14.閃き
プレダールは心配そうにボクを見て口を開く。
「では、同じ世界出身である服部さんは戦う気はあるんですか?」
「先日からずっと考えていたんです。
ボクのギフトの制限を考えて現状の拠点でしか能力を変更できないとなると、指揮官のみを狙った暗殺くらいしかできる目処が立っていません。
後は、多少の奇襲や動揺を誘う策……くらいでしょうか。
ボクだけだと実行できるのは、どれか1つです」
「全て同時にできれば最低撃退はできそうですが……
っていうか戦う気あるんですね。さすがです」
「エルフと魔法が大好きですからね!
まだ死にたくないんですよ。
あ、プレダールさんも好きですよ。
話をちゃんと聞いてくれますし、楽しいです」
「あ、ってなんですか。
そのついでに付け足したみたいなの。
全然嬉しくありませんよ! バーカ!」
ちょっとだけだけど、照れてる幼女は可愛い。
ボクは確認したい事を並べて、何があるのか聞く事にした。
「確認したいんですけど、可燃性の油、火薬、簡易点火装置、毒ガス、河川への毒物流布用に水銀とか、なんかそういうのないですか……」
「可燃性の油と、楽に火が付けられる叩き蛙が用意できるくらいで他はたぶんありません。
それが何か……?」
「相手も火薬は持っていませんかね?」
「他の戦場では使われた記述がありますが、ココの半年間は確認されていません。
相手の銃はマナを圧縮して打ち出すタイプですので」
「……なるほど。
相手の補給が来る間隔とか調べていますか?
次がいつなのかなーって気になって」
「えぇ、確かこの辺の……報告書にあったような……気が……する……ので……す……が……。
ありました!」
ひたすら部屋内の書類を引っ掻き回して探し当てた。
散らかっているようで把握はしてるんだな。凄い。
ペラペラとめくって確認している。
「えーっと……おそらく、今日か明日の夕方ですね」
「今日じゃないことを祈っておいてください。
あと可燃性油と、その叩き蛙?を組み合わせて投げて地面にぶつかったら燃え上がる火炎壺を作ってください。10コほど!」
「火炎壺くらいは作れますが、何に使うんです?」
「内緒です!
ではボクはちょっと用事を思い出しましたので、これで!
あ、ボクが着れそうな革鎧とかないか確認しといてください。
できれば相手の軍と同じのがいいですー」
逃げながら通したい無茶を言う事によって拒否を聞かない戦法!
たぶん戦う人間がいないであろうこの城内に、相手軍の装備なんて無いだろうけど……
宿舎に戻りながら縮小化を削除する。
部屋に戻るなり、問答無用で悠里と握手、刀剣適正をポイ。
翼くんに握手をし、シェルをポイ!
早苗ちゃんと握手をして完成である。
もはや嫌われようが何だろうが知ったことではない。
握手とピリッくらいは我慢して欲しい。
ボクは君たちに何と言われようが、この世界で冒険をするんだ!
コピーの構成は、マナ貯蔵庫、魔法3種、加速+、飛翔、透明化で完成だ。
本当は消音も入れたかったのだが枠が足りない。
飛翔と透明化のスキルに慣れないことには作戦は成功しないのだ。
「ちょっと、なによー!
ハットリー! おーい!」
誰かが呼んでいるが今は時間が惜しいので無視!
近くの大鬼人にデリンの場所を聞くと、この時間なら修練場だろう、と言われ直行する。
デリンは他の兵士を指導していた。
怒る以外の仕事を本当にしていて、なんか感動する。
戦闘狂みたいなデリンの野生のカンも含めて、透明化でボクの場所が本当に見えていないのか、スキルは使えているかの確認をお願いする。
透明化 アクティブスキル
スキル使用時の被使用者と身につけているものを透明にする。
スキル効果中の被使用者はマナを消費し続ける。
身につけている物の表面積に比例して消費マナは増加する。
デリンはボクの透明化を見て、即座に指摘をしてきた。
「タイマンだと足音で場所バレるぞ。気をつけな」
悠里が的確な指導をされていた話は半信半疑だったが、デリンさん良い人だった!
そもそもタイマンしないし、気付くような野生のカン持ちは大鬼人族だけで十分だ。
ついでに人間の首を横一文字に切る方法を聞くが”普通やればできる”などと理解不能の供述をしており、全く参考にならなかった。
種族の壁は厚かった……
重いものを装備して飛べるかどうかの練習と確認をしなければならない。
油壺と言ったら厨房だろうか倉庫だろうか?
革鎧の件もあるし倉庫に行ってみよう。
近くの大鬼人に聞くと、わからんと言われる。運がない。
物資搬入のことを考えれば恐らく1Fだ。
1Fで何人かに聞いてようやく知ってる大鬼人に会う。
大鬼人族って自軍の倉庫に興味なさすぎない???
しかも2Fだったし。
散らかしながら探している幼女……間違いなくヤツだ。
絶対いらない仕事増やしてるよアレ。
「上級文官殿! 散らかしすぎです!」
「これは探している過程です!
散らかったのは仕方ないです!」
無理やり正当化してるから困る。
この人の部下は大変そうだ。
プレダールは急に手を止めてこちらに振り向いた。
「変だと思ったら服部さんでしたか、何の用ですか?
革鎧ならまだ見つかってませんよ」
「火炎壺に使う壺は大きすぎないようにしてください、と注意しに来たんです。
5~6コはボクの体に巻き付けるんですから」
「自爆特攻ですか?!
困りますよ勝手に無駄死にされちゃ!」
……確かにそういう捉え方もあるな。
持ち運ぶ用だと伝えると、小さめの木箱を担いでください、と説得される。
ふとした拍子に身に着けた壺が連続で着火したら火ダルマだ。
他の人に指摘される大事さを知る。
担ぐ木箱を支度してもらって、中庭で透明化をしながら飛翔を使ってみる。
飛翔 アクティブスキル
使用者はマナの使用量に比例して高く早く自在に飛ぶことができる。
重さに比例して云々の記述が無いが大丈夫だろうか……不安だ。
飛んでみると、飛ぶというよりは座標を自由に移動できるスキルというか、飛ぶという表現がイマイチ違う気がしてならない。
慣れだろうか?
飛翔の練習をしていると日が高いことに気付く。
早く行かないとご飯が無くなるのだった、急ごう。
少し早く付いてしまったようでデリン・プレダールの腹減りペアすらいない一番乗りだった。
マナは一応、自然回復も多少してるようだが当てにできるほど早くない。
マナ回復薬とか無いものだろうか。
マナなしの大鬼人族にあるとも思えないが一応聞いてみるだけ聞いてみよう……
飛翔は今の自分のマナ最大値を考えるとコスパが悪い。
すぐにデリン・プレダールのペアが来て話しかけられた。
「おっ! 服部はえーじゃねーか、一番乗りか!
今日は慌ただしくウロウロしてたみたいだが、なにしてんだ?」
「ワタシに面倒事を押し付けたんですよ!
デリンさん怒ってくださいよー!」
「プレダールに仕事押し付けられるんなら大したもんだ。
期待できそうだな!
さすがアタシがガチャ回しただけある!」
デリンが上機嫌なの初めて見た気がする。
自分なりに頑張っているつもりなのを誰かに認めて貰えるのは、とても嬉しかった。
叩き蛙
この世界中で数種類いる、地面に叩きつけると火花を出す蛙。
子供の遊びによく使われていて最近は減少傾向にある。




