17.決戦前夜
「んじゃ、乾杯ぃ!」
「かんぱーい!」
「ッカー! 久しぶりの酒はうんめーな!」
「お代わりは無いって言ったわよデリン」
「ゲッ! そうだった……」
酒は飲めるがザルでは無い。
速攻で一気飲みしたデリンさんに半分注いで、ビールを飲んだ。
確かにお代わりがあるなら全部飲んでしまいたいくらいだ。
半分差し出した料理は、ちゃんと持っていってくれた。
「んで? エルフにでも振られたのか!ガハハ!」
デリンは、おい教えろよー、なぁなぁと絡んでくる。
若干ウザい……心地良いけど。
「ソラルさん。
今日貸して貰った地図は、かなり古いモノだったり間違っていたりしますか?」
「えー? 確か5年前に買った地図だけど……それって古いのかしら?
近くで大きなドラゴンが暴れて、地形が変わった話も無いはずだしー」
「どこぞで召喚された転移者が力任せに暴れた可能性は、多少ありますけど……
地図屋を儲からせるほど力のある者はここ数十年聞いたことがないですね」
「100年200年前の狂った伝承のヤツラならできたかもしれねーけどなー。
どうせ尾ひれがビラビラ付いてるだけだろうよ。ハッ」
可能性はあるが、ほぼ無いってことか。
囲まれた岩壁よりココの監視塔の方が高く、よほどの変化があれば情報が入っているはずだと言う。
仲良くもない1人の中学生より、この3人の言い分を信じる。
「この世界は怖い事が色々あるんですね。
ちょっと不手際で地図がこんなことになってしまって。
本当にごめんなさい」
10数枚に破かれた地図を見て3人は黙ってしまった。
ちょっと行ってくるわ、と立ち上がるシリアスな表情のデリンの手を掴む。
このまま行かせてはマズイ気がする。
「なんだ? まだおっぱいが恋しいか?
悪いがそりゃ後だ」
「どこに行くかは知りませんが、ダメです。絶対」
「やられっぱなしで返さないのは大鬼人の生き様に反する。離せ」
プレダールとソラルに視線で助けを求める。
「話を聞いてからでも遅くは無いわよデリン」
「そのまま行かせると、血が滴るお肉をテーブルに追加されかねませんしね。
もうお腹一杯なので座ってくださいよデリンさん」
舌打ちして渋々席に戻った。
地図が破かれた経緯を話す。
逃げ出したい皆の心情も分かる事を込めて。
「カーッ!
うちの当たりガチャは逃亡罪の補助までやってんのか。
どうするソラル」
「補助って程ではないでしょう?
むしろ現実を見せて止めたのだし……」
「ハズレガチャの中にもデリンさんのような考えなしの特攻タイプがい……ったーっ!
そういう所ですよ! この脳筋!」
「脳まで筋肉に染められたら、そりゃ本望だ。
褒め言葉だぜ?プレダール」
「のーきん! のーきん!」
ソラルが2人を落ち着かせる。
普段から引き篭もっている5人に裏切られても今すぐ困る程ではない。
食事が5人分浮く事を考えれば悪くもないし、布団が5セット物資として搬入されたと思えば良い!など無理やり諌めている。
「ハァ、もうわかったよ冷めちまった。
どうでもいい話はやめだ。
……服部、本題に入ろうぜ」
地図を持ってきて貰うのをソラルさんに頼み、その間に確認する。
猛進部隊を指揮できた、もしくはできる人がいるか否か。
号令の種類と姿勢。
現在の敵方エルフと敵大将の大体の場所。
……なるほど、これなら。
地図が来たので、指差しながら作戦の草案を伝える。
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「いやまぁ、それならヤレると思うけどよ。
いいのか……?
お前のせいでエルフの炙りができても」
「見えない所で知らないエルフが死んだらもういいです。
死ぬ運命だったんだと思いますよ。
その代わり、成功したら地下のエルフをボクに下さい」
「本当にエルフと伽をしたいんですね。
ワタシの見た目に対する謎の好意といい、異世界の人間は理解できませんよホント」
「えっ?!
……いや、違わないけど違います!
弓と魔法を教えて欲しいんですよ。
この城塞にいないでしょう?魔法使える人」
「焦ってるのが怪しいわねー。フフッ。
まぁそういうことにしといてあげましょう」
「……わかった、ソラルと一緒に上に作戦内容を通達して伺ってくる。
おそらく決行は明日の午後3の鐘になるはずだ。
プレダール準備しっかり頼むぞ」
「そっちこそ、一番重要なのは大鬼人の兵なんですから。
失敗したらデリンさんの兵育成不足ですよ!」
「当日を楽しみにしてな! 目にもの見せてやるぜ!」
作戦は動き出してしまった。恐らく通るだろうとみんなも言ってくれた。
重要な役割なのはボクも同じだ。
むしろ誰もフォローがいない、完全単独行動。
戦場を見るのも行くのも殺すのも初めて。
そんなボクに、本当にできるのだろうか。
できなきゃ……皆死ぬんだ。
修練場で人間が使う用の剣を持って、1人慣れない練習をした。
物珍しいからか、もっと踏み込みと腰だよ腰!腕じゃなくてさー!
など周りの大鬼人が指示してくれる。
助けてあげたい、ここの皆を。
あの3人を。
地下牢のエルフを。
就寝時間になったので宿舎に戻る。
そこにはやっぱり、誰もいなかった。




