の戦士は、全速力で走った場合どのくらいでこの城に着きますか?」
「こっからだと距離は……20kmってとこか?
20分くらいだろう。
そのくらいできねぇようじゃ、猛進部隊とは言えねーからな」
重装備で時速60kmって怖い! 怖いよ!
それだけの身体能力あったら対人無敵だわ……生きる戦車のようなものだ。
デリンが他種族に頼りたくない、という戦闘力に納得してしまった。
そんな時、抱えられた幼女が何かに気付いた。
「おーーーひーーーるーーー!
お昼の時間だよデリンさん!
このまま食堂行こうよ!」
「おう、ようやく朝飯か。
腹減ってしょうがねぇわ。
んじゃアタシらは先に行ってるから!」
颯爽と駆けて行ったと同時に鐘が鳴った。
やっぱりみんなお腹空いてたんだね……
残されたソラルは微笑みながらボクに目を合わせた。
「では、私達も食堂に行きましょうか。
早く行かないと無くなってしまいますからね」
無言ソラルの左脇に抱えられ、食堂まで全力疾走されてしまった。
下手なアトラクションより疾走感があって楽しかったが、正直怖かった。