162.大きな噂になった日
次の日、ほとんどの人は朝食後すぐに出かけていった。
メリアだけは残っていて何か聞きたそうにしている。
「えっと、部屋で話しましょうか。
ボクもメリアにお願いしたい事があったので丁度いいです」
「ほう……?
今さら何のお願いがあると言うのだ。
面白い事だと良いのだがな」
期待させるような言い方をしてしまったようだ。
ただライトの魔法を教えて欲しかっただけなんだけど……
地雷蜂の巣は恐らく暗いだろうから、潜入した時にライトの魔法は絶対に必要になる。
メリアだけに担当させるのはリスクが高い気がした。
部屋に入るとメリアは軽い溜息をついた。
「シャリアがおるのであれば、怪しげな相談では無さそうだ」
「何ですかその、怪しげな相談、って言うのは……
ボクは単にライトの魔法を教えて欲しかっただけです」
「なんじゃ、そんな事すら未だにできんのか!
お主は儂がおらんと何もできんのじゃな」
少し安心したかのように嬉しそうに笑った。
何だかんだ魔法の知識はメリアが1番だ。
日常的に使う簡単な魔法と言うだけあり、すぐに使えるようになった。
慣れた人に聞くのが1番早くて楽だな!
「お主の用事はそれだけじゃったのか?
では、儂の用事に答えてもらおう。
先日の狂ったマナ測定の理由を教えて欲しい。
儂とてまだ伸びるものなら伸ばしたいからな」
「期待させて申し訳ないんですけど、理由なんて全然ないです……
前に言いませんでしたっけ?
ボクの世界には魔法が一切ありませんでした。
だからこそ、マナに憧れ、マナを愛し、マナを求めていました。
それがマナの寵愛に反映されただけだと思いますよ?」
「お主が当然の様に呼んでいる、そのエルフのギフトなのじゃがな?
儂らには自分のギフトやスキルすら見えている訳ではない。
推定で存在している、と言われておるがな。
その内容だけでも詳しく教えてくれ、何かのヒントになるやもしれん」
相変わらずこの人達は何を喋っているんだ? と疑問だらけの表情のシャリアを撫でながらマナの寵愛のスキル内容を教えた。
「ふむ……マナを愛せよ、か……
今さら儂らに言われても困るのぅ。
マナは自然と周りに満ちあふれているモノであって、渇愛するほどではない。
もちろん、感謝しておるし愛しておるが……
それがお主の才能なのかもしれんな」
現代社会人なら多かれ少なかれ魔法を愛する所があると思うし、ボクの才能ではない気がする。
「何にしても、それは今後秘密にした方が良い。
以前にも話したが他の転移者もそれなりに存在する。
このギフトに気付き、お主と違って混沌を好む者が力を得たとしたら……
ドラゴンや狂った神よりタチの悪い奴が誕生してしまう。
お主が人を殺すのを好まないのは知っておるが、見つけて仲間に入らないようなら殺した方が良い。
この世の破滅も視野に入るぞ」
「えっ?!
そこまでボクは力があるとは思ってませんよ」
「馬鹿者……既に伝説の海淵すら従えておるではないか。
世慣れしていない大精霊ほど、使役者の精神に左右されやすい。
海淵に沈められた島や大陸の伝説はあるのだ。
無論、その他の大精霊にもな……」
この世の神として君臨できるレベルの狂った精霊だったらしい。
そりゃAランク審査も素通りするわ!
「そういえば、Sランカーって見たことないんですけど……
なる条件って難しいんですか?」
「そういうのはギルドで聞いた方が良かろうが……
儂が生きてきた時代でも3人ばかりしか噂で聞かんかったな。
ただ、大きな依頼を達成したからSに成るかもしれない! という話もあった。
恐らく力や精神だけではない、大きな実績を残す必要があるのだろう」
「そうでもないとSランカーが量産されちゃいますもんね!
わかりやすかったです、ありがとうございました」
Aでも簡単に成れる訳ではないのだが……と閉口していた。
難しい試験どころか面接で終わってしまったので、イマイチありがたみが薄い。
そのうち実感できる時が来ると良いんだけど。
話し終えた後、シャリアが遊びに行きたいと言うので街を観光して回った。
そこで恐ろしいモノを耳にしてしまう。
「さあさぁー! 忙しい人も忙しくない人も!
この瓦版を買って行った方が良いよ!!
一部で有名だったと言う、金でギルドランクを買った噂の冒険者が、なんとなんと!!
Aランク審査を即日突破したと言うから驚きだ!
そんな馬鹿なと思うだろうが、これが真実だから驚くよ!
かの有名人、槍雷迅のレイネスすら配下に置いたと言うからもっと驚きだ!!
エルフも仲間に入れている大富豪ぶり!
こりゃ読まない手はないよ!
さぁー! 買った買ったー!」
俺にもくれ!私にも!!こっちにも寄越せ!と大繁盛している……
”知らない奴からも声をかけられて困るぞ”とレイネスが言った理由の片鱗が見えてしまった。
ボクの場合は他の要因が強いのだろうけど、プレダールやシャリアの正体がバレたらもっと面倒になってしまう。
目立たぬようにギルドタグを服の内側に入れて足早に立ち去った。
シャリアの体調不良の可能性がある食材をメモに取りつつ、昼食にした。
移動中の昼食に出して大騒ぎになったら、また深海の姫君に出てきて貰わないといけない。
なるべく余計な面倒を抱え込まない為にやる事が最近増えすぎている。
そんな考え事をしていると、晴樹もお腹痛くなったか?とシャリアが心配そうに見つめていた。
子供を保育園に預けたくなる母親の気持ちが少し分かった昼下がりだった。
注釈 瓦版は、江戸時代の日本で普及していた、時事性・速報性の高いニュースを扱った印刷物をいう。
天変地異、大火、心中などに代表される、庶民の関心事を盛んに報じた。
街頭で読み上げながら売り歩いたことから、読売(讀賣)ともいう。木版摺りが一般的。
(Wikipediaより抜粋)
これにて今週分の投稿はおしまいです。
次回『増えた休日』
良かったらまた見てください。




