130.控え室の攻防
「では、次はそなた達だな。
試合内容を楽しみにしておるぞ」
伯爵は目を細めて笑顔で見送ってくれた。
ボクは控え室までぎこちなく歩いていく。
中に入ると仲間たちはまだボクに言い足りない表情をしているが、それは後にしてくれと頭を下げた。
「ハァ……
こんなに安心する頭の下げられ方もありませんね。
服部さん本人だと思える行為です」
「大将と言ったらお辞儀みたいなとこあるな!
先日までの大将ったらひでーの何のって……」
「愚痴は今はよせバーレン。
儂らはまず、勝たねばならんのだ。
名誉でも金でもなく、実力を示す為に」
メリアはいつになくやる気が満ちている。
自分の新しい魔法を試したいのか、自信を取り戻したいのか。
「ご主人様と久しぶりに会った気がします。
あまりあぁいう事の無い様にお願いしますね……」
「はるき! ハルキ!
シャリアのおかげだったんだぞ!
もっと褒めてー!」
無い様にって言われて了承できるほど怨嗟の指輪は素直ではない。
駄々っ子と化したシャリアを目一杯可愛がりながら、作戦を伝える。
「まず、プレダールは戦闘を行わないで欲しい。
できるだけ決勝の最終兵器として温存したいんだ。
ボクはレイネスの戦闘をほとんど見る事ができなかった。
でも、ハインベルさんが負けるほどの相手だ。
せめて少しでも切り札を残しておきたい」
「えー? ワタシお留守番役ですかー?
一回戦も特に何もしてないからつまんないです。
まぁ作戦内容は納得できますけど、危なくなったら手を出しますからね!」
結局暴れられる機会があるなら暴れたい種族なのか。
普段が温厚な幼女だけに、つい忘れがちになる。
「危なくならない。
それは絶対に絶対だ。
ボクが魔砲で先日見せた拘束弾を使って、1番強いと想定されるリーダーのアンタークを担当する。
残りのメンバーはルティス、バーレンと同じくらいの技量だ。
どうにか抑えて欲しい。
もちろん、ボクも多少援護できるように後方から見ておく」
「いや、絶対って大将……
同じくらいの技量相手に3対2はちとキツイぜ……」
ルティスも少し不安そうにバーレンの意見に賛同している。
他の人はメリアのスキル追加を知らないんだったな。
「仮に相手が倍の数いても勝てるはずだ。
4日も留守にしたメリアを信頼しろ。
いやまぁボクも2日留守にしてたみたいで申し訳ないけど……
それを挽回するだけの事は行動で示すつもりだ」
全員ハモって、本当かよぉ? と疑問の視線をボクに投げかける。
メリアの方が信頼されてるんだな……
なぜボクはPTリーダーなのだろうか。
激しく疑問だが、今は横に置いておくしかない。
「それからシャリア。
ボクがまたおかしくなったら止めて欲しい。
重要な役割だ、頼めるかい?」
「ウン! 大丈夫!
シャリアが晴樹をケンジューでぶっ殺して止める!」
笑顔で物騒な事を言わないでおくれ……なんだか怖いよ。
適当に役割を考えておく予定で後ろに配置させただけだが、結果的に良かったらしい。
ボク自身は一切覚えてないのでわからんが。
ライフル型の魔石にソーン・バインドを目一杯にイメージして込める。
おい、込めすぎじゃ! とメリアから後頭部を叩かれた。
おっかしーなー?
カンが鋭くなって凄い調子良かったんだけど……
寝て起きたばっかりだからかな?
これは命中率も下がっていると思って対処しなければならない。
入場の鐘が鳴り響き会場内に入る。
大きな声援の中に、仲間の子供に倒されたリーダーが入ってきたぞ!
と笑われているのがわかる。
そんな事はどうだっていい。
いつだか伯爵も言っていた。
『結果を残しているから信用している』と。
兵士相手ならば尚更だろう。
みんなを笑い者にさせたくない。
ボクを信じてついて来てくれている仲間の為に……!
中央で整列して相手を見て礼をする。
アンタークはボクを真っ直ぐ見て口を緩ませた。
「貴殿の本当の実力をようやく見られる訳だな。
期待しているぞ。フフッ」
何だか買いかぶられている気がしてならないが、勝つつもりだし良いのか。
相手は魔法タイプが0なのだ。
魔砲を持っている人はいないが、弓が意外と厄介かもしれない。
バフタイムの10秒カウントが始まる。
会場内の兵士が全員大きな声で唱和している。
アンターク側は円陣を組んで気合を入れている様子だ。
メリアにボクとルティスとバーレンの3名にバフをかけてもらう。
1つだけ知らない魔法の詠唱が始まった。
「我らに飛び込む矢を無能と成らしめ 打ち込まれる剣をも無能とせよ。
ウィンド・マント! 」
個人を中心とした小さな竜巻が足元から吹き上がる。
メリアは少し疲れた表情で、さっそくマナポを飲んでいる。
「飛んでくる矢や剣を反らす風のマントの魔法をかけた。
風の回転が太陽周りになっておるから、飛び道具を避けるならなるべく左側にせよ。
まぁ下手に意識するくらいならそのままでも良いがな」
ィチ! ゼロ!!!
旅を始めた初期の頃の自信溢れるメリアの表情があった。
ドヤってるメリアは久しぶりで何だか嬉しい。
だが、そんな感傷に浸っている場合ではない。
ゴングは鳴ってしまったのだ。
大勢の人に見られながらの始めての戦い。
ボクは入場前から鼓動の高鳴りを抑えきれず、開始と同時の声援でさらに体が熱くなるのを感じた。




