196.違和感の真相
翌日、マリベルも同行する事をリリとロロに伝えると、不思議そうに問いかけてきた。
「随分と高齢のエルフと親しいのですね?
無理に連れていくようでもありませんし……」
「マダムキラーってやつ?」
嫌な褒められ方だ……
考えてみればシェイナー伯にも気に入られたし、そういう資質があるのかもしれない。
マリベルは目くじら立てる事もなく、にこやかに笑っていた。
取り乱さない冷静な人が仲間にいたら、とても心強い。
しかし、マリベルを自分より上位と認めてしまうだけに倍率補正は6倍から1倍に減ってしまった。
良い事だらけでは無いな……
マリベルに半透明で表示されている魔法熟練についてこっそり聞くと、複雑な表情で内容を教えてくれた。
「魔法についての技術スキルの事です。
一部にのみ伝えられるエルフの秘技のようなものです。
マナの消費量を抑えたり、魔法の届く範囲を広げたり、詠唱高速化など便利な技術が数多くございます。
まずは初歩となる瞑想をお教えしましょう。
魔法を使う上で共通となる、精神集中が必要です。
マナの回復速度が速まりますし修行中は多様する事になるでしょう」
深呼吸して空気からマナを取り込む様に集中するのだそうだ。
目を閉じて自然体から両手を開いて輪を描く様に頭の上で手を軽く合わせ、正面で祈るような動きをした。
なんだか仏教みたいだ。
軽く水魔法を使ってマナを減らして真似する。
20減っていたマナはすぐに回復しきっていた。
これは便利だな!
「あら……?
随分と簡単に習得なさいますのね。
普通は1週間くらいはかかりますのに……
では、次に参りましょう」
何度かやった事がある気がしてすぐに使えた。
それからマナの消費を抑えるマナ・プレッシャーを教えられた。
今までマナを消費しすぎだとメリアに怒られ続けただけに、自分に必須のスキルだと感じる。
翌日にはエルフ公国の城に到着するだろう、と思わる5日目にコグニスと呼ばれる里に着いた。
里に着いて歓迎を受け馬車を降りると、遠くで1人の女性が手を振っているのが見える。
初めて訪れた場所のはずだから知り合いはいないはず。
でも既視感はあるし妙な気分だ。
近づくと、違和感は更に加速した。
初めて会ったはずなのに名前が表示されている。
稲葉 華恋は、ちょっと寝癖があってハネている黒髪のショートヘアーに赤いメガネ。
ダボッとした長袖の灰色パーカーに、黒いジャージズボンという風体だ。
たぶん美人だと思われるが、女性らしさはほとんど感じ無い。
ギフトはリスタート、折れない心、一欠片の幸運、能力解析。
星は5つある……
彼女は馴れ馴れしく近づいて来るので、リリとロロが警戒して前に出た。
稲葉は眉をひそめてボクの目を見た。
「ありゃ、ウチの事まで忘れてしもたんか?
やっぱ面倒なスキルやわ~」
知り合いだから大丈夫だと、ぎこちなく説明した。
マリベルと3人で案内された場所に泊まるように頼む。
んじゃココやで~、と気の抜けた声で稲葉はボクを先導してくれる。
すぐ後ろにあった小さな家に入って行った。
室内は10畳くらいの広さで、本や紙や箱がとっちらかっていてどこを踏んで良いのか分からない。
彼女はヒョイヒョイと身軽に足の踏み場を選んで移動している。
何も置かれていない違和感のあるテーブルに大きな箱を置き、椅子に座るように促した。
「いうて、自己紹介はいらんわな?」
「いや、いりますよ!!!
なぜ稲葉さんの名前を知らないのに表示されてるとか、ツッコミ所が満載です!」
「えぇ~……いるのー?」
けだるそうに窓の外を見ながら喋り始めた。
まだ陽は傾いたばかりで、時間はたっぷりある。
「稲葉 華恋、22歳 趣味はRTAや!
んで、服部くんと会うのはこれが10回目やけど……
初めて会うた時みたいな顔しとるしなぁー。
それに随分若いし、何したん?
仲間も服装もスキル構成も全然違うし、結果としては大成功なんやろけどね」
「RTAって何ですか?」
「あ、それ聞いちゃう? 聞いちゃう系だ?
しょうがねぇな~……」
急に得意満面な顔になって説明し始めた。
よく分からなくてウザい。
リアル・タイム・アタックの略だそうで、ゲームを最初から最後まで通してプレイしてタイムを競う事らしい。
なるほど知らん。
しかし、話しを聞いているとギフトと非常に関連性があるようだ。
取得ギフトは性格に準拠しているのかもしれない。
自分も人の行動を分析して真似してきたので、そこは合っている。
前も同じ事を聞いた時に興味が無かったと大きく笑っている。
興味が無いので肝心な事を聞いた。
「会うのが10回目て……
それはリスタートの能力を使って、って事ですか?」
「そうなんやけど、論より証拠や。
まず、コレがアンタのAランクのギルドタグな。
そんで、自分用に書かせた日記帳。
見とらんから気にせんでえぇで。
リスタートの能力は見てもらえれば確認できるやろけどな?
スタート地点に戻れるんやが、記憶を全部持ち越す事はできんのや。
アンタの場合、回数重ねるごとに減算量がごっつぅやばいで!
1回前は、まだウチの名前と顔くらいは覚えとったのになぁ」
確かにボクのAランクのギルドタグだ。
フェローナから渡されなかったから紛失したと思っていたが……
それに回数ごとに分けられた紙を束ねただけの日記帳は、サラッと見た限り自分の字で綴られている。
確認の為、リスタートの能力を確認した。
リスタート アクティブ
この世界に来た時に戻り、やり直す事が出来る。
回数制限は無い。
ただし、回数を重ねる毎に記憶の持ち越しは減少する。
(現状の引き継ぎ記憶容量 2%)
ボクは今まで、失敗をしつつも結果的に全部うまくいったのは偶然だと思っていた。
だが、そんな幸運では無かったらしい。
自分の手で書かれたはずの、自分の知らない手記。
一度大きく深呼吸し、1回目の手記を読み始めた。




