13.おは幼女
「服部さんが死んだらまともなガチャはいないんですよ!?
もう少し自分の立場を理解して欲しいものです。
一人で部屋まで帰れますね?」
ニコニコしながら怒るソラルさんのお説教が終わって外に出る。
2Fの廊下を大きな三日月が照らしていた。
松明と三日月だけの明かりは、夜の暗さを漆黒と言えるほど黒く染めている。
慣れていない城内は足元がおぼつかず、ゆっくり歩いて寝る部屋へと帰る。
小さくノックをして部屋に入ると、全員寝息を立てていた。
中央のテーブルに置かれた1本の蝋燭のゆらめきと採光窓の月光を頼りに、自分の布団を探し眠りについた。
今日は凄く……疲れた……
眠りについたと思ったら叩き起こされていた。
全然寝た気がしない。
大鬼人が迎えに来たから早く行け! という部屋全員の総意である。
2度寝は許されなかった。
「おはようございま……す? プレダール上級文官殿。
なんですか朝から」
「なんですかって、ワタシに報告する事とかないんですか!」
なぜ寝起きから半ギレ幼女と会話しているのか。
この異世界は理不尽だ。
昨晩のエルフの件か、魔法の件か、はたまた別の報告漏れか?
「プレダール上級文官が幼女で可愛いからデートしたい、とは常々思っておりますが……
報告漏れについては心当たりがございません」
「異世界人はワタシの見た目が好きになる魔法にかかってるんですか?!
見た目を褒められても全然うれしくないです!
昨晩の件でお話がありますから、ワタシの部屋へ行きましょう」
合法ロリに惹かれる前任者は数名いたらしい。
ボクは幼女趣味ではないが、ジョークは通用しなかったようだ。
悲しいね。
「散らかっているように見えるかもしれませんが、気のせいです。
そこに座ってください」
案内された部屋の中は書類や本でごった返していて、気の所為で済ませるには強引すぎる。
テーブルの狭い空間で仕事をこなしているかと思うと、ある意味才能だ。
「それで、昨晩の件というのは牢でエルフとデートした話でいいですか?」
「違いまーす! 降伏勧告の矢文が届いたのですよ!
聞いてないんですか!」
初めて聞いたのに怒られている。
なぜ世の中はこうも理不尽なのか。
城塞を明け渡せば命は保証する、ありきたりな内容だったとのこと。
「初耳でありますがそれの何が、そんなに問題なのです?」
「返答を1日だけ待つ、無ければ総攻撃って追加もあったんですよ。
ほんとに情報に疎いんですね。困ります!」
ボクの方が困ります、今後もこのような対応だと。
こういう場合、上官に逆らって良いのだろうか?
良いのではないだろうか。
「プレダール上級文官殿!
私は先日、ソラル副将軍と地下牢でエルフと色々あった後、ソラル副将軍に小一時間説教をされ部屋に戻って就寝、今に至るのであります!
情報報告されるタイミングがございません!」
「なんで今朝から急に軍人っぽくなってるんですか、そんな服装で言われても似合いませんよ全然。
言葉遣いも所々間違ってますし、いつも通りにしてください。
さっきのは無茶ぶりをされた時の服部さんの反応が見たかっただけなので、お気になさらず」
「はい、すいませんでした」
デリンに理由もなく叩かれたとか、お腹が空いているとか、そういう八つ当たりだなこれは。
自分が悪くはなくても女性には謝れ。上司にも謝れ。
日本人として、そんなことは朝飯前である。
「そういえば、なんでワタシが上級とかソラルさんが副将軍って知ってるんですか。
その話は聞いてませんよ?」
「あぁ、それは確かに報告していません。
ごめんなさい許してください殺さないで」
「唯一のマシなガチャをホイホイ殺してられません。
知ってる事を洗いざらい出してください。
こちらも整理したいですから」
至極最もな意見だ。
なんだか安心したので出せるだけの情報は出した。
城塞内の物資や兵士の質や細かい地形や地質、わからない事が多すぎるので知ってる人に任せるに限る。
しかし、情報を出している最中に割り込んで反論されないのは良いな。
とりあえず全部喋ってみろ、というスタンスのプレダール好きだわ。
「地下の捕虜と仲良くなった、というのは本当ですか?
まともに喋りませんでしたよあのもやし。
2週間メシ抜きにしても音を上げませんでしたし」
おいおい、よく生きてたな……
そりゃソラルさんも死んでるかもって言うわ。
「えぇ、ボクはエルフ大好きですからね、気持ちが通じたんですよ!
回復魔法使って! とお願いしたら承諾してくれましたし。
ただ、回復魔法使って効果を実感させる為とは言え、不意打ちでボクの足を叩いて折るのは頂けませんでしたね。
一言断られても嫌ですけど。ハハハ!」
「そんなことしたんですか、あのもやし。
……火炙りにしましょう」
「ちょ、ちょっと!
あのエルフを殺したら絶対協力しませんからね!!!!
これは絶対に絶対です!譲りませんよ!」
「はぁ……そのくらい大鬼人にも積極的になって欲しいものです」
「しょうがないんですよ、異世界人は魔法が大好きなんです。
ボクらの世界中の人の憧れなんですよ魔法は」
「大鬼人には生まれついてマナが宿りません。
故に魔法が使えない、代わりに圧倒的強靭な肉体がある。
それは好かれ、憧れられないのですか!?」
「大変申し訳ない。
ボク達の世界では集団の力ですが、筋肉も魔法も関係なく空を飛び、100km先に業火を降らせたり、1時間で200km移動する乗り物もあります。
筋肉でそれは叶いません。
魔法だけが、それを個人で叶える方法だと信じられているのです」
「そのような世界から見れば……確かに、この世界は遅れているのでしょう!
つまらないのでしょう!
ですが、ここはアナタ達の世界ではないんです!
戦わねば死ぬんですよ? なぜわからないんですか!」
プレダールは熱くなって涙目になっている。
よほどエルフが好かれているのが嫌なのだろうか。
「なぜと言われましても……
今まで血も死体も見たことがない世界で生きてきた住人なんです。
それに、みんな逃げる算段をしていたみたいですし」
「脱走兵は死罪が当然でしょう
……戦わずに死を選ぶのですか」
「殺すという行動に拒否反応を示しているのですよ。
たぶん誰かを殺すより自分が死ぬ方がマシって言う可能性のが高いです。
積み上げられている常識が違うんです、肉を食べるのに獣を殺せない人種なんですから」
「確かに、そのような考え方は理解できないですね……」
プレダールは考え込んでしまった。
ボクも喋った内容を振り返って、説得できないなと考え込んでしまった。




