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102.砂船の航海


 船首から前方に伸びている長い棒の先に、黄色く光るカンテラが揺れている。

 他に光といえば夜空の月と星々だが意外と明るい。

 それでも初めての夜の船旅は、不安と期待で落ち着かない。


 他のメンバーは落ち着いたもので、メリアとルティスは風に揺れる髪と横顔が1枚の絵のように美しい。

 出会った時は2人とも短めの髪だったが、気付けば肩の下まで伸びている。

 結構長い間一緒にいるんだなと実感した。

 シャリアは船首で楽しそうに声をあげ、プレダールとバーレンはもう寝息を立てていた。


 みんな肝が座っていると感心する。

 リーダーが落ち着かなくてどうするんだ……

 戒める自分の気持ちとは裏腹に高揚を抑えられなかった。


 船頭のディグダが話しかけてきた。


 「服部様、まだまだ現地へは時間がかかります。

  20ノットほどの速度(時速・約37km)で安定していますし、モンスターが出たらお呼びしますので休んでいて下さい。

  2~3時間で到着すると思いますよ」


 どこかの学者や約2名のようにスッと爆睡できれば良いのだが、砂船に乗るのも初めてだし寝れるわけがない。

 同じ様に興奮するシャリアやルティスと話しながら過ごした。


 船の後方で光る小さな魔石に時折メリアがマナを送り込んでいるみたいだ。

 メリアに仕組みを聞いた。


 「あぁ、そういえば魔石を入手はしていても使うのは初めてか。

  マナを溜め込む性質のある宝石や鉱石を研磨して作られる。

  カッティングによって出力や安定性が違うらしいが、我も詳しくは知らん。

  一般的な小さい魔石では大気中のマナ吸収量が少ないでな。

  出力が落ちない様にマナを補充してやっていたのじゃ」


 ようは宝石の形をした電池みたいなものか。

 当たり前のようにマナ関連の物に気を配るメリアはありがたい。

 礼を言うと、最近はプレダールにお株を奪われたので悔しかったのかもしれなく、得意になって嬉しそうに笑った。

 

 

 たまに遠くで鯨のような潮吹きが見えたり、砂イルカが船に並走してジャンプしていたり幻想的で心が洗われるようだ。

 異世界に来て、初めて落ち着いて景色を楽しんでいる気がする。


 だが、そんな時間も長くは続かなかった。


 「前方、距離800にサンドワームらしき影!

  迂回します!!

  揺れますので気をつけてください!」


 ディグダが大声で全員に注意を呼びかけガクンと大きな振動が走る。

 魔石の出力を上げ船速がどんどん速くなっていく。

 寝ていたプレダールとバーレンは何事かと飛び起きてパニックになっている。


 こんな真っ暗でよくそんな物が見えるなと感心する。

 良い船頭を雇ったようで少し嬉しいが、のんきにしていられない。

 ギリギリ船尾をかすめたサンドワームは狙いを定めたように追ってくる。


 「昼間はあまり見かけないのですが、マズイですね……

  どなたか遠距離魔法や魔砲を扱える方はいませんか?!」


 ディグダが焦ったように呼びかけるが、誰もそんなものは使えない。

 メリアがスコープの付いた長銃のような魔砲を持って首を傾げている。

 何か閃いたように耳をピンッと立てて1丁ボクに投げてよこした。


 「マナを込めて圧縮して打ち出す筒のようじゃ。

  込めすぎると魔石が暴発するかもしれんから弱めにな!」


 弱めの回復魔法を使うようにマナを込めると赤かった魔石が緑に光る。


 「そのくらいで良い!

  あー……お主まさかとは思うが、回復魔法のイメージはしておらぬよな?」


 なぜバレたのか。

 放出するイメージは回復が1番強いのだから仕方ない。

 回復効果が出るかもしれないから一発捨てろと言われ、そのへんに空打ちした。

 着弾点が緑色に光り小さな木が生えた。

 ……違うイメージって何があっただろうか。


 阿修羅戦で深海の姫が見せた回転ノコギリのようなイメージにしてみよう。

 それを小さく発射する感じで……


 ボクが手間取っている間にもメリアは器用に銃弾を発射していた。

 しかし威力に欠けるようでサンドワームの勢いは衰えていない。

 イメージ通りにできたと思えたボクの銃弾も、豆鉄砲のような小さな弾丸がワームの胴体に吸い込まれただけだった。


 イメージ通りの効果が反映されるのであれば、圧縮した水を発射して着弾すると破裂するようにもできるか?

 マナを込めすぎないようにも気をつけないといけないし、厄介だ。

 発射するとイメージ通りにはなったが、炸裂した面積が狭すぎる。


 「ディグダさん!

  もっと大きな口径の物はありませんか?!

  これでは巨大な敵に対して威力が小さすぎます!」


 「そうは言っても……大口径の魔砲はありますが……

  前の船主が置いていった物のようですが、魔石がついていません。

  これでは使い物になりませんよ」


 手渡された大型手筒花火のような太さの筒は、確かに魔石が取り外されていた。

 大事な物用のアイテムパックにゴーレムと阿修羅から取った魔石がある。

ゴーレムの魔石は大きく薄いカッティングなのでハマらないが、阿修羅の涙型魔石はカチリとハマった。


 よし、あれだけ大きな物を動かすだけの魔石なんだ。

 相当量のマナを流し込んでも大丈夫だろう。

 しかし、筒や反動が耐えられるだろうか……?

 後ろを確認していると前衛2人が近づいてきた。


 「大将、よくわかんねーけど大砲ぶっ放すんだろう?

  俺らがどうにかすっからやってくれ」


 ルティス・バーレンが並んでクッション役をやってくれるらしい。

 そこまで大げさな反動は無いと思いたいのだが、1発目を打ち出す。

 後ろからバーレンのうめき声が聞こえた。

 筋力強化魔法をしていなかったのでメリアに補助を頼みながら着弾を見守る。


 サンドワームの大きな口が1/5ほど吹き飛んで逃げていった……



 これならボクでも攻撃魔法が打てるぞ!

 できれば、もう少し小型で反動が少ないタイプが良いのだが……

 結果に興奮しているボク以外は、またイカレた事をしでかしたように冷めた目線をしていた。


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