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1.寝起きは最悪


 服部ハットリ 晴樹ハルキ 26歳。

 ボクは特に突出した趣味もないし特技もない。

 強いて特徴を言えば、不幸を引き寄せる体質な気がしているくらいだ。

 

 仕事は転々としている。

 言われた通りにやっているはずなのに上司に罵倒されたり、気がつけば周囲に嫌われたりの人間関係が原因である。

 所謂いわゆるコミュ障なのかというと、そうでもないと自分では思っている。


 職場で流行っている楽しくないソシャゲを休憩時間に誰かとプレイしたり、なるべく輪に入ろうと努力はしているつもりだ。

 楽しいフリをし、誰かを褒め、頼まれれば手伝い、愛想よくしているはずなのだが……


 

 今日も人間関係のもつれで会社を自己都合で退職してきたところだ。

 30歳も目前というのに将来に希望が見えない。

 いっそ大地震が起きたり隕石が落ちてきたり異世界に飛んだりすれば面白いのに……

 と思いながらも、明日は早起きしなくて良い!という若干の開放感を胸に布団に入った。




  くるくると坂を転がり続ける夢を見ている

 もがきたいけどなにかに縛られているように体が動かない

 平坦な地面まで転がり落ちたはずが体がゆさぶられている……地震か?!




   バシャーン!



 「お前らさっさと起きろ!」


 顔に大量の水をかけられたと同時に大声がした。

 軽くパニックになりながら目をこすって起き上がる。


 ボクの3メートル前には黒い鎧を着た肌が真っ白から薄紫色、額から角が2本生えてる大きな女性が2名。

 ……まるで鬼のようだ。

 寝ている間に死んで地獄に落ちたらしい。不幸だ……

 ボク隣にもう1人、30代くらいのオッサンが立っている。


 だが、鬼のような女性2人はとても整った顔立ちをしている。

向かって左側は燃えるような赤い髪をラフにオールバックにしていて、キツめな表情をしている。


 右側は透けるような薄い桜色の髪が印象的だ。

 中央から分けた髪が顎のあたりまで伸びていて、後ろ髪は縛ってまとめているようだ。

 ニッコリとした柔らかい表情をしている。

 2人共、綺麗なお姉さんという感じだ。

 背が2m4~50ありそうだけど……


 真っ赤な髪の女性が、ボクらを見据えて面倒くさそうに口を開く。


 「いくつか質問をする!

  そちらの質問はこちらが話終わってからだ!」


 隣にいたオッサンが、これ夢だろ?とぶつぶつ言いながら2人の鬼に近づいていく。

 女性2名は、お前は人の話しが聞けねーのか!と注意を促している。

 確かに夢ならいいんだけど……

 オッサンは、結構リアルな夢だな胸もデカいし俺好みだ、と笑いながらオールバックの女性の胸を触る。


 左手でビンタしたかと思うと、オッサンの頭は胴体と離れ血が噴き出していた……

 やばい、これはヤバイぞ……

 顔から血の気が引くのを感じる。

 桜色の髪の女性が、赤髪に食ってかかった。


 「ちょっとデリン!

  すぐ殺すのはナシにしようって言ったでしょ!」


 「話しが通用しねー馬鹿はムダ飯食うだけだ。

  それに我慢した方だろ?」


 パイタッチと命が等価交換とは、恐ろしい世界に来てしまった……

 黙って相手の命令に従う方が良さそうだ。

 なるべく印象を悪くしない様にピシッと気をつけの姿勢をする。

 初めて目の当たりにする死体に、めまいがしそうだ。


 デリンと呼ばれた向かって左側の赤髪の女性が、真剣な眼差しでこちらを見つめ直す。

 溜息をついてから話しを再開した。


 「ギフトと発言し、項目の数を言え!

