134.雷迅 対 鬼の幼女
それからも暫く作戦会議を続けると、扉がノックされた。
カービスがキリッとした表情で口を開く。
「もう間もなく試合が開始されます。準備はよろしいですか」
ボク達はまだ作戦の練りが足りない気もしているが、今さら騒いで時間を伸ばして貰えるわけでもないだろう。
了承して立ち上がる。
会場内への扉が開く。
先程より大きな歓声が耳と心を刺激する。
未だに自分に自信が持ちきれないので、こんな所にいるのが少し不安になる。
……でも、それじゃダメなんだ。
ボクは勝って自信をつけるんだ!
整列時に正面のレイネスが見下した目でボクを見ながら口を開いた。
「負けたと思ったらアンタークの待ったが入ったが何だアレは?
八百長の取り決めでもしたのか?
随分下手な演技だったし魔砲もヘタクソだ。
なぜココにお前がいるのか理解できん」
ボクはまだ良いにしても、彼の侮辱は許せない。
アンタークは公平な勝負をしたかった聖騎士らしい人柄だ!
「アンタよりアンタークさんの方が強かった。
後でそう言って聞かせてやるよ。
雷しか能がないようじゃ程度が知れる」
精一杯の虚勢を張って睨み返した。
レイネスは憤怒を抑え込むように、瞬殺してやるよ、と返してすぐに壁際の配置に着いた。
頭に血が登りやすい人だったのか……
冷静そうな見た目とは真逆だ。
大きな声でカウントダウンが始まる。
決勝だけはバフ時間が15秒らしいので30秒前から騒いでいる。
「みんなごめん、レイネスを怒らせてしまった。
最初からオヴリーネを出すからメリアは攻撃と補助を頼む」
「なーに、怒ったくらいの方が動きが単調になるもんです!
ワタシが不慣れな双剣で瞬殺し返してやりますよ、にしし!」
「プレダールにも今回はバフをかけておく。
いつもより早くて強いじゃろうが、加減を間違えるでないぞ」
「ヤダヤダ!バフいらないよー!
そのままでも倒せるってー!
服部さん何か言ってやってくださいよー!」
手足をバタつかせて急に駄々っ子になった……
ギャップがあって可愛さが増した。
「……わかった。
バフが無かったから負けた、と言い訳しないだろうし。
バフがあったせいで加減をミスってレイネスを殺すより良い。
それじゃあ、もう時間だぞ。
メリア頼む!」
ニッと笑ってプレダール以外全員にバフを撒き始める。
ボクも深海の姫を呼び出し、すぐさま状況説明に追われる。
「雷と土か、回復だけで良いとは言え少々面倒じゃな……
お前らいつぞやの失態を拭うチャンスをやろう。
妾とこのチビの盾となれ」
「「ありがたき幸せ!」」
2つ同時のステレオ会話どうにかならんかな……
いつも変な感じするんだよね。
体で防御しろとは随分な命令だが、大丈夫なのだろうか。
ニィ! ィチ! ゼロ!!!
大きな歓声に気を取られないようにと魔砲を構えた瞬間、レイネスとプレダールは中央でタイマンを始めていた。
騒がしかった観衆も息を飲んで静かに見守っている……
あんな幼女がAランクのレイネスと互角に、いや、押してる状態になるはずがないと。
レイネスのPTも同じ心境なのか右往左往している。
「みんな、ボーっとするな!
プレダールが強いなんて今に始まった事じゃないだろう!
残りを殲滅しに行くぞ!」
「あ、はい!」
「おうよ!!」
ボク達が走り始めると気付いたターシャが魔砲を3連射してきた。
土の魔弾だからか風のマントを切り裂くような轟音が耳をかすめる。
相手は土嚢のような魔砲避けの壁を土魔法で出し、隠れながら打ってきている。
水のボム弾を土嚢に当てたが破裂するより先に吸収されてしまった。
土の方が優位とかそういうのか?!
ルティスとバーレンは盾をしっかりと構え、マトにならない様に左右に振りながら走り始めた。
それでも時々、盾や胴体を弾が通り抜ける。
めちゃくちゃ痛いけど、すぐにオヴリーネが回復してくれる分、頭さえ守れればどうにかなる。
突撃してきた女性を迎え撃ってバーレンは戦斧同士の戦いを始めた。
斧同士が衝突した時の重低音が響く。
……まだか、プレダール!
チラッと横目で見ると、レイネスは雷の再チャージ時間が取れないのか防戦一方になっている。
ここに割って入ってしまっては勝っても幼女と観衆からブーイングが出てしまいそうだ……
任せるしかない。
後ろはそろそろのはず……
シャリアの魔砲の音が聞こえる。
準備OKのサインだ。
「メリアの準備ができた、行くぞルティス!」
回避重視から一転して走り込む。
炎の壁が相手の土嚢前に出現し、視界を塞ぐ。
相手に水の魔法が無いのは知っているんだ、これで多少は安全に間が詰められるはず!
それを見て取った相手のエルフが、レイネスに加勢してプレダールの剣を風の魔法で吹き飛ばす。
それに気を取られた隙にレイネスは距離を大きく取った。
城内からはブーイングが響き渡る。
「レイネス様、負けてしまっては元も子もありません!
お許しください!」
「私がこんなチビに負けるだと!!
ララーニャ、もう手出しは無用だぞ!」
レイネスは腰を深く落として雷をバリバリとチャージし始めた。
突くと同時に雷光がほとばしり視界が真っ白になる。
オヴリーネの側仕えが体でガードしたのか、ブクブクと泡立って霧散していった。
沸騰してしまったんだろうか……大丈夫かな?
プレダールは慣れない双剣のもう一本を投げ捨てている。
どうやら飽きたらしい。
おっと、見ている場合じゃなかった。
ルティスはもうムローザと戦って組み伏せようとしていた。
ターシャはボクと向き合い、目が合った。
笑ったかと思うと魔砲を構え、左手で来いよと言わんばかりの仕草をした。
どうやら魔砲の勝負で決着を付けようってことか。
プレダールばかりに良い格好させていられない。
これでも一応、リーダーなのだから!




