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16.それぞれの想い

 

 中庭で小一時間待っていたけど、誰も出てこなかった。

 宿舎好き過ぎるだろ!

 スマホや本があるわけでもないのに、何をしているのだろう……?

 謎だ。


 暇なのでギフトの項目をいじって見ているが、スキルの経験値上昇のような項目は見当たらなかった。

 不可視タイプなのか、成長しないのか。

 ……確認しようがないものはほっとくしかない。


 エルフのメリアが言っていた、呪文は無くても魔法は効果が出る、というものを練習してみたいが、使えているのかどうかの基準がそもそもわからない。

 効果が出ているか確認の為に自分に傷を付けるのも躊躇われる。

 実際に目の前でかけてもらった回復魔法はイメージしやすいし、使ってみたいんだけど。


 それに、付与魔法に何があって何ができるのか。

 雷や火や魔力吸収などを武器に付与したりできるのだろうか?

 ギフト吸収とか、何でもアリでできるのだろうか?

 使えたら使えたで解除の仕方もわからないし。

 魔法の聞きたいことが一杯だ。


 よくある精神統一や座禅が効果的かもしれない、ポッと出の案を採用し、目を閉じ何も考えずマナの流れを感じてみようと試みる。





 ……小一時間ほどやったと思うが全然わからん。

 カケラ程でも掴めれば良かったんだけどなぁ。


 日も傾いてきたから地図を返却しに行こう。

 ドアを開けると、翼くんが帰っていたこと。

 地図がビリビリに破かれていたこと。

 頭が真っ白になって破かれた地図を拾い集めて走って出ていったことしか覚えていない。



 ソラルさんに謝らなきゃ……信用して貸してくれたのに……

 夕飯までは時間があるけど食堂で座って待っていることにした。

 遠くから知らない声で話しかけられた。


 「おう、最近よく見る人間のニーチャン、元気ねーじゃねーか。

  悪いけどメシはまだだぜ!」


 食堂の料理人って人間がほとんどだったんだな、全然見てなかった。

 見てるけど見てないもの……結構多いんだな。

 そうだな、もしかしたら古い地図だとか、間違った地図を渡されていたとか、大鬼人オグル族がボクを騙していたとか、部屋の皆が合ってた可能性もあるよね。

 ……可能性は0じゃないんだろうけど、0だと断じている自分がいる。

 一緒にいた時間が長いとか短いとかじゃなくて、丁寧に扱ってね、と言ったものを破く精神がわからない。


 1、2回破った所でみんなが止めていれば、こんなにビリビリになっていない事を考えれば全員信用できない……小谷田も。

 異世界まで来たけど、やっぱり日本人の集団には馴染めなかったみたいだ。


 「元気ねーぞ服部、腹が減ったのか? アタシもだ!」


 すげー元気そうだよデリンさん。

 デリンさんには言えないなー、地図のこと。

 良くて半殺し、いや当分メシ抜きになるな。

 そう考えると誰にも言えないかな……

 なんかどうでもよくなってきた。

 あいつらのことも何もかも全部。


 「ほれ、ボーっとしてるからメシ持ってきてやったぞ!」


 「あらどうかしたの? 大丈夫?」


 「デリンさんにお肉取られるから悲しんでるんだよ。

  ったー! チビになったらどうするんですか!」


 慣れない優しさで涙が目ににじむ。


 「食欲ないので、全部みなさんにあげます」


 誰も取らなかった。

 みんな心配そうに顔を覗き込んで、誰も食べ始めなかった。

 ほんとにいらないんです、先に部屋行って待ってます。

 それだけ言うのがやっとだった。

 この人達が騙してたら、それはそれで何か事情があると思う。

 あぁ、でもエルフ憎んでるしなー、それは嫌だなー。

 いつもの部屋に入って座り、ぼーっと外を見る。

 不意にドアが勢いよく開いた音がして振り返った。

 3人とも追いかけてきたみたいだ。


 「食わねーと良い考えも浮かばねーぞ! ここで食おうぜ!」


 「たまには違う場所で食べるのもいいわね フフッ」


 「服部さんの考えた案、期待してるんですからね」


 黙って少しだけ食べた。

 でもやっぱり誰も取っていかなかった。

 デリンさんはそっと隣に座って、ボクの頭を掴んで胸に押し付けた。


 「泣きたい時は全部泣け。いいから」


 オッサンにもなってワーワー泣いた。

 頭の中の嫌な感情が、涙で少しずつ出て行くような気がした。

 デリンは頭を撫で背中をさすって落ち着かせるようにし、他2人は黙っていた。





 落ち着いてきたら急に恥ずかしくなった。

 固定されてるのかってくらい頭が離れない。


 「なんで泣いたか言うか?」


 余計胸に押し込められて言葉が出ない。

 頭を軽くウンウン、とする。


 「メシちゃんと食うか?」


 ウンウン!


 「ソラル、酒持って来て!

  4人分な! 食うの待ってるからよ!」


 「樽は持って来ませんからね!」


 「人間の男も泣くのが下手ですねー。

  デリンさんの堅い胸に押し付けられて。

  ったー! 今日絶対身長縮んだ!」


 「窒息するかと思いましたよ。へへへ」


 「おっ、ようやく笑ったな!

  これで気分良くメシが食えるってもんだ!」


 「はーい、みんなお待たせー。

  おかわりは無いけどねー」


 ピッチャーのような大きさのビール4つ。

 いや、そんな飲めないから!


 ……ありがとうみんな。


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