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129.そんなに一度に言わないで


 目が覚めると、仲間全員と呼んだ覚えのない深海の姫オヴリーネが心配そうに顔を覗き込んでいた。

メリアなんて半泣きだ。

最近泣かせっぱなしだな……

ここはどこなんだろう?


 「すいません、試合2日前の会場下見の後くらいから記憶が無いんですけど……

  ここはどこで今日はいつなんでしょうか?

  あとなんか体に違和感ありますね」


 ボクは頭をかきながら周囲を見渡すと、仲間が全員抱きついてきた。

 何があったんだ?!

 意識不明で昏睡してたとかそういう展開なの?!

 シャリアがしきりに撫でてと甘えてくる。

 何も無かったのに珍しい。

 かわいいなぁ……


 「貴殿はペペラルージャの怨念に支配されていたのだ。

  いや、怨念と言うよりは憎悪の塊というか変な感触ではあったが……」


 横から聖騎士のアンタークが声をかけてきた。

 一安心そうな表情をしているが、何があったのか全然わからん。

 オヴリーネが醤油をよこせとイラだっていたので、瓶を投げ渡すと満足そうに還っていった。

 結構マズイ事をしでかしていたらしい。


 

 順序立てて話しをしてくれと求めると、全員が堰を切ったようにわーわーと苦情を言ってきた。

 まるでわからないので全員静かに! と言おうとしたらプレダールがバチーンとビンタしてきた。

 あれっ……水鎧ないの……

 顎の骨とか歯とか絶対砕けたし治らないんだけど……

 口の中が血の味で一杯になり、痛みのあまり涙が止まらない。


 「これ、プレダール!

  此奴は本当にわかっておらん様子だし、手を出すのは後にしてやれ。

  回復してやらねばならんではないか……」


 久しぶりのメリアの柔らかい光の回復魔法が顔を包む。

 優しいメリアがいてくれて良かった。

 アンタークは自分の仲間を連れて部屋の外に出ていった。

 何も説明を受けられないまま、全員に誘導されてシェイナー伯の元まで連れて行かれる。


 「ほう、いつもの貴殿らしい顔に戻っておるな。

  第二回戦で聖騎士アンターク殿から試合中断の申し出があったのだ。

  傍から見たら勝っている方の申し出なので受けたが、何があったのかね?」


 それを聞きたいのはボクの方なのだが?!

 横にいたアンタークが伯爵に説明し始めた。

 発言内容や特技を見るに、10数年前に死んだリザードマンの魔砲兵に取り憑かれていたと言う。

 錯乱して多くの仲間を殺したので自分がその場で処刑したが、その怨みが強かった為にボクの体に乗り移って復讐しに来たのではないか。

 と、持論を展開してくれた。


 怨嗟えんさの指輪のせいだなとボクは察したが、アンタークと伯爵は首を傾げていた。

 僻地の森の奥深くなので一般の冒険者は立ち入れないはずだし、そもそもボクが冒険者登録をしたのは数ヶ月前だ。

 現地で取り憑かれたのであれば辻褄つじつまが合わないと唸っている。

 個人的には、怨嗟を浄化してくれたであろう聖騎士様に指輪を任せたいくらいなのでほとんど指輪の事を話してしまった。


 「そのような罪深い指輪が実在していたのか……

  何代か前のファッシーナ聖騎士長が浄化を試みたものの失敗し、ロイリア合衆国の一部を大きな砂漠に変えたと聞いた事がある。

  そのせいもあり、ファッシーナ王国とロイリア合衆国は不仲なのだ。

  未だに根に持っている民は数多くいるだろう」


 なるほど、歴史を学んだ事がないから知らなかった。

 意外と戦争以外の外交問題あるんだね……

 めんどくさそう。


 「まだ話しは長く続きそうであるし、先にレイネス殿のカードを始めさせよう。

  休憩が長すぎては兵士達も飽きてしまうだろうからな」


 周囲に気を配れるシェイナー伯は良い領主だな。

 大きな国のような領土を統治しているだけある。

 このような人格者を敵に回さなくて良かったとしみじみ思った。


 レイネスと戦うのはボクらを指導してくれたハインベルだった。

 弁慶を彷彿とさせるような大量の武器を背中に背負っている。

 どの様に戦うのか見ておきたいのだが、説明を逐一求められるので半分も見れない。

 伯爵は視線を戦闘に向けたまま説明を聞き、しっかりと理解しているようだ。

 器用な頭脳をしてらっしゃる……


 アンタークは嬉しそうに先程の戦闘を振り返り始めた。


 「顔を合わせた時の貴殿の表情や話し方がペペラルージャにそっくりでな。

  あの嫌味ったらしい口調や表情は簡単には忘れられん。

  未だに並ぶもの無しと言われる伝説の聖騎士長様ができなかった呪いの指輪の浄化を、私達ごときができたのは誇り高い。

  貴殿も今後安心して旅を続けられよう」


 どうやら怨嗟の指輪を完全に浄化したと思っている様子だ。

 残念ながら表示されているマナゲージの赤黒い部分は2cmくらいあるし、一切減ってないと言っていい。

 最近よく見てなかったけどむしろ増えている気がする。


 「お言葉ながらアンターク殿。

  貴殿が斬った怨嗟はほんの極々一部に過ぎません。

  嘘だと思われるかもしれませんが、指輪をお見せしましょう」


 革手袋を外して指輪を見せると、生きてきた中で1番醜い物を見たかのように顔を歪めて大きな体をのけぞらした。

 今は特に問題ない大人しい状態なのだが、聖騎士特有の眼力とかギフトの恩恵でもあるのだろうか?


 「そ、そのような酷い指輪をよく装備していられるな……

  すまないがもう仕舞ってくれないだろうか。

  視界に入っているのすら辛い。

  貴殿の言い分が正しいのは非常に良く理解できた。

  私の自惚れをいさめてくれて礼を言う……」


 礼を言う人の顔ではない。

 指にハメて革手袋をすると安心して一息ついている。

 そこまで酷い状態なのか……

 まだ10倍くらい変身を残しているとは、口が裂けても言えそうにない。


 そうこうしている間にレイネス側が勝って試合は終わってしまった。

 沢山の兵士の喝采が送られている。

 悔しそうに片膝をつき、剣を支えにして倒れないように精一杯我慢している様子のハインベルがいた。


 

 レイネスはまだ余力を残しているような表情で、歓声に手をあげて応えている。

 もしアンタークに勝ったら、ハインベル達より強いPTとやる事になるのか。

 これは厳しい状況になってきたぞ……


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