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27.馬車旅


 城塞正面入り口にて待っているが誰も来ない。

 考えてみたら待ち合わせ場所とかを決めていなかった気もするが、普通は正面の出入り口ではなかろうか。


 もしかしたら、無秩序に散らかったプレダールの荷物が纏まっていないのかもしれない。

 少し様子を見に行こう。


 「プレダール上級文官でしたら、先程出て行かれましたよ。

  大きな荷物持って」


 フィスがニコリとしながら教えてくれたが、どこに行ったんだあの幼女は。

 しかも大きな荷物ってどういうことなんだ?

 旅と言ったら馬車か歩きだが、こんな大きな大鬼人達用の馬車でもあるのか?

 いや、無い方がおかしいか……?

 いやだがしかし……

 念の為に厩舎きゅうしゃか馬車小屋を聞いてみると、1階の行ったことのない場所のようだ。

 到着すると、メリアが不満そうに口を開いた。


 「おや? お主は荷物が少ないのではなかったか?

  女性を待たせるとは良いご身分じゃのぅ」


 「ようやく服部さんが来ましたか、これで出発できますねー」


 2人しかいないじゃん……しかも馬いねーし!

 馬鹿デカい馬の置物しかない。

 プレダールを先頭に歩き始める。

 正面玄関で待っていたり迷ったと伝えると、呆れられた。


 「まさか、歩いて出発するつもりだったんですか?

  常識的な思考の持ち主だと思っていましたが……もしかして馬鹿ですか?」


 「え、だって……大鬼人オグル軍に馬いなかったから……すいません馬鹿でした」


 「失礼ではないか、此奴はこの世界に来て4日と聞いておる。

  わからぬこともあるだろうよ」


 実はエルフは本当に優しいのかもしれない。


 「元の世界には馬がいないのかもしれんぞ?」


 「あぁー、筋肉も魔法もなしで高速移動する乗り物があるって言ってましたし。

  なるほどメリアさんもたまには良い事いいますね」


 たまにはとはなんじゃ! とメリアとプレダールが言い争っている。

 若干やかましいが、仲良さそうで安心した。

 プレダールが大きな梯子はしごの前で立ち止まった。


 「さあ、乗りましょう」


 いや、乗りましょうって……

 なんだこのデカすぎる馬車は……目がバグったのか?

 鉄製のような車輪の半径は、ボクより大きいぞ??

 馬車の荷台の横幅もデカすぎる。ゆうに5mはある。

 荷台の長さも横幅に合わせて長い。10mクラスはあるぞ……


 パースが狂っているのかもしれない。いや、だが手で触れる……

 プレダールもメリアも3mほどある長い梯子を使って、当たり前の様に中に乗り込んでいく。

 頭がパニックになりながら自分も梯子を昇って入った。

 前の方でプレダールとディグートが挨拶まじりに会話をしている。


 「ずいぶん痩せた馬ですね。大丈夫ですか?」


 「これでも残り5頭しかいない内の2番目に良い馬だぜ?

  大飯喰らいの馬から潰して飯に出してたってよ」


 こんな大きな重そうな馬車を引ける馬となれば、当然大きい。

 先程から見かけていた、随分大きな馬の置物だなと思っていたのは生き物だったのだ!

 なにもかもが異世界サイズだ。異世界なんだけどさ!

 ディグートが御者台ぎょしゃだいで馬車をゆっくりと走らせる。

 頭が現実の処理に追いつかず、オーバーヒートしそうだ。


 「おや? 大鬼人馬車に乗れて感動のあまりほうけておるぞ。

  プレダール、少しは教えてやった方が良いのではないか?」


 「そうですねー。

  ワタシも小さい頃、初めて見た時はビックリしましたし」


 座り込んだボクの目の前で、プレダールが手をヒラヒラさせて意識確認をして覗き込んでくる。



 大鬼人馬車とは体の大きな地方名産の馬を使用した、体の大きな男性大鬼人兵を乗せたり多くの荷物を運ぶ用だと言う。

 街道もその分だけ広く、小さな馬車が来た時は下をくぐり抜けて行くこともあるらしい。

 スプリングが効いているのかあまり揺れないし、黄緑色のカーペットまでついていて内装も豪華だ。

 城主用の良い馬車だと言う。

 ありがとうドリス将軍。

 ふと疑問に思ったので質問する事にした。


 「これどこに行くんですか?

  まぁ、名前言われても1ミリもわかりませんけど」


 プレダールは仕方がなさそうな顔でサッと地図を荷物から取り出し広げ、指差しながら教えてくれる。


 「敵勢力の影響が強い東側のターパス領地ではなく、北のデンカート王国の港に向かいます。

  そこから船に乗ってファッシーナ王国に直通して、経由してエルフの森に向かうかどうか、という所です。

  何にしても結構長旅ですよ?

  ゆっくり話を聞かせてもらおうじゃないですか。

  ねぇ? メリアさん」


 「さん付けするとは良い傾向じゃなプレダール。

  我の偉大さがわかってきたと見える」


 「年長者には敬称くらいつけませんと……ねぇ?」


 「なんじゃ?!

  それは我がババアじゃと言いたいのか、そうじゃろう!」


 邪推してドツボにハマって遊ばれているメリア。

 殴られないオモチャが見つかってよかったよかった。


 「ハァハァ、まぁ良い。

  我は寛大じゃからな。

  それにしても服部殿、その指輪を詳しく見せてもらえぬか?」


 なんで殿呼び?!

 忍者みたいになるから嫌だ!

 他の呼び方を思い付かないものだろうか。

 うーん、うーん……


 「メリアさん、殿は辞めてください。

 呼び捨てか、さん付けでお願いします」


 「そうか?

  一応3度の命を救われておるから良い敬称にしたのだが、気に入らぬか。

  では今後は呼び捨てにさせて頂こう。

  ほれ早く見せい」


 指輪を外して渡すと、しげしげと色々な方向から見つめている。

 彫られている模様や文字のようなものを見ているようだ。

 見ているとハッと思い出す。


 「それたぶん、ボクがいつの間にか持っていた指輪です。

  城主様に渡した時に凄く謎だったんですよね」


 「指輪に足でも生えて服部の袋に入ったと言うのか?

  そんな馬鹿な魔法の使い方も無いであろうよ。

  何か心当たりはないのか?」


 「心当たりって……うーん、ボクを助けてくれた包帯のエルフくらいですかね。

  一緒に地下に潜ってましたし」


 「包帯のエルフ……?

  少々待て服部、そのエルフについて詳しく教えよ」


 「詳しくって……ボクが危ない所を助けてくれたんですよ。

  左腕が折れてるみたいで、三角巾に吊るして包帯グルグル巻きになってた以外、特徴は覚えてませんよ?」


 「それは変じゃぞ……?

  先日はエルフ側の軍であったのだろう?

  どの軍でも衛生兵は最後まで残るものじゃ」


 「なるほど! 確かにそうですね、服部さんが馬鹿です!

  いや、でも初めての戦場で、パニックもあったでしょうし致し方ないですね。

  戦果自体は初陣にしてはあり得ないくらい素晴らしいですし」



 何か凄く煽られているような、フォローされているような、褒められているような?

 随分楽しそうに喋ってるな、ガハハ! とディグートが豪快に笑った。


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