141.プレダールの面接
その後もメリアと少し話してから切り上げた。
隣の部屋から腹ペコ幼女2名の苦情が届いたからだ……
騒がしい兵士達との夕飯も今日で最後だ。
なるべく朝1番に出ていきたい。
魔砲の聖地と言われるロイリア合衆国は馬車で2週間の距離。
シャリアの機嫌が良ければ半分以下で行けるのだろうが、どこで不機嫌になるかわからないし戦争が始まる危険性もある。
食べながら伝えると、ようやく馬車引ける! と嬉しそうだった。
そんなに楽しいのだろうか……
みんな初めて行く国だからと期待している様子である。
ボクにとっては全てが初めてだから景色の変化や建物の移り変わりすら楽しい。
できるだけ知らない道を行きたくなる。
少し大回りをして部屋まで帰る。
ターシャが廊下で1人、月を眺めていた。
ボクはお礼を言っておきたいから、と先に仲間を部屋まで帰した。
「やぁ、ウチのお姫様を随分とズタボロにしてくれたらしいじゃないか」
イタズラっぽく笑ったターシャの笑顔は全然吸血鬼に見えない。
ボクの見間違いだったのではないかと疑いたくなるくらいだ。
「いえ、嘘は言ってませんよ。
参加したおかげで世の中は広いと実感しました、色んな人がいますね」
「そうだな。
アンタみたいに手を抜いてアタシ達に勝つ様な化け物もいる。
それを知っただけで十分得るものがあった。
充実した7日間だったよ」
「ボクも、魔砲の事を教わって楽しかったです。
まだまだ練習不足ですけど、次に会ったら負けませんよ!」
「生意気言いやがる。
アタシに追いつけなくて泣くんじゃねーぞ!」
軽く笑い合って、どこかでな! と手を上げられて別れた。
いつかまた笑顔で会えるだろうか。
その時までにAランカーになっているといいなー……
部屋に戻ってプレダールを隣室に呼び出す。
お茶を出そうかと確認すると、苦いのはいらないです!と断られた。
好き嫌いがハッキリしていて良い。
「それで、ワタシに何を聞きたいんですか?
メリアさんとは随分長話していたみたいですけど」
「決勝で戦ったレイネスもベタ褒めしていたぞ?
随分素晴らしい体術をお持ちだ、さぞ高名な武術家だろう?!って。
文官だって言ったら泣き出しそうになってました」
「あははは!
大鬼人が人間に負けるはずがありませんからね、それだけですよ」
「いや、何人も男の大鬼人と試合したが負けなしと言っていた。
それもあってプライドの高い人だったんだろう。
でも、じゃあ何でプレダールは文官をしているのか?
って気になったんだ」
「あー……
でも、ワタシあんまり強くないんですよ本当に。
デリンさんに勝った事ないですもん」
そこは比較対象になるのか……?
仮にも副将軍相手だろう。
「あんな脳筋まっしぐら!みたいな人に勝つ方がどうかしてるよ。
ははは!」
「それもそうですね、あはは!」
故人の思い出を笑って話せるくらいには落ち着いてきた。
でも、自分がやってしまった、という罪の楔は取れていない。
「じゃあ、特に武術をやってたわけでもないのか?」
「んー、ほらワタシって小さいじゃないですか。
組み手とかそういうのサイズが合わないから見学しかしてません。
文官を目指すまでは1人で木人相手に遊んでたくらいかなー」
「じゃあ、ちょっと腕を触らせてくださいよ」
「え……?
急になんですか。まぁいいですけど」
スッと右腕を真っ直ぐに差し出してきた。
手を見てもゴツゴツしている訳でもなく、爪が黒く尖い位だ。
腕を触ってもぷにぷにしている。
「なんかマジマジと見られると変な気分ですね。
特に変わった様子もないと思いますけど……
ちょっと! くすぐったいですよ!」
二の腕を触っても軽い運動をしていた位の筋肉しか感じない。
しかし、力を思いっきり入れてくれ、と頼むと豹変した。
ガッチリと固く太くなった腕は、筋肉と言うよりは鋼を思わせた。
「な、なるほど。
人間と違う筋肉みたいですね……
参考になりました、ありがとうございました」
「ワタシの腕くらいで驚かれては、こちらも驚きますよ。
やっぱり男性の筋肉の方がすんごいですからねー」
これよりイカレた筋肉があると言うのか……
恐ろしい世界だな。
「そういえば、バーレンについてはどう思っている?」
「あぁ、あの女の胸追いかけ回しているヤツですか。
どうって、特に何とも思っていませんよ。
夜番は真面目にやっているし、他の人の体触る事もしません。
荷物も率先して持つし、信用されようと努力が見えます。
そこら辺の人間男に比べたら結構まともじゃないですか?」
もっと悪口が出るのかと思っていたが、むしろ褒められている。
夜はみんながいるから安全だ、くらいの漠然とした感覚で眠っていたので知らなかった。
結構みんなに支えられているんだな。
「あぁ、ワタシから聞きたい事があったんですよ。
例の別人になったアレです。
本当に覚えてないんですか?」
「会議の後に会場の下見に向かったくらいで記憶がない。
むしろ、本当に動いていたのかと驚いた」
「なるほど……
途中からシャリアが服部さんを睨んでましたし、あの子は誰よりもカンが鋭いのかもしれません。
ワタシも変だな? とは思いましたけどね。
服部さんが変なのって結構多いんで、あまり気にしませんでした。
変な病気が始まったのかなって。あはは!」
ひどい言われ様だ……
ボクは他人に褒められない病気にかかっているのか?
まぁ常識が違うのであれば、仕方ない部分もあるんだけど。
「……こうやって話さないと分からない事、結構多いんだな」
「そうですねー。
メリアさんのババア臭い説教かと思いましたが、存外良いモノです。
みんなの前だと言いにくい事もありますからね。にしし!」
意外と気を使ってくれていたらしい。
……いつもと変わらない気がするんだけど、気の所為か?
「たまには良いかもしれないな。
また何か気になったら気軽に聞いて欲しい。
ボクもなるべく話しかけるようにする」
「そうですね、ワタシも気になったらすぐ聞くようにします。
まーた変な人格になったら特に、ね。
あぁ、合言葉を決めておきませんか?
言えなかったら別人だと判断できますし」
「じゃあ、プレダールは小さくて可愛い。にするか」
「…………。
まぁ、確かに異世界人と一部の人くらいにしかモテませんからねワタシ。
あまり好ましくありませんが、それで構いません」
「結婚してくれ! の方が良いか?」
「なにバカな事を言ってんですか!
話しが大きくなってますよ!!
じゃ、終わったみたいなんで戻りますよ。
ルティス呼んできます」
少し照れた様子のプレダールは可愛いかった。
頭を撫でられないのが惜しい。
みんなと仲良くなる事が、ちょっとずつ前に進んでいる気がしてきた。




