105.財産管理の苦労
約1ヶ月ぶりとなる常連になった宿に着くと、伝言を預かっていると呼び止められた。
相手は雷冴だった。
『醤油くれる約束だっただろ!
どこ行ってんだよ!!
宿屋フェステーに泊まってるから見たらすぐ来い!』
と殴り書きされていた。
懐かしくて読みやすいひらがなと漢字だ。
別の宿だったのでマナポの空き瓶2本に醤油を入れ、さっそく向かった。
そろそろ日が沈む頃なので、いるとは思うのだが……
到着すると、結構質素な宿だった。
ビジネスホテルのような寝て起きれれば良いような雰囲気がある。
呼び出してもらうと、おっせーよ! と駆け寄って来た。
隣には褐色肌にする化粧を落とした白い肌のラリリスもいる。
さっきまで宿の中をキョロキョロしていたボクを見ていたのか、雷冴が焦ったように喋り始めた。
「いつ帰ってくるかわっかんねーし、行き先もわかんねーし。
でも醤油持ってるのオメーだけだからさ。
しょうがねーから受け取ったらすぐ出られる宿にしたんだよ」
なるほど、他に目的地があるならコストは安い方が良いかもしれない。
結構現実的な考え方の持ち主なのだと感心した。
遅くなって申し訳ない、と醤油ボトルを2本渡すと嬉しそうに眺めていた。
その表情を見たラリリスも静かな笑顔で、よかったねぇ、と子供をあやす様に頭を撫でている。
結構お似合いのカップルなのかもしれない。
「あんま持ってないって言ってたのに、2本くれたから許してやるよ。
じゃあ、俺らは観光旅行に行ってくるから。
なんかあったらギルド経由で依頼出せよな。
結構ボッタくられるから、注意しとけ」
最後に忠告までしてくれるなんて親切な人だ。
結構仲良くなったのかもしれないと嬉しくなって自分達の宿に戻った。
夕食後、給料はまだか! とバーレンからせっつかれたので渡す事にした。
確かに1ヶ月くらい経過しているので、渡す時期だ。
それにバジリスクで結構稼いだし全員頑張ったので多めに渡すべきだろう。
各自に金貨7枚ずつ渡すと、バーレンから苦情が入る。
「大将、もうちょっと貰えると期待してたんですよ俺は!
40匹倒したし素材も売って結構稼いでたじゃないですか。
倍は払ってもバチは当たらないと思いますよ!」
仮に14枚x6人だと84枚。
実に儲けの半分近く持っていかれてしまう。
基本的に宿代、装備代や道具代などの雑費は全部ボクが出している。
イラッとしたので反論した。
「おう、わかった。
じゃあ全員に3倍の21枚ずつ渡す事にしよう。
その代わり、宿代から装備代などボクは今後一切出さないからな!
石化治療薬をバーレンは20本使ったので単価が金貨2枚だから40枚マイナスがあるぞ。
それからダメになった装備代もろもろ合わせて逆に金貨23枚払ってもらえるか?」
少し怒った表情をしながら内訳を説明すると、貰えるだけで嬉しいです! と平身低頭したので許す事にした。
女性陣は”こいつに金勘定で逆らうとロクな目に合わない”という黙って従う姿勢で対照的だった。
結局、今回は特別頑張ったからと全員に合計金貨10枚ずつ渡す事にした。
砂漠で汗水大量に流しながら大変な目に合ったので、少なく渡しすぎたかな? と不安になった部分もある。
給料が少ないと不満が貯まるけど、行動資金は残しておきたい。
買い換える装備代もバカにならないのでPTリーダーは大変だと痛感した。
残金は金貨530枚くらいだ。
急な出費が続かない事を祈りながら眠りについた。
討伐や移動疲れもあると思い、2日の休暇を言い渡す。
ボク自身が色々確認したい事があるから自由行動したい! というのが本音だ。
全員安心した様子だったので、まだ疲れが残っているのだろう。
シャリアが相変わらず他のメンバーに慣れないので一緒に行動する事になった。
他の子供が肩車されているのを見て、思い出したようにせっついてきた。
カワイイ子の頼みなので黙って頷いて肩車してあげると、ご機嫌になってはしゃいでいる。
いつも馬車引きでお世話になっているから安いものだ。
カチューシャを買い与え、角が装飾品に見えるように配慮した。
人型だとまだ目立たない長さの角なのでフードをかぶれば大丈夫だが、いずれ長くなってしまう。
ガラス越しに見える自分を見て、物珍しそうにチラチラ確認している。
「どうだ? シャリアかわいいか?
惚れたか?」
かわいいよと頭を撫でて誤魔化したが嬉しそうだった。
どこかの幼女と違って素直で本当にかわいい。
PTの癒やしだ。
自分の目的であるレンツィア商会に顔を出すと、受付嬢が焦ったように奥の部屋に消えた。
奥から副番頭ポルタフが出てきて応接室の方へ誘うような仕草をしたので頷いて向かった。
「前回から1ヶ月ほどでしょうか。
申し訳ありませんが、在庫は前より一層足りない状況なのです」
席に着くとポーションの件だと思っているらしく謝られた。
違う用件で来たと訂正し、魔砲を取り扱っていないか尋ねる。
しかし、ポルタフの表情は一層青ざめてしまった。
「もちろん取り扱っております……
大変心苦しいのですが、魔石が入ってこないのです。
そもそも採取されにくいのもありますが、鉱山の経営陣が直接国に流しているようなのです。
魔砲単体ならご用意できるのですけど……」
ボクは2つの魔石をテーブルに置いて、付けられる魔砲がないか聞こうと思った瞬間。
ポルタフの顔が歓喜と狂気に染まるのを見た。
「こんな素晴らしい魔石をどこで!!?
2つとも買い取りたいのは山々ですが……
こちらのスクエアカットの物を金貨5千枚でいかかでしょうか!?」
ゲッ?! 25億?!
なにがどうなってるんだ……
売るつもりは無いので断ろうとすると、では1万枚では?! と食い下がってくる。
自分で魔砲用として使いたいだけだと言うとガックリと肩を落とした。
需要拡大で高騰しているのかもしれないが、魔石が非常に高価な物だと知った怖い日だった。




