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15.すれ違い

 

 昼食は今日も3人から無言の圧力を受け、取って貰うことをお願いする。

 なんだか飼っている犬の食事の時の、待て! みたいな気分になってきた。

 黙って持っていくような仲にはならないように気をつけたい。

 もう3回目だから持っていかれるかも? と危惧していたけど、そういう所は礼儀正しくて好きだ。


 「今日の夕方か夕飯の後に、みなさん3人とお話がしたいんですけど時間大丈夫ですか?」


 「んむ、んむんむむむ!」


 「食べながら喋ってるデリンも私も大丈夫よ」


 「ワタシは夕飯の後なら。

  今日準備してた件ですかね、楽しみにしてますよ」


 「まだ相談の段階ですので、あまり期待はしないでください」


 ふっ、俺様に任せておけ! なんて言えるほどギフトも現実世界の能力もチートではない。

 大鬼人オグル軍がどこまでできるかという、わからない部分の調整次第だと思っている。


 「あと、マナ回復薬ポットってありますか?

  あると助かるんですけど」


 「恐らく無いと思います。

  そもそも使う人がいませんから。

  一応こちらで確認はしてみますよ」


 「お願いします。

  ……この後、地下牢のエルフに会いに行きたいんですけど、どなたかお付き合いして貰えませんか?」


 「昨日の今日でまた餌付けに行くのですか!」


 ソラルが少し怒った笑顔で注意してくる。

 マナポットが無いなら、マナ操作にけたエルフに教えを乞うしか無い。

 それ以外のやましい気持ちはない……たぶん。

 少しの時間なら良いと許可が出たので、最初からパンとスープを持って行くことにした。


 「なんじゃ、また来たのか人間。

  懲りぬようじゃな?

  マナの流れが荒いと姿は見えなくともバレるぞ」


 例えば消えた状態で荒い呼吸をしていたら何かが居る! とバレるように。

 マナの扱いに長けたエルフには生兵法のボクの透明化スキル操作では一目瞭然なのだそうだ。

 地味に困った。

 そんなにすぐ操作が上達するとも思えない。


 毒味をして食事を渡すと美味しそうに食べている。


 「聞きたかったのは、マナポットの作り方かマナポを分けて欲しいということなんです」


 「んぐっ……!

  すまぬがマナポットの材料がここにあるとは思えぬし、我の荷物は没収されておるからわからん。

  タダ飯喰らいですまんな。カハハ!」


 「わかりました。困ったらまた来ます。

  マナ操作の秘伝をアナタの体に聞きにね」


 なにをされるのか?! と一瞬たじろいだ表情が可愛い。

 やっぱエルフだな!

 成功するかは分からないけど。

 宿舎への帰りがけに城塞周辺地図を貸して貰えないかソラルにお願いする。

 少し眉がピクッと動いたが、笑顔で貸してくれた。

 本当は貴重なんだなと察する。



 宿舎に帰ると、みんながジロッと見てきた。

 そりゃそうか……さっきバタバタしてたし。

 先程は申し訳なかった旨を謝罪したが、疑惑の目を向けられている。


 「服部さんは、なにがしたいのです?

  戦争をしようと懸命なようですけど」


 時田さん、そりゃそうだろ……

 後一週間で食事抜きになってジリ貧になるんだから。

 かと言って脱走しようとは思えない。

 あの3人にはお世話になっているし、性格も笑い方も好きだ。

 エルフも好きだから置いていけない。

 ここにいる人間5名より、人間以外の4名の方が圧倒的比重で天秤は傾いている。

 しかし、完全に見捨てるのも夢見が悪い。

 地図をテーブルに広げる。


 「これを見て脱走計画の難しさを知って欲しい。

  見つかったら死罪だとも聞いている。

  それでも戦わず当てもなく逃げるのか考えて欲しい。

  あ、夕方に返す地図だから丁寧に扱ってね……」


 「この地図が正確って証拠、ある?」


 出た!

 とりあえず証拠出せ理論。


 「翼くん、いらないなら地図はもう返却するよ。

  借りるのも手間だったからね。

  逆に嘘の地図という証拠があるのかい?

  水掛け論だよ」


 「確かにポッと出の平民が持ってきた地図を鵜呑みにはできないね。

  でもわざわざ、こんな大きな偽の地図を作ってまで脱走させないメリットが彼にはない。

  そうではないかな? みなさん」


 藤原くん一言多くなければ頼りになりそうなんだけど。

 翼くんは地図をじーっと見た後立ち上がった。


 「合ってるか、確認してくる」


 言うと同時に出ていった。

 飛べば大丈夫だろうけど、撃墜されたりマナ切れしたらどうするんだろう。

 まぁいいか……飛翔は貰ったし。


 「ここからはボクの独り言だ。

  聞き流してくれていいし、信じなくても良い。

  残り一週間でこの城塞の食料が尽きる。

  15kmほど先に駐屯している敵軍の補給が今日か明日の夕方に来るらしい。

  次の戦闘は明日か明後日の予定だそうだ。

  ボクは地下の牢獄に捉えられているエルフ女性に会って回復魔法をかけてもらって、ファンタジー要素は少し味わえた。

  会うのは大変だったけどね。

  だから、色々お世話になった大鬼人の人達に生き残って欲しいと思っている。

  戦争に参加しないなら、ボクは人間を助けるつもりはない。

  ……あ、喉乾いたから水飲んでこよ」


 扉越しに、ズルい!一方的! など罵倒が飛び交っているが知ったことではない。

 そもそもボクが来たのは昨日なんだ。

 もっと前から来てるみんなの方がずるい。

 猶予がもっとあったのだから……


 同じ日本人で、同じく異世界に急に飛ばされて、一番滞在時間が短いボクが、なぜズルいのだろうか。

 人間より大鬼人やエルフの味方をしたいと思う。

 なぜボクは人間なんだろう……


 やるせない気持ちで、久しぶりに少し涙が出た。


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