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150.タダ酒の魔力


 レイネスの事が不安なので、ルティスとバーレンは馬車に残す。

 3人だけでお邪魔する事にした。


 粗茶ですが……と言われて出されたお茶は、良い香りがする。

 味は相変わらず苦い。

 一口だけにしてお父さんの部屋に案内してもらった。


 「ねぇ、フレデリック!

  Bランカーさんがお越しになったよ。

  起きておくれよ!


  ……ごめんなさいね。

  最近はもう起きる事も少なくって」


 ゴボウのように痩せこけた色黒の男性は、チラリとこちらを見ただけで壁側に寝返りをしてしまった。

 気に入られなかったようだ……


 ローレンスと母のジョゼフィーヌに頼んで、蜜の森の生態に詳しい本を集めてもらう。

 散らかすプロのプレダールがいては、作業もはかどらない。

 完全に読むだけにさせた。


 文字を読むだけなら秒速レベルでページをめくるのに、今日は随分と遅い。


 「今日は随分と読むのが遅いみたいだけど、難しいのか?」


 「いえ、ワタシ挿絵を見て外観を覚えるのが下手なんです。

  文字だけなら楽なんですけどね……」


 ボクは絵を覚えるのは得意だが、その生物の名前までセットと言われると厳しい。

 かなり時間がかかりそうなので翌日再度訪れる事を伝え、宿の確保に向かった。

 宿屋の受付の老婆は怪しむ様子を隠さず、ボクらをジロジロと吟味する。

 納得いったのかいかないのか、眉をひそめて口を開いた。


 「遅い時間の初見さんとは珍しいね、こんな片田舎に。

  1人につき銀貨3枚だよ。

  好きな部屋を使うと良い、鍵はドアについたまんまさ。

  急な客に夕食は出ないよ悪く思わないでおくれ」


 確かに、かなりの距離を飛ばしてきたから田舎なのだろうけど……

 それにしても排他的すぎる。

 室内は一泊1万5千円どころか5千円でも高い! と言いたくなるほど簡素で寝るだけという感じである。

 ボれる客からはボるという日本の悪しき習慣を感じた。

 馬車だけ置いてシャリアを人型にすると、だっこ! と言って抱きついてきた。

 頑張ってくれているので、そこは許さざるを得ない。


 仕方ないので冒険者ギルドの支店で食事にした。

 酒場9割ギルド1割もないという雰囲気で、地元の一般人が多くて冒険者らしき人はほとんど居ない。


 「ほらレイネスさん、酒場で食事にしますよ。

  お酒飲まないんですか?

  冒険者は全然いませんし、気楽に飲めるはずです」


 あぁー……と小さな声を出してゆっくり立ち上がった。

 1日でこんなに印象が変わるのか、という位に目の周りは黒いクマのようになっていた。

 凛々しかった眉と目は垂れ下がり、弱々しく見える。

 ある意味変装の名人かもしれん。


 店内に入ってそれぞれ注文し、運ばれてきた食事はそれなりに美味しそうだ。

 レイネスがごそごそと力無く支払う意思があるようだったので、止めた。


 「こういう会計は全部ボクの財布から出ます。

  と言っても払う役は全部メリアさんですけど……」


 「なにっ……?!

  と言う事は1ヶ月の間、全部奢りなのか!!」


 急に目に活気が取り戻された。

 上から順に高いものを5つと1番高い酒を3つ! と追加で頼んでいる。

 片田舎で1番高いも5番目も大差無い気はするが、元気になってよかった。

 抜いた昼食を取り戻す様にガツガツ食べて飲んでいる。

 汚らしい食べ方はプレダールと良い勝負だ……

 見知った人がいないので素が出ているのかもしれない。


 「プハーーッ!

  タダの酒ほど美味いものは無い!!

  おや、みんな結構遠慮してんだね?

  もっと頼めば良いのに」


 「毎日こんなに食べたら動けなくなりますよ。

  なぁみんな…………」


 羨ましそうに見ているので、実は遠慮していたのかもしれない。

 遠慮しなくて良いと言うと大きなテーブルに乗せきれない位の料理と酒が運ばれてきた。

 最後の晩餐かと思うくらい全員嬉しそうだ。

 メリアだけは会計担当なので遠慮がちに飲んでいる。


 「なぁ……服部殿よぉ……

  この後の宿屋の部屋割はどうなってんだぁ?

  まさかアタイを男と同室にはしねーよなぁ?」


 酒臭い息を吹きかけて絡んできた。

 こんな酒癖の悪い躁鬱美人を相手に、悪さをする気になれない。


 「ボクとシャリアとバーレンで1室使います。

  残りの女性4人で1室使ってくださいよ」


 「プレダール様と同じベッドなら文句はねぇ!

  おう、酒もっと出せー!」


 完全に出来上がっているが、グイグイと酒を飲み干している。

 つられてルティスとバーレンも酒を頼もうとした。


 「明日二日酔いとか言ったら飲み放題辞めますからね!

  まだまだ移動は長いんです」


 2人はビクッとして水を頼んでいた。

 レイネスはお構いなしにガブガブ飲んでいる。

 雷属性だから体内で電気分解でもしてんのか!?

 まぁ明日になれば分かるか……


 不安そうなプレダールが小声で、ねぇねぇ、と話しかけてきた。


 「このウザさ特盛にしたレイネスに絡まれたら殺しても良いですか?

  ワタシ嫌ですよ添い寝するなんて!」


 「殺すのはやめてくれ、貴重な戦力だし有名人を消すのは問題になるだろ!

  暴れて雷ぶっぱなし始めたらボクも加勢するけど……

  その前にメリアに魔法で寝かしつけて貰った方が良いだろう」


 「最近ワタシばっかり面倒なんですけど!!」


 レイネスが抜けたら注文する肉のランクを2ヶ月上げる事で交渉は成立した。

 この幼女に効果的なカードが未だに肉しか見当たらないのが困る。

 どうしたものか……


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