チート
泉が杏奈に話しかける。
「杏奈様、どんな問題解いてるの?」
「泉、うるさか!勉強中に話しかけるな!」
杏奈は、嫌そうな目で泉を見た。
泉は杏奈に近寄り、身体を傾け杏奈の問題を覗き込んだ。
「これ?大学入試?」
泉は、不思議そうに杏奈に聞いた。
「知らんったい。父ちゃんが作った問題やりよるだけやけん。」
杏奈は、ぶっきらぼうに答える。
「そう言えば勘八くんが、杏奈はIQが高いから、小1〜大学受験問題まで全部やるぞって言ってたっけ。」
杏がフォローを入れる。
「杏奈様ー!凄ーい!チートじゃないの!!」
泉が杏奈を褒めちぎる。
「杏ー、やっぱり杏奈様は勘八くん似ね。小2でここまで解けるなんて将来有望じゃないの。私も大学受験の時頑張っちゃったから、ギリギリ分かるけど。でも、杏奈様のペースでは解けないわ。」
泉が感心して、目をキラキラさせながら杏に話す。
「うん。杏奈の頭の良さは勘八くんの遺伝だと思う。私は、高校辞めてモンモン産んだ後に大検取ったんだけど、さっぱりわからないのよ。たまに簡単そうな問題があっても引っ掛け問題だったり。あはは。」
杏は、少し寂しそうに笑う。
「ごめん…。」
泉は、心配そうに杏を見た。
「そういうつもりじゃないの。」
杏は、慌てる。
「杏は、高校の同級生とは会うことある?」
寂しそうな顔の正体が気になって、泉はちょっと突っ込んで聞いてみた。
「高校どころか、中学の頃の友達も小学校の頃の友達とも滅多に会わないわ。
あれだけ仲良くして、公園を走り回ったり、プリクラ撮ったり、ドラッグストアで化粧品買ってみんなでお化粧してみたり、毎日のように遊んでたんだけどね。
結婚して、子供まで産んじゃうと途端に誰も話してくれなくなった。
友情なんて、あっけないものよ。」
杏は、泉に気を使わせないようにニコニコしながら話す。
その姿が痛々しくて、泉は泣き出してしまった。
「うわーん。
ごめんね。杏ー。
私が変なこと言ったばかりに。」
「いいのよ。泉。
気にしないで。」
また寂しそうな顔をして杏が返事をする。
「ううん。私が悪いの。
土下座するわ!」
「え?な…、泉!」
「私、デブだけど、デブの土下座を受け入れて!!」
「ちょ…、待って!」
泉が勢いよく立ち上がると椅子がガガーっと凄い音を立てて倒れた。
「泉!いっきまーす!」
杏が静止するのもつかの間、泉が床に額を付け土下座した。
杏奈まで一緒になって必死に止めたのに。
デブにとって、杏と杏奈の力など造作もなかった。
泉は、土下座の体制のまま顔だけ上げ杏の目ををしっかり見て言った。
「私!!杏と一生友達でいる!
杏が私を嫌いになっても私は勝手に友達だと思ってる!
この気持ちずっと変わらないから!」
「泉…。」
杏はあっけにとられた。
泉は、必死に続ける。
「私、杏のこと好きよ。
杏を初めて見た時、乙女ゲームの主人公そっくりで、ここはゲームの中の世界かとぽーっとなって声掛けた。
杏は、そんなヲタクのデブにも優しくしてくれた。
この子。マジ天使!
憧れの乙女ゲームの主人公と話せるなんて、この奇跡!一生忘れないって思ったわ。
最初はただそれだけだったけど、私みたいな巨体のデブと友達になってくれて、杏のこと知るたびに乙女ゲームの主人公そっくりってだけじゃない。
それ以外の杏の魅力がわかったの。
私、裏切らないから!
血判状でもなんでも書くから!!
子供産んだとか今までの生活が変わっただけで裏切る奴ら、女として大嫌い!!
私をこれからも杏の友達でいさせてください!」
「…。」
ポロポロと杏の頰を熱いものが伝った。