174.ナイスロマン!
ガンサは説明が終わったかと思うと、ボクの両肩に手を置いた。
「というわけでな、さっそく浪漫砲モードの試し打ちをして欲しいんだ!
街中でぶっ放すんだから魔石内のマナも相当減らしてある。
なぁに大丈夫だ、心配すんな!」
どう見ても半分くらい込めた状態にしか見えん。
こじんまりとした裏庭に出て空に向かって打てと言って案内された。
ガンサと一緒に作ったであろうドワーフも眠そうな目をこすってボクを見守る。
みんなも、どうなるのかワクワクしている様子だ。
不安なのはボクだけなのか……
片膝をついて魔砲を構えて空を見上げた。
周囲の屋根や洗濯物が所狭しとひしめき合っている。
1番広い空間でも1m四方くらいしかない。
なるべく中心を狙ってトリガーを引いた。
ドオオオオオオオオオオオオオオ!
爆音と共に結構な衝撃が体に伝わる。
水の鎧がなければ体中の骨が折れるのではなかろうか……
レーザービームのような太い光線が5秒ほど発射され、魔石のマナを使い果たした。
随分と空の見通しがよくなっているぞ……
3m四方くらいの穴が出来上がっていた。
何事かと周囲の人が窓から身を乗り出して罵声をあげている。
「「「ナイスロマン!!!」」」
レイネスまで揃って親指を立て、これ以上ないという笑顔だ。
周りの喧騒など、どこ吹く風のように爽やかに屋内へと引っ張りこまれた。
さっそく店の入り口がけたたましく叩かれている。
「浪漫の分からねぇ馬鹿どもが来店したか。
ゲーグレ、棚で抑えこんどけ」
ほいきたっ! と手慣れた様子でドワーフが棚を3つ使って器用にドアを封鎖した。
いや、ボク達どっから帰るんだよ?!
馬のシャリアも外で待ってるのに!
「本当に良いモノを魅せてもらった。
借金こさえた甲斐があるってもんよ!」
「そうだな親方!!
金貨50枚ぽっちでグズグズ言いやがって浪漫のわからねぇガキどもめ」
「浪漫ココに極まれり!」
工房の3人はとても満足そうだが、ボクは全然満足じゃない。
金貨50枚渡しておいて追加で借金作るってどういうことだよ……
ヴァリエンといい、夢を追い求める人は金など2の次、3の次だと言うのか。
鳴り止まないドアを叩く音に応える為、ボクは棚をどかして欲しいと伝えた。
すぐさま大家が入って来る。
その後ろには怒り心頭の顔が10人ほど構えていた。
「今日こそは出ていってもらうぞ、この迷惑爆弾がっ!!
今度という今度は我慢がならねぇ!
大事な貸家を壊されちゃ、たまったもんじゃない!」
「そうだそうだー! 出ていけー!!」
全員の心境が良く理解できるだけに、申し訳ない気持ちになる。
ガンサ工房の3名は一切悪びれて無いのがタチが悪い。
騒動の元凶として、侘びを入れねばなるまい……
「毎度すいません大家さん。
1人金貨1枚ずつ渡すので勘弁してやってくれませんか……」
「おっ! 先日の大旦那様じゃないか!
そういう事なら話は別だよ。
みんなニッコリ笑顔で帰れるってもんさ。
ガンサ、どうせなら家ごと全部ぶっ壊しておいてくれよ。
そうすりゃ新築が建てられたってのにさ、ワハハハハ!」
みんな笑いながら帰っていった。
それならそれで死者が出ていただろうに……
何にしても、注文通りの一撃必殺性能だし不満は無い。
デザインもミスリルの薄紫を基調として、所々使われている木材の木目とよく合っている。
借金生活させるのは忍びないので金貨100枚を支払った。
「さっすが浪漫の分かる漢だねぇ!!
野郎共! 酒屋に借金叩き返しに行くぞ!」
「「おぉーーーっ!」」」
3人は元気一杯に店から出ていったが、酒屋……?
いや、深く考えるのはよそう。
良い武器が手に入った、それだけで十分じゃないか……
これならヤツを安全な場所から仕留められる。
酒場で盛り上がって全員深酒していた。
自分は明日大事な用事があるので遠慮しておいたが。
翌朝の朝食時に各自に予定を伝える。
「これで準備は整った。
ようやくバーレンの目的であるメデューサ退治に挑む。
長いこと待たせてすまなかった。
今日の午前中は準備時間とするので、各自必要なモノを買い揃えて飯を食っておいてくれ。
午後イチの鐘までに東門に集合だ」
「なんだそれは、私は聞いてないぞ?!
どういう事なんだプレダール殿」
「Aランカー様が加入するずっと前から決まっていた予定なんです。
嫌なら抜ければ良いって、どこかの有名人が先日言ってましたよ?」
「ぐっ……!
長いことPTを抜けているのもあるし、私はここで失礼させて貰おう。
魔石に関係ない事ばかりの毎日で、自分の思うように行動したい。
偶然手に入れた、と言うのは本当のようだからな」
「だからそう言っていたであろう?
ウチのリーダー様は嘘は言わぬ。
馬鹿で突発的で考えなしの様で策士と言う、変なヤツじゃがな」
ここぞとばかりに不満を漏らしている……
いや、褒められたのか……?
きっと褒めたんだ、そういう事にしよう。
レイネスに感謝の気持ちを込めて金貨5枚を追加で渡す。
色々あったけど、レイネスの言葉や行動はリーダーらしさの手本になった部分が多い。
またいつか一緒に旅をしましょう、と固く握手をして別れた。
気が向いたらな、とそっけない言葉だったが表情はほころんでいた気がする。
砥ぎに出していたミスリルカタールを受け取ったりマナポを補充したり、道端の大道芸を見たり楽しく時間が過ぎる。
ゾロゾロと街の中央広場に向かって人が歩いていくのが目につく。
一緒に行動していたメリアに問いかける。
「今日って何か催し物があるんですか?」
「大統領選の候補者2名が中央広場で討論会をするのだとさ。
エルフ側から申し込んだそうで、注目されておる」
「エルフ側は形勢が悪いみたいですし。
良い結果になるといいですねー」
討論会には特に用事がないので、馬車を東門に向けて走らせた。
大勢が中央広場に集まっているのが豆粒のように見える。
東門が目と鼻の先という4階建ての店で食事を取る事にした。
馬のシャリア用に5人前のサラダを注文し、店先で桶に入れて置くと美味しそうにパリパリ食べている。
自分達には美味しそうなハンバーガーが出てきた。
手軽に食えてすぐに店を出ていける。
「本当にシャリアが好きなのだな。
確かに頑張ってもらわねばならんのだが」
「長旅で1番疲弊するのは馬だ。
大事にしているだけに過ぎん。
ちと厠へ行ってくる、先に店から出ていてくれ」
エルフは軽く首を傾げていた。
さて、手早く済ませなくてはな……




