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124.メリアの告白


 「まず、自己紹介から始めるとしよう。

  儂の名は メルランディー・リリアス・アンデルセン・アルビーズ。

  エルフ公国の元・第一王女である。

  歳はたぶん500歳以上じゃ」


 ……何からツッコンでいいのかわからない。

 一人称が”儂”になっているし、名前は長ったらしいから呼びにくいし、前に聞いた年齢が2倍以上になっている。

 混乱した表情を見て取ったメリアは、フフッと笑いながら続けた。


 「儂が何ヶ月か前、

 『遠くの他人より近くの友人を深く知った方が良いぞ』

  とお主に言ったのを覚えているか?

  いや、覚えてはおるまいな……

  忠告の後にも儂の素性を聞いて来る事などありはしなかった。

  期待すると同時に、心底ガッカリしたのを今でも覚えておる」


 馬車の中で言われて、プレダールに聞くと1日4食、全部肉が好き! という話だった気がする。

 言われてみれば、メリアの素性を探るような事はしなかった。

 それは、女性に根掘り葉掘り聞くのは地雷原を歩くようなもの、という現代社会の経験による教訓とも言えた。

 それがメリアを傷つけるような結果になっていたなんて、申し訳ない気持ちになる。


 「なぜ……期待したんですか?」


 「それはな、多くの他の転移者と違ったからだ。

  お主だけはエルフを見て狂喜しても体を求めてくるような下衆げすな人格ではなかった。

  そして、儂はお主が隠しているもう1つの能力も知っておる。

 ”こぴぃ”と言うのだろう?」


 さらにボクの頭は大混乱した。

 生きるか死ぬかの状態だった時に全てをさらけ出してしまったプレダールと違い、他の仲間には教えていない能力だったからだ。

 しかも”多くの他の転移者”だって……?

 そんな事は全く知らない。


 「カハハハ!

  お主が混乱した様子を見るのは久しぶりじゃな。

  少しは溜飲も下がる気分じゃ。

  ……ここから先の話しは、お主が儂をPTから追放する権利を破棄すれば教えてやろう」


 むしろ出て行かないでくれると捉えれば良い条件なのだけど……

 そもそも追放する気なんてなかった。

 見えている火と風の魔法を追加取得されていなくても……

 この際だ、洗いざらい吐いてもらう事を条件に精霊に誓ってメリアを追放する権利を破棄する! と大声で叫んだ。

 話しが長くなるだろうと思い、仲間に執事が来るまで自由に過ごして欲しいと伝えた。


 「では、えっと……メルランディーさん、と呼べば良いですかね?

  1から順に話しをしてください。

  どう言われても元々仲間を追放する気なんてありませんけど」


 「今まで通り、メリア、で良い。

  そうじゃなー……どこかがら良いかのぅ……」


 ステータス欄の長ったらしい名前は、再度メリアに書き換えられた。

 これって本名が登録されるわけじゃないんだな……

 長年の記憶を遡るように遠い目をしている。


 「では、儂がマナの潜在的資質が悪く王位継承権を失った所からにするか」


 いきなり重い話からかよ!

 でも、本人が望んで話してくれるなら聞くしかない。

 ボクに好意的なエルフは今まで会った中でメリアだけだ。

 彼女の判断を信じる。


 「まぁ、400年以上の半生を告白するのだ。

  端折はしょるにしても長くなってしまう。

  茶を入れてこよう」


 まるで気楽にコンビニに行くような軽快な歩きで湯沸かし器まで行く。

 話す方は腹が座ったのかもしれないが、ボクはまだドキドキと心が落ち着かない。

 中央のテーブルに座って待つと、すぐにお茶が入ったカップが前に置かれた。


 「それで100歳の時に王室を出てな、お祖母様から聞かされたサンドエルフを探す旅に出たのだ。

  意外と簡単に住処は聞けたのだが、行くまでが大変でな。

  だだっぴろい砂漠のど真ん中だったからのぅ……

  到達不能極だか何だか知らんが、面倒な所に住居を構えおって」


 えっ……?

 既に話についていけないんだけど?!

 ってことは、メリアもサンドエルフだったの?!


 「意外そうな顔をすぐ表に出すでない。

  思考を読まれるのは戦闘でも不利に働くぞ。


  儂は王家の者共を見返す為、儂を捨てた事を後悔させてやる為に若いながら懸命に不死の道を探った。

  その中で、他の怨嗟の指輪を見た事もある。

  エルフの樹木化がもしも呪いなら、その呪いを指輪に吸収させられるかもしれぬ。

  その術式が分かれば不死への道も開けようからな」


 重要そうなキーワードがポンポン出てくる。

 ボクらが旅をしたのは何だったのか……

 最初からメリアに聞けばほとんど解決したのではなかろうか。


 「だが、その計画に約200年の歳月をかけたが目処めどは立たなかった。

  それからアテのない日々を各地旅して回った。

  その時だ、かのランデルバール城塞の元となった大遺跡に不可思議な物があると聞いたのは。

  向かっている最中に変な人間4人組に絡まれてな、本当にエルフいた! などと好奇の目を向けられたのだ。

  自分達は転移者だから役に立つ、こういう能力を持っているから一緒に旅をしてくれないか、俺の女にならないか、とな」


 ゲーム感覚で適当に誘ったにしても適当すぎる!

 仮にも異世界の人なんだし……


 「その中にはロクな能力持ちがいなくてな。

  つまらんから全部殺したのだ。

  下手に強い人間を野放しにしても面倒になるからのぅ」


 蟻を潰してしまってな、くらいの適当な殺し告白。

 このPTの人材って意外と殺伐としてない?!

 先が不安になってきた。

 

 「それから50年ほど遺跡近くで過ごして監視いたのだが、ロクな人間はおらんかった。

  ……ある時、近くの街の酒場でナンパされたのじゃ。

 『君はつまらない能力を持っているがエルフだろう? 一緒に飲まないか?』とな。

  長い耳を髪に隠してバレないようにしていたのだがな。

  彼は能力解析と”こぴぃ”と”でりぃと”を持っていると言っていたよ。

  ……そう、お主と同じタイプの能力者だったのだ」


 同じ能力を持っている人がいる可能性は知っていた。

 だが、全く同じという訳でもない。


 「申し訳ないですが、ボクにはデリートなんて能力はありません。

  嘘でもなんでもなく、本当に無いんです」


 「まぁまぁ、話しはまだ途中なのだ。

  焦るのはお主の悪い癖じゃ。


  それで色々聞いてな、”でりぃと”と言う能力は、能力を消す能力、なのだと言っていた。

  それを聞いて閃いた。

  もしもエルフの樹木化が呪いの類で、消す能力で消すことが可能ならば……儂は死を逃れる事ができる。

 

  サンドエルフの里に行き、体が一部樹木化した者を見せると

 『これは確かに呪いの類らしい、ギフト項目が追加さている』

  そう言って、人間の手をひねるように……

  あぁ、エルフのことわざをそのまま使ってもわからんな。

  弱者の手をひねるように、簡単に除去しおった」


 なるほど、話しが見えん。

 順序立てて説明してくれているのだろうが、理解と納得が追いつかなかった。


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