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166.教育係の授業


 「いつまでその様にしているつもりじゃ?

  普段通りで良い、むしろ堅苦しい!」


 全員縮こまって顔色を見合わせている。

 レイネスすら困惑している様子が見て取れた。


 「そうは言っても、普通はエルフ王家の人って言われたら縮こまりますよ」


 「お主はほとんど変わらなかったではないか!」


 「それは……初対面の印象が強いからですかね。ははは!」


 くっ……と言葉を詰まらせて諦めていた。

 下手につついても過去をバラされると思ったのかもしれない。

 プレダールが首を傾げて口を開いた。


 「っていうか、ワタシの顔見ても何も言わないんですね?

  あのマリベルって人は気付いてたみたいですけど」


 「儂が共にいるから不審でも手を出せないのであろう。

  アレでいて怒るとものすごーーーく怖いのだぞ。

  魔法の達人であるから下手に逆らえん」


 見えていたマリベルのスキルは破壊魔法、回復魔法、死魔法、神秘魔法となっていた。

 複合スキルや特殊なスキルなのかもしれない。

 まだまだスキルについて知らない事が多いと感じた。

 さすが王家に仕えたり900年も生きている人は格が違う。

 

 全員がおどおどした話し方から普段通りに戻って雑談し始めた頃、マリベルは上の階から2冊の本を持ってきた。


 「メルルお嬢様の頼みとあらば、見せない訳にも参りません。

  見た所、その服部という名の人間は恐ろしいマナを秘めている様子。

  メルルお嬢様が行動を共にするのも納得がいきます」


 「マリベルの見立て通りだが、他にも凄いのがおるぞ。

  この大鬼人の幼女にしか見えん奴に本を渡してやってくれ。

  ほれ、良いから貸してやってくれ!」


 怪しみながらプレダールの前に2冊の本を置く。

 本当に触って良いのか? と2人の目をキョロキョロと確認してから本を手に取った。

 いつも通りペラペラとめくっている。


 「ほう……?

  大鬼人の割には良い速度で読みますね。

  わたくし程ではありませんが」


 「マリベルに比べたらこの世のほとんどが矮小に見えるであろうよ!

  知性のカケラも無いと思われた大鬼人がやっているのだ。

  そこを少しは汲んでやれんのか、まったく……」


 「ここに黙って置いてやっているだけでも、わたくしは辛いのです。

  メルルお嬢様がいなければ捕まえて地下奥深くに放り込んでいますよ!」


 「叔母上の事はプレダールと直接関係が無いではないか!

  儂と共に歩む大事な仲間だ、手を出すでないぞ」


 メリアの口から”大事な仲間”と言われた時、プレダールの手が一瞬止まった。

 平静を装っているが、やはり意外だったようだ。


 「しばらく見ない間に随分と変わられましたね。

  大鬼人を仲間などと……」


 「では、服部を仲間と言うのはどうなのじゃ?

  此奴も人間ではないか」


 「彼は泉の精霊を呼び出し交渉を成功させたと聞いています。

  態度も良いですし、仲間として呼ぶのは問題ないかと存じます。

  源泉の主はなんと言っておられましたか?」


 「泉の周りの花が少なくて不愉快だ、エルフは敬意が見当たらない、と」


 「気にはしていましたが、そうですか……

  長老に代わり礼を言います。

  ありがとう、若き隣人よ」


 丁寧なお辞儀の中にもプレダールを注視している様子が伺えた。

 長年の敵対関係をそう簡単には許せないだろう……

 まして知り合いが殺されたかもしれないとあらば尚更だ。


 レイネスも含め、全員がマリベルの雰囲気に圧倒されてずっと何も言えずかしこまっている。

 ボクにとっては、ただのお姉さん的な美貌のエルフにしか見えない。

 200歳と言われても信じてしまいそうだ。


 プレダールが一冊の本を読み終わり、次に手を出そうとした時だった。

 キリッとしたマリベルがプレダールに指さして質問する。


 「蜜の森の特筆すべき要注意生物が3種類いたはずです、生態と共に答えなさい」


 「地面を掘り進む凶暴な土竜熊もぐらぐま

  花に擬態して近づいた敵を襲う睡蓮蟷螂すいれんかまきり

  陽炎の様にゆらめき実態が捉え辛く、凶暴な肉食の陽炎鴉かげろうがらす

  光を発しておびき寄せた者に幻覚を見せて生きたまま食べる肉食の白麗蝶はくれいちょう

  の4種類だったはずですけど……?」


 「ふん……

  本当に読んでいたようですね。

  次を読む事を許可します」


 なんだこのエルフ? と言わんばかりに首を傾げて次の本を手に取った。

 あれで本当に読んでいるとは一見するとわからん。

 確認したくもなると言うものだ。


 「すまぬが儂らはマリベルやプレダールのように、超の付く速読ができる訳ではない。

  簡単に説明してはくれんだろうか。

  これでも急ぎの旅なのだ」


 「わかりました、ご説明致しますのでアレを持って参ります。

  すぐに戻りますので……」


 落ち着いた足取りで上に上がって行った。

 アレって何だろう? というボクの疑問を察したメリアが口を開く。


 「黒板を持ってくる、という事なのだと思うぞ。

  教育係であったからこの里でも教えているのかもしれん」


 授業されてしまうと寝てしまうかもしれん……

 興味はあるが、どうしても黒板のカッカッという小気味良い音と説明が眠りを誘う。

 寝たら怒られるだろうし、気をつけないと!


 「メリア、寝ないようにする魔法は何かないのか?!」


 「寝ているのを起こす魔法はあっても、自発的に眠るのを防ぐ魔法は知らんぞ……」


 詰んでしまった……

 足や腕をつねってでも起きていなければならない。


 ホワイトボードのようなそこまで大きくない物体を軽々と持って帰ってきてマリベルは授業を始めた。

 絵が上手なので描いているのを見てるのは楽しかった。

 他のメンバーも、おぉー! と声をあげて興味を示す。

 さすが教え慣れているなと、出だしは好調だった。


 結局ルティスやバーレンが何度も眠りそうになっているのを怒鳴る声で起きていられた。

 マリベルは一段落したのか、溜息を漏らして両手を腰に当てる。


 「説明は以上になります。

  1番注視しなければならないのは地下を這い回っている土竜熊です。

  ただでさえそこら中から垂れ落ちている蜂蜜や固まった蜂蜜で足場はガタガタ。

  そこに地表近くを掘り進む土竜熊の通った道が重なったら最悪極まりない。

  仮に浮遊して歩けるレビテートが使えても、落とし穴などには落ちてしまうので無意味なのです。

  鈴を使えば近寄って来る事は少ないですが、あくまで少ないだけですよ?」


 「もう3度目ではないか、さすがに覚えたわい。

  儂はむしろ地雷蜂が1番面倒なのかと思っておったので意外で面白かったぞ」


 「それはようございました。

  地雷蜂は巣や女王を攻撃しなければ無害です」


 言いにくいが、ズバリ言ってしまうしかない。

 今さら! と怒られかねないが……


 「あのー……その女王を捕獲するのが目的なんですけど……」


 「厄介な事に首を突っ込みましたねメルルお嬢様。

  1番楽なのは巣の最下層まで行って煙を長時間炊く事ですが……

  それだと最高級の蜂蜜も傷んでしまいます。

 

  ……もうこのような時間ですか。

  続きは明日の朝食前に行います。

  夕食をお作りしますから、みなさん復習しながらお待ち下さい」


 全員疲れ切った顔でテーブルに伏した。

 戦闘や砂漠の移動より疲れた授業だった。


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