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18.作戦開始


 緊張からか朝早くに目が覚めてしまった。

 だが周りの布団にはもう誰もいない。

 1人で寝起きするのは3日ぶりだけど、凄く寂しい気がした。

 まるで昨日まで修学旅行だったような、学園祭が終わってしまったような……


 気を紛らわせたいので修練場で剣を振るおうと思って向かった。

 デリンとソラルが模擬戦をしていた。

 普段の言い草やそぶりで忘れていたけど、2人は副将軍なんだった。

 大きな盾と大きな棍棒をお互いに叩きつけている。

 本気ではないだろうけど、鬼気迫った表情と素早い動き。

 でも何だか楽しそうだった。

 鍔迫り合いを初めたと思ったら、観戦しているボクに気づいて模擬戦を止めて近づいてくる。


 「おう、寝坊助ねぼすけが朝早くからこんな所に来るとは縁起が良いな!」


 「おはよう服部さん、寝れましたか?」


 「えぇ、なんとか。

  今日は人生初めての首切りをしなければいけませんから、練習しようと思って」


 「あー、そうだったな……

  こいつで練習しときな、勝って帰ってきたらそのままやる。

  お前には丁度良いだろう」


 デリンは腰につけていた剣をボクに投げてよこした。

 渡されたのは大鬼人オグルにとっては小ぶりな、刀身が赤と黄色にゆらめく片刃のショートソードだった。

 カタールって言うんだっけ?

 全然重くない。

 発泡スチロールかと不安になるくらい軽い。

 デリンが剣を見て説明を始めた。


 「昔、人間の兵士から飲み比べで巻き上げたんだけどな、軽くて振ってる気がしねーから使わないんだ。

  イイモノらしいし切れ味は良いんだけどな」


 「じゃあ、私からはこれ。

  無事に帰りますようにっていうお守りなんだけど」


 渡されたのは蛙の形をした骨飾りだった。

 見た目は気持ちの良い物ではないけど、ありがたく貰った。


 「デリンさんデリンさーーん!

  大変ですよおおおおお!

  服部さんまで脱走しちゃいましたよおおおおお、あ、してませんでしたか。

  良かったです」


 バタバタ走って息切れしているプレダールは、起こしに行って不安になったらしい。


 「ボクは3人を置いて脱走なんてしませんよ。

  そこまで恩義知らずじゃありません」


 「いやー、他の方も本当にいないんでつい……

  アナタはガリもやしに餌付けしたりと、感化されやすい方のようですし」


 「もやしで思い出した!

  あいつをくれって話だがな、敵大将の首を取ったらその証拠になりそうな服飾品を数点持ち帰れ。

  それが条件だ。

  なるべくデカい良いヤツにしとけ」


 「わかりました。やります!」


 「んじゃ、全体で行う作戦会議は昼過ぎだ。

  出席させるからそれまでに着替えておけよ」


 確かに上下ジャージの緊張感0の服装で出席したくない。

 なんかこう、全員戦闘モードでビシッ! としてそうだし。


 プレダールに案内され、敵軍の革鎧などを渡される。

 地下牢で放置されていた捕虜の死体の物で、昨日急いで染み抜きと洗濯したらしい……不吉だ。

 そんな気持ちが顔に出ていたようで、プレダールはボクの顔を覗き込んできた。


 「死人の服は、もう死神が1度来ているから寄り付かない、って噂もあります。

  モノは考えようですよ」


 ニコッと幼女が笑いながら言う。そんな気がしてきた!

 自分が割とチョロいのではないかと頭にかすめたが、そんな考えは丸めてポイだ。

 みんなが前向きにしてくれようとしている気持ちを、大事にしなければ。



 昼食後、そのまま食堂にて作戦会議が始まる。


 「こいつが、今回の作戦の立案と重要任務を単独で行う服部だ!」


 食堂の奥に臨時に設置された舞台に立たされデリンに紹介される。

 連々《つらつら》と大それた紹介をされているが、大丈夫だろうか。

 こいつ実はすげーやつだったんだ!? みたいな視線がバシバシ刺さる。

 刺さりすぎて痛い。

 デリンが作戦内容を読み終えて続ける。


 「いいかー!

  捕虜になったあいつらを助けだせるかどうかはオメーら次第だ!

  体中の筋肉繊維全部ぶっちぎれてもねじ伏せろ!

  ……以上だ!」


 「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 ボクが食堂から出ていくまで、大鬼人全員が右拳を左胸にドンッドンッと叩き続けて重低音が腹にひびく。

 でも、今からやるんだ! という決意や力がみなぎってくる。

 城塞で1番高い監視塔頂上に向かう。


 「敵軍補給部隊到着しました!」


 「じゃあ、お願いします。行ってきます」


 ヘルメットを被り油壺の入った箱を背負い、膝を抱える。

 ランドセルが大きすぎる小学1年生みたいな見た目になる。

 透明化を発動させ、一番力があるという男性大鬼人の右手に掴まれてから加速+を発動させ、空高く高速で投げ飛ばされる。

 加速+は発動時に触れていた対象も加速できる。

 それを使ってブーストをかけたのだ。

 投げた側はボクが離れた瞬間等速に戻るが、ボクは維持される。

 こんな変則的な使い方でもないと有効利用できないけれど。




 (前日の作戦の草案会議)


 「はぁ? ぶん投げる? おまえを?」


 「えぇ、透明化をしていないと上空からバレずに侵入するのは不可能です。

  ですが、空を飛ぶ飛翔スキルはマナの消費コスパが悪いんです。

  少しでも現地でマナを温存し作戦成功率を上げるならこれしかありません。

  ボクと火炎壺やらその他で100kgほどありますが……できますか?」


 「おめぇ、うちらの自慢が何か知ってて言ってるよな?」


 一般成人男性の胴体のような太さの二の腕をムキッ! としてデリンとソラルはニヤッと笑った。



(回想終了)




 むしろ投げられる側がぶっつけ本番すぎて怖い。


 高速ジェットコースターよりGが掛かってる気がするけど貧血を起こすほどじゃなくて良かった。

 戦いの幕は、誰よりも先にボクだけ開けた。


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