  そしてもう一度ギフトと発言しろ!」


 言われた通りに発言すると、ゲームのスキルのような画面が出てきた。


 ― 能力解析

 ― コピー


 項目は2つしかなかったことを告げ、もう一度ギフトと言うと項目が閉じた。

 デリンと呼ばれた女性が、悔しそうに地面を踏みつける。


 「また星2かよ!!!クソッ!」


 「だから私がやった方がいいって言ったのにー」


 「ソラルはこないだ回しただろ!」


 「デリンは、ずっと星2しか出してないじゃーん」


 なんだか急にゆるい雰囲気になって楽しそうだ。

 星2と言っていたけど、ボクの見えてる画面の端には星が3つある。

 色々やってたソシャゲでは星2だろうが星3だろうがカスだ。

 星4や5ならともかく、3では大差ないだろうから会話に割り込んでまで言うのはやめた。


 ちょっとほっといて良さそうだし、周囲を見回す。

 周囲は石造りの城だと思われる大きな建築物で、その中庭にいるようだ。

 近くに滝があり、ゴーッという音がしていて水が勢いよく流れ落ちている。

 足元には、寝ていた時のボクの布団が水浸しになっていた……



 デリンが、フンッと言ってこちらを向いた。


 「ここはお前らの言う所の異世界だ!質問はあるか?!」


 「ここは地獄じゃあないけど、今は負け戦濃厚の地獄みたいな状況だよー」


 デリンはとっても機嫌が悪そうだが、ソラルはニコニコと楽しそうに絶望的な状況を追加してくれた。

 経験的に、機嫌の悪い上司に的を射ない質問をしても火に油だ。

 しかし、ギフト、異世界、負け戦濃厚、というキーワードしかない状態で、相手の機嫌が良くなるような天才的質問はできない。

 とりあえず申し訳なさそうな顔と態度で乗り切ろうと試みる。


 「大変恐縮ですが、質問したいことが多数あります。

  お手数かけて申し訳ないのですが、何か書くものを頂けませんか?」


 2人は顔を見合わせて訝しむ。

 なんだこいつ? いつもと違うね? とボソボソ言いながら部屋に案内してくれた。



 小部屋に案内され、パピルスのような黄ばんだ紙と羽ペンとインクがあるテーブル前に座らせられる。

 目の前に若干機嫌の良くなったデリンが座り、少し大きなソラルは立ったままだ。

 落ち着いて近くで見ると2人の体は本当に大きいし、威圧感が凄い。


 「で?質問は?」


 デリンは鋭く伸びた爪で、木製のテーブルをコツコツと鳴らしている。

 圧迫面接も真っ青な怖さを感じる。

 世間話で軽く前置きをする空気では無さそうだ。

 負け戦濃厚というキーワードが気になるので戦況を聞いていく。


 大鬼人オグル軍と呼ばれる自軍は500人

 武器は棍棒がメインで少数の弓と剣

 敵軍は5000人

 籠城戦をして半年経過

 食料が残り1週間で底をつく

 

 なるほど絶望的だ……

 異世界転移できたと思ったら死ぬ運命が目の前にあるだけ!とかハードモードすぎない???


 しかし、ギフトと呼ばれる特殊能力が自分にすら付与されているし、説明慣れしている様子から他に何人かいるだろう。

 その能力の使い方次第ではどうにかなるのではないか?


 「自分以外の、ギフト持ちの人間の数と能力を知りたいのですが……」


 「5人くらいいるから後で部屋まで案内する。

  能力は知らん!奴らは、やる気がないしな!」


  デリンはドンッとテーブルを叩きイライラしている。

  まずい! 地雷ワードを踏んだ!!!

  だが、もっと聞きにくいことが残っている。

  聞かないことには勝てなさそうだし、聞くしかない……


「恐縮ですが、敵軍に負けた戦の内容をお聞かせ願えますか?」


 デリンは、顔を真っ赤にさせてギリッと歯を鳴らす。

 漏らしそう! 殺される!!!

 反射的に目を瞑ってしまったが、死んでないみたいだ。

 薄目を開けると、デリンは顔をそむけた。


 「ソラル、文官と地図だ。

  こいつは多少やる気があるみたいだしな、用意してやれ」


 はーい、とソラルは陽気な表情でドアから出ていった。

 こんなイライラしてる殺人鬼と密室に2人なんて嫌だ……置いていかないで欲しい。

 しかし、よくよく見るとデリンは端正な顔立ちだ。

 切れ長の目、白目の部分が黒で瞳は赤、左頬に炎のようなデザインの入れ墨がある。

 姉御って呼んでみたい!

 普通に会話できれば嬉しいんだけど……


 「デリンさんは目つきが鋭くて美人ですね」

 

 「あぁ?! バカにしてんのか!」


 褒めたはずが、またしても地雷を踏んでしまった。

 ソラルさん……早く戻ってきてください……






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