23.指輪の主
マナに触れれば能力をコピーできるのではないか。
メリアに魔法をかけて貰った時に思ったことだ。
魔法の発動元であればマナを宿していると推測していたが、思った通りだ。
能力解析で見てみると指輪には『怨嗟の宿主』というスキルが付いている。
「メリアさん、もう一度だけ確認します。
指輪の主になれば魔法は止まるんですね?」
「確信は無いぞ、前例もないしな。
ただ、理論上は止まるであろうよ。
反動で何が起こるのかは推測もできぬが……」
「廊下に出ましょう。
魔法陣が止まるか、そして止めるボクに何かあるか。
……見ていてください」
人間に何ができる? というメリアの侮蔑に似た目線が痛い。
できるかどうか、そりゃわかんないよ!
でも怨嗟の宿主をコピーできれば、ボクは主になれるはずだ。
所持しているスキルを確認し、どれを捨てるか考える。
マナ貯蔵庫、魔法3種、加速、飛翔、透明化。
万が一生き残った後、ギフト所持者が居ない今では再度コピーの目は薄い。
……重要な選択肢だ。
ここは200年生きているという大先輩に確認してみよう。
「メリアさん、消える魔法ってこの世界にありますか?」
「姿が見えなくなる魔法は存在する。
そもそも、お主が先日使っていたではないか」
ギフトでしか無いのかと思ったが、あるなら消して大丈夫そうだ。
スキルを消し、プレダールから宝石などの装飾もない無骨な指輪を受け取りコピーをしてみる。
前に聞いたエラー音がポーンッと鳴る。
『記録容量が不足しています。スロットを空けてください』
伝説級の魔法だから言われてみれば納得するけどさ……
飛ぶ事ができなくなるのは痛いが、きっと魔法にもあるだろう。
飛翔を消し、太い指輪なので利き手ではない左手の親指に装備してコピーをする。
いつもならスッと終わるロードが長い。
ロードの表示バーの伸びと共に、緑色のマナの表示バーが左側から赤黒く染まっていく……
何かわからないけど、ヤバそうな気がする!
伸び率を比較してもギリギリか少し足りないかもしれない。
急いで残っているマナ貯蔵庫・魔法3種・加速の内、1つを消してアレを試してみなければ……
加速を消す事を選んだ。
かなり応用性が高いし、できるならば捨てたくはない。
だがマナ貯蔵庫はマナ量を3倍にすることを考えれば今消したら確実に詰みそうである。
魔法は1スロットで種類が増えていることを考えれば、今後も頼る気がする。
「メリアさんっ握手してください!」
「なぜここで握手?!」
「お願いします、アナタのマナの寵愛に頼りたいんです。
ボクにそれを授ける気持ちで握手をして欲しいんです!」
数秒間、悩んだ表情をしたものの握手をしてくれた。
そのタイミングで怨嗟の宿主のロードが終わる。
声にならない叫び声がする。
全身にドス黒い感情が流れ込み、血管に氷水を流し込んだような寒気が走る。
色んなモノが憎くて憎くて堪らない。
なぜこんな目に合うんだ、どうして! 助けて!
沢山の死を拒む思いも流れ込んでくる。
「えっ! ちょっとなに?! 痛いんだけど!
っていうか折れる、折れるって!! 握手離しなさいよ!
いたああああい! 絶対骨砕けてる!!!」
目の前でメリアがパクパクと何か言っている。
なにも聞こえない。
永遠に終わらない悲壮の想いが雪崩のように押し込まれてくる。
着けた指輪に向かって流れ込んでいる感触はあるが、全身を何度も切り刻まれている痛みの方が強く、強く、いっそ死んだらいいのに。
「服部さん!
ちょっとあり得ない量の涙出てるんですけど!
口が痙攣してるみたいにガチガチやかましいので布丸めて突っ込みますよ!
舌噛んじゃいますから!」
滲んだ視界でプレダールもパクパクなにか言ってる。
そっちの声なんて聞こえないよ……
延々と続く呪詛の声や体中の痛みが急に止まった。
『エルフ固有ギフト マナの寵愛 をロードしました』
マナの寵愛 パッシブタイプ
マナを行使したり、マナの流れを感知し易くする。
スキル保有者は精霊に干渉できる。
マナの所持上限が大きく増える。
マナを愛し続けなさい、マナも同じだけ愛を授けてくれるのだから……
最後に香り付けの文章があるのは固有ギフトだからか?
マナの表示バーにあった赤い部分が1ミリくらいしかない。
ありがとうマナ。ありがとうメリアさん。
マナに関するギフトだとは推測していたけど、随分強いスキルなんだな。
口に入っている布を右手で取り出す。
「あ、服部さん気づきましたか?!
絶対発狂して死ぬと思うくらいひどかったんですよ!」
「お主、我の右手を使用不能にするつもりか!!
回復特化でなければ治療に数日かかっておるぞ!
うぅ……まだ痛い……」
2人共、半分涙目の表情だ。
「メリアさん、ありがとうございました。
おかげで助かりました。
ところで魔法陣はどうなりましたか?」
「今はもう完全に消えておる。
何をしたのかわからんが、伝説に名を残すレベルじゃぞ。
不可止の魔法を止めた者としてな。カハハ!」
「伝説はいらないんで、お水飲みたいです。
すんごい喉乾いちゃって」
「ちょっと早いですけど食堂に行きましょう。
2度もランデルバール城塞を救った者として、きっと全身骨折するくらい歓迎されますよ!」
プレダールは嬉しそうだけど、昨日の事があったし歓迎されなさそうなんだけど。
全身骨折ってなによ? 不安しかない。
目の前で死んでいったデリンの思い出がフラッシュバックする。
ごめんなさいデリンさん。ごめんなさいデリンさん。
ボクの顔を見て、少し悲しそうな顔しながらプレダールは言い続ける。
「昨日の件で問題があるかもしれませんが、誰も死なない戦争なんてありません。
1人でこれだけの戦果をあげているんです!
ワタシは味方しますよ!」
「我も味方するぞ?
ここでは逆効果かもしれんがの。
カハハハハハ!」
いつの間にか座り込んでいたボクに、メリアは左手を差し伸べてくれた。
立ち上がり、ゆっくりと食堂に向かう。
まだ階下ではバタバタと騒がしい足音がしていた。
2人共ありがとう。
少しだけ前に進める気がするよ。